138 第二章 【少しずつずれだす歯車】
消えた記憶と愛する人の嘘
これから第二章に入ります。
謙と舞子が向き合うことになる“真実”とは何なのか。
彼らを取り巻く人々の思惑が交錯し、隠された事件の真相が少しずつ明らかになっていきます。
そして――
謙と舞子の関係は、どこへ向かうのでしょうか?
知らず知らずのうちに渦の中心へと引き寄せられていく彼ら。
その先に待ち受けるものとは……。
「2週間の記憶」
気がつくと、まいは俺の肩にもたれかかったまま、穏やかな寝息を立てていた。
無防備な寝顔があまりにも無邪気で、思わず微笑んでしまう。
その姿を見ていると、不思議と心が安らぎ、日常の疲れさえも和らいでいく気がした。
まいを起こさないよう、そっと腕を回して抱き上げる。
その軽さに少し驚きつつも、静かにベッドルームへと運んだ。
ベッドに優しく横たえると、まいの唇が微かに動いて、「ありがとう」と呟いたように聞こえた。
思わずドキリとしながらも、毛布を肩まで掛けてあげて、静かに囁く。
「おやすみ、まい。」
その瞬間、まいの表情が一瞬だけ柔らかくほころんだ気がした。
安心したような、その顔を確認してから、俺は静かに部屋を後にした。
リビングに戻ると、照明をダウンライトに落とし、柔らかな光に包まれる。
静寂のなか音楽を再生した。
選んだのは、やはりUruの曲——。
今の自分にとって、思い出に寄り添う音楽はUruしかないからだ。
淡いメロディが部屋中に広がり、切ない歌声が静かに響く。
こんな夜にこの曲を聴くと、過去の記憶が次々と蘇りそうになる。
だが、今の俺には、思い出せる過去がたった2週間分しかない。
その事実が、寂しさと悔しさを交互に胸に押し寄せてきた。
なぜ、俺は記憶を失ったのか——。
事故が原因なのは確かだ。だが、それだけでは説明がつかないことが多すぎる。
昨日の出来事を思い返す。あの事故は本当に偶然だったのか?
もし、あれが故意に仕組まれたものだとしたら……。
俺は殺されかけた——。
けれど、なぜ命を狙われる必要があったのか?
原因が全く思い出せない。
人事課の俺が、命を狙われる理由なんてあるわけがない——普通なら。
だが、普通じゃない何かが確かに起きているとしたら….
その原因に辿り着けない自分自身に、苛立ちが募っていく。
手がかりは何もない。
答えに辿り着けないことへの焦燥感を、どうやって消化すればいいのか——。
Uruの歌声が静かに部屋を包み込む中、俺は目を閉じ、悶々とした思考を巡らせていた。
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