128 「甘い期待と静かな夜」
「謙、今日は昼間に豪華なランチを食べたから、夜は軽めにしたよ」
テーブルに並べられたのは、香ばしいあじの干物、新鮮なサラダ、ふわふわの卵焼き、そして具沢山の味噌汁。
質素ながらも心が温まる、まいらしい夕食だった。
「まい、味噌汁うまい」
謙は一口すすり、思わず顔をほころばせる。
「ありがとう」
まいも柔らかく微笑んだ。
「今日はこれくらいがちょうどいいかなって思って。なんだか味噌汁が飲みたくなってね」
「最高だよ」
謙の言葉に、まいは少しだけ照れくさそうに目を伏せた。
食事を終え、2人はリビングでお酒を飲みながら今日の出来事を振り返っていた。
買い物のこと、ドライブ中に見た景色、ちょっとした言い合いまで、どれも思い出すと笑い合える。
夜が深まるにつれて、まいの頬はほんのり桜色に染まっていった。
ふと、謙が立ち上がった。
「まい、俺、先に風呂入ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
謙が浴室に向かう後ろ姿を見送ったあと、まいは小さく息を吐いた。
今夜、謙と……
まいの胸はなぜか期待に高鳴っていた。
どうしたんだろう私
2人きりの静かな夜のせいなのかなぁ
なんか今夜は特別な夜に感じる…
謙がお風呂から出てきて、
まい、どうぞ
うん、これ片付けちゃうね
そう言うと
先にベット行ってるね、まい
まいは、片付けを終えると自分の胸の高鳴りを抑えるように浴室へ向かった。
謙が使った後の湯気が残るバスルーム。
ほのかにシャンプーの香りが漂い、謙の気配を感じて思わず頬が赤くなる。
何を考えてるんだろぉ〜私、期待してるのかなぁ〜
謙は、今ベッドで私を待っているのかなぁ〜
それとも、待ちきれなくて、いきなりキスされたりして……
髪の毛を丁寧に洗い、肌が滑らかになるようにクリームをたっぷりと塗る。
いつもより時間をかけて、全身を綺麗に整えた。
「謙、今何してるのかなぁ〜」
そんな事を考えながら
バスタオルを一枚だけ巻いて、鏡を覗き込む。
湯上がりの肌はピンク色に染まり、髪はしっとりと艶めいている。
自分でも驚くほど、色っぽく見えた。
謙、どんな顔するかなぁ〜
ドキドキしてくれるかなぁ〜
まいは胸を抑え、期待と恥ずかしさで目を潤ませながら、ベッドルームに向かった。
部屋のドアを静かに開け、バスタオルを直しながら甘い声で囁く。
「お待たせ……」
薄暗い部屋の中、ベッドの上に横たわる謙が見えた。
その無防備な姿を見て、まいの胸はさらに高鳴る。
謙、きっと私を待ってるんだよね
まいは、そっと謙の隣に滑り込み、静かに体を寄せた。
「あのね、謙……まいのこと、触っても……いいよ?」
緊張と期待を込めて、甘く囁いた。
その声は震えていて、自分でも驚くほど緊張しているのがわかった。
あれ?
まいは静かに謙の顔を覗き込んだ。
謙?
謙は、すやすやと寝息を立てていた。
その無邪気な寝顔を見て、まいはしばらく唖然としたあと、頬を膨らませてムッとした。
「……もう、私がこんなにドキドキしてたのに……」
呟いてみたものの、すぐに優しい微笑みに変わっていく。
謙も、今日は疲れてるんだよね……
大きな事故を避けた緊張感や、あの荷物を一人で運んでくれたことを思い出すと、怒る気持ちなど消えてしまった。
「……謙、今夜はゆっくり休んでね。おやすみ」
そう囁いて、まいは謙の唇に優しくキスをした。
そして、そっと腕の中にもぐり込んだ…
謙の体温を感じながら、静かに目を閉じた。
おやすみ、謙……
まいは、優しい微笑みを浮かべたまま、謙の温もりに包まれて眠りについた。
静かな夜、甘い期待と穏やかな寝息が、2人の距離を優しく埋めていた。




