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146 「巣鴨への道、二人の春」


支度が整い、玄関で靴を履いていると、謙はまいに声をかけた。

「まい〜、車で行くか?」


すると、まいはにっこりと笑いながら、首を横に振った。

「謙、歩かないと体力つかないから、電車にしよ〜。運動しないと、ダメだよぉ〜!」


その言葉に、俺は素直に頷いた。

「はい、わかりました。」


外に出ると、春の陽射しが眩しく、空気が少し暖かく感じられた。

太陽の光がやわらかく降り注ぎ、季節が春へと移り変わっているのを実感する。


謙が一歩先に外へ出ると、まいが後ろから小走りに追いつき、自然に謙の腕にしがみついてきた。

「よいしよぉ〜。」

少し甘えたような声に、謙は照れくさくなった。


「謙、今日も気持ちいい日だねぇ。」

まいは柔らかい笑顔を浮かべて、空を見上げている。

春の陽気に包まれたその表情は、まるで太陽のように明るく、眩しかった。


二人は並んで歩き、最寄りの駅へと向かった。

巣鴨まではJRですぐの距離だ。


電車に乗り込むと、まいがふと思い出したように言った。

「ねぇ、謙。久しぶりにとげぬき地蔵でも行ってみない?」


「とげぬき地蔵…?」

名前を聞いても、謙の記憶にはその場所のイメージが浮かばない。

記憶喪失の影響だろう。


少し考えた後、謙は軽く笑って言った。

「お参りして、早く記憶が戻るようにお願いしてみようかなぁ〜。」


まいはその言葉にクスッと笑い、優しく言った。

「そんなに焦ることないって!ゆっくりでいいんだよ。」

その言葉に、謙は少し救われた気がした。


電車はあっという間に巣鴨の駅に到着した。

ホームを降りて改札を出ると、目の前には大きな通りが広がっていた。

春の風が心地よく吹き抜け、人々が楽しそうに行き交っている。


まいがその通りを指さしながら言った。

「謙、朝ニュースで言ってた事件、あの道をまっすぐ行ったところなんだよ。」


「あぁ、あの事件のことか。」

謙は今朝のニュースを思い出した。荒川で身元不明の男性の遺体が見つかったという事件。

まいは地元のことをよく知っている。だからこそ、事件が身近に感じられたのだろう。


「まいは地元だから、やっぱり詳しいんだなぁ。」

謙がそう言うと、まいは少しだけ寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。


「うん、昔から知ってる場所だからね。」

その言葉には、どこか懐かしさと哀愁が混じっていた。


二人はそのまま歩き出し、地蔵通りへと足を踏み入れた。

商店街には人々の笑い声が響き、春の陽射しが明るく照らしていた。

まいの腕に感じる温もりが、謙にとって心地よかった。


しかし、謙の胸の中には、まいの一瞬の寂しげな表情が引っかかっていた。

まいの過去、そして彼女の「秘密」とは、一体何なのだろう…。

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