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131 「不自然な連鎖」


朝の署内はまだ静まり返っていた。

薄暗い蛍光灯の下、篤志はすでにデスクに座り、資料の山に目を落としていた。

机の上には昨日集めた情報が無造作に積まれている。


「これを全部まとめて、矛盾を見つけなきゃ……」


頭の中には、橘の言葉が反響していた。


「慌てるな」


だが、篤志は慌てざるを得なかった。

あまりにも不自然なことが多すぎる事が……


グループ内で立て続けに起きた事故。

どれも一見、ただの不運な出来事に見える。

だが、その裏には何かがある。


偶然にしては、出来すぎている。


橘は冷静にそう言ったが、篤志はその言葉の意味を自分なりに探したかった。

橘さんが言うのが正解だとしたら……

何かが、この連鎖の裏に潜んでいる。

そして、それを暴かない限り、次の「事故」が起きるのではないかという不安が消えなかった。


カツン。


足音が静かなオフィスに響いた。

振り返ると、橘が少し遅れて入ってきた。


「おはよう、篤志」


「おはようございます」


橘は手に持っていた缶コーヒーを篤志に差し出した。


「ほらよ。スタバじゃないけどな」


「ありがとうございます」


缶コーヒーを受け取りながら、篤志は橘の顔を覗き込んだ。


「橘さん昨日はご馳走様でした」


「たいした事ないよ。また行こうな」


「はい、またお願いします」


橘はいつもと変わらない落ち着いた表情をしていたが、その目は鋭く、どこか張り詰めているようにも見えた。


「篤志、頑張ってるなぁ」


「いぇいぇ、そんなことないですよ」


「あまりこん詰めるなよ」


橘の優しげな口調に

篤志は曖昧に頷いた。


「橘さんは今日は?」


「別の加害者の身辺を調べてくるよ」


「そうですか……」


篤志の視線が資料の山に戻る。

ページをめくるたびに、頭の中で点と点が繋がりそうで繋がらない。


「でも、この事案、本筋はなんなんですかねぇ」


橘が腕を組み、窓の外を見つめながら呟いた。


「今はまだ肝心なところが分からないよなぁ。

でも、不自然なことが多すぎる」


橘の声が低く響いた。

その瞬間、やっぱり橘さんの勘なんだなぁ


「何度も言うが不自然なことが多すぎるんだよなぁ

それに上司達の行動…

単なる事故では済まされない違和感を感じるんだよなぁ」



「報告書に記された内容、上司たちの証言の矛盾、そしてグループ内で続く不可解な出来事。」


「今、なんとなく分かっているのは事故の件ですよねぇ」


「なんでグループ内で、1年で似たようなことが続いているのか。

社内で問題にならないのも不自然だしなぁ」


橘の言葉に、篤志の手を止めながら


なぜ、こんなにも立て続けに「事故」が起きるのか。

それに、なぜ社内はそれを問題視しないのか。


まるで、「何か」 がこの事態を隠そうとしているような感覚。


篤志も、この事を考えると疑問がどんどん膨らんできたのを感じた

まるで空気が重くなったかのように


——何かが、この裏に潜んでいる。


「俺、橘さん。絶対この資料から手がかりを見つけ出しますから……」


篤志の決意に満ちた声が静かに響いた。

その目は資料に釘付けになっている。


橘はそんな篤志をじっと見つめ、少しだけ口元を緩めた。


「篤志、なんか最近、たくましくなったなぁ」


橘の微笑みは一瞬だった。

その直後、表情はすぐに引き締まり、目の奥に鋭い光が宿った。


「じゃあ、俺は行ってくる」


橘は背を向け、ドアに向かって歩き出す。

その後ろ姿を見送りながら、篤志はふと


「橘さん……」


声をかけようとしたが、言葉は喉で詰まり、音にならなかった。

橘の背中が見えなくなった瞬間、部屋に不気味な静寂が訪れた。


篤志は缶コーヒーを手に取り、寒さを感じながら一口飲んだ。

その温かさと苦味が、やけに重く感じられる。


——この先、何かまた起こるんじゃないか…


不安を振り払うように、篤志は資料に目を戻した。

ページをめくる手に力が入るのを自分でも気づいていた。


「俺が……この謎を暴いてみせる」


静かな部屋の中、篤志の決意だけが響き渡っていた。


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