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145 「焼きそばと、まいの秘密」


「謙、今日のお昼は、ご飯と麺、どっちがいい?」

キッチンから顔を覗かせたまいが、明るい声で聞いてきた。

エプロンを身につけたまいは、料理をする時はいつも楽しそうだ。


「簡単なのでいいよ。」

ソファに座ったまま、謙はテレビをぼんやりと眺めながら答えた。


「ダァ〜メ!聞いてるんだから、ちゃんと答えて!」

まいは少し頬を膨らませ、じっと謙を見つめている。

その視線に焦った俺は、肩をすくめて笑いながら


「わかったよ。じゃあ、麺でいいよ。ラーメンとか?」


まいはにっこりと笑って言った。

「何かは内緒です。お楽しみに。」

そう言うと、キッチンへと戻っていった。

「待っててね」

ひらひらと手を振るまいの後ろ姿を見送りながら、俺はふっと笑みをこぼした。

こうしてまいと過ごす穏やかな時間が、俺にとっては心地よかった。


キッチンからは野菜を切るリズミカルな音が聞こえ、まいが鼻歌を口ずさんでいる。

俺はリビングのソファに腰掛け、何となくテレビをつけた。

ニュース番組では、今日の事件が報じられていた。


「本日早朝、荒川の河川敷で身元不明の男性の遺体が発見されました。場所は東京板橋区船渡付近…」


アナウンサーの落ち着いた声が部屋に響いた。

何となく見ていただけの画面に映し出されたのは、警察の規制線と騒然とする現場の様子だった。


「この場所、知ってるよ。」

突然、キッチンからまいの声が聞こえてきた。

振り返ると、まいは手を止め、テレビ画面をじっと見つめている。

「こんなところで殺人事件なんて、信じられない…」

少し震えた声だった。


俺は驚いて尋ねた。

「まい、知ってる場所なの?」


まいは小さく頷いた。

「うん、小さい頃、あの辺りでよく遊んでたんだよ。あの土手の向こうにね、よく鬼ごっこしてた場所があるの。信じられない…早く犯人が捕まるといいね。」

遠い記憶を思い出すように、まいは悲しげに呟いた。


「まい…」

俺は彼女の表情を見つめながら、ふと尋ねた。

「まいの実家ってどこなんだ?」


「実家は、この近くの蓮根ってところだよ。」

まいは笑みを浮かべたが、その笑顔には少し影があった。


「そうなんだ…」

俺はその名前を聞いても、まったくピンとこなかった。

頭の中に地図が浮かばない。

記憶が曖昧な自分に、もどかしさを感じた。


「ちなみに、まいが今住んでるところはどこなんだ?」

軽い気持ちで尋ねると、まいはクスっと笑った。


「謙、ボケたの?ここでしょ。」

ふざけた口調で言うまいに、俺はもつられて笑った。


「謙、ちゃんと覚えててよ!実家は蓮根、そしてまいが借りてる住まいは巣鴨!わかった?」

まいは人差し指を立てて念を押すように言った。


「わかった、わかった。」

俺は手を挙げて降参のポーズを取りながら、ふと呟いた。

「今日まいの部屋に遊びに行ってみたいなぁ。ご飯食べたら、まいの部屋行こうよ。」


「まいの部屋、何もないよ。」

まいは少し照れたように目を逸らした。


「いいの。まいのこと、いろいろ知りたいから。」

謙の言葉に、まいの頬がわずかに赤く染まった。


「仕方ないなぁ〜でも、いいか。謙なら…見せてあげる。私の秘密。」

まいは照れくさそうに微笑んだ。

その微笑みが、俺の胸をわずかに高鳴らせた。


昼食は、まいお手製の「変わり焼きそば」だった。

麺の上には、ふわふわの半熟玉子焼きが乗っている。

そして、驚いたのは、別のお椀に入ったスープ。

「これ、つけ麺みたいにして食べるの?」

俺が尋ねると、まいは誇らしげに頷いた。


「そう!焼きそばをこのスープにつけて食べるの。ちょっと変わってるけど、試してみて?」


謙は焼きそばを箸で掴み、スープにくぐらせてから一口食べた。

スープの旨味と、焼きそばの香ばしさが絶妙に絡み合い、口の中に広がった。


「これ、うまい!」

思わず顔を上げると、まいは嬉しそうに目を輝かせていた。


「本当?よかった〜。ちょっと実験的だったけど、気に入ってもらえて安心した!」


「まい、焼きそばは知ってるけど、つけ麺風は初めてだよ。これ、俺、好きだな。」


まいは笑顔で頷きながら、照れくさそうに言った。

「良かったぁ。謙にそう言ってもらえると、また作りたくなるな。」


食卓に広がる、まい特製の焼きそばの香り。

笑顔と共に、穏やかな時間が流れていく。


彼女の「秘密」って一体なんだろう…。

つい、微笑みがこぼれた……


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