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125 「夜景とふたりの時間」


「まい、そろそろ家に帰るか?」


「うん」


夜の冷たい潮風を背に、俺たちは駐車場へと向かって歩き出した。

歩いているうちに、まいが自然に俺の腕に腕を回し、そっと寄り添ってきた。


俺は驚くこともなく、そのままの距離を保った。

まいがこんなにしおらしいのは珍しい。今夜はどこか特別な空気が漂っていた。


車に乗り込み、エンジンをかける。


「さて、行こうか」


「謙、帰りの運転、大丈夫?」


まいが心配そうに顔を覗き込む。


「もちろん」


俺は軽く笑って答えた。


高速道路に乗り、制限速度を守りながらゆっくりと夜景を眺める。

急ぐ理由なんてない。ただ、この瞬間を長く味わいたかった。


都内に入り、銀座の煌びやかな街並みが視界に広がった。

ネオンが反射するガラスの壁、きらめく街灯が美しく輝いている。


「綺麗……上から見ると、こんな風に映るんだね」


まいは目を輝かせ、まるで子供のように窓の外を見つめている。


「謙、今度銀座に行こう」


「どうした、急に」


「知ってるお店があるの。雰囲気が良くてね、前からずっと……一番大切な人と行こうって決めてたの」


俺はハンドルを握りながら、思わず微笑んでしまった。


「謙、行きたい?」


まいは少し照れたように聞いてくる。


「行ってあげてもいいよ」


俺はわざと意地悪っぽく、少しからかうように答えた。


「もう!そこだよ、謙!なんで女心がわかんないかなぁ〜!」


まいは頬を膨らませ、ぷりぷりと怒っている。

けれど、俺にはそれが可愛くて仕方がなかった。


「こういう時はね、『行ってみたい』とか、『必ず行こう』とか、そう言うべきでしょ!なんでわかんないかなぁ〜!」


まいの小言を聞きながら、俺は心の中でほっとしていた。

さっきまでのしおらしい雰囲気が消えて、いつものまい節が戻ってきたからだ。


「謙!なんで黙ってるのよ!早く答えなさいよ!こういう時はなんて言うの?」


「……あ、流れ星!」


「えっ!?どこどこ!?」


まいは驚いて窓の外を必死に探し始めた。

その様子があまりにも純粋で、俺は思わず大笑いしてしまった。


「謙、嘘でしょ〜!?」


まいは目を丸くして振り向き、すぐに頬を膨らませる。


「もう、そんなに私をからかって楽しい?」


「はい」


「も〜う、口きかない!しかとするからね!もう何もしてあげないんだから!」


まいはぷいっと顔をそむけ、頬を膨らませたままムッとしている。

その様子がまた可愛くて、俺は笑いをこらえるのに必死だった。


「ごめん、ごめん。冗談だから」

「まいとなら、いつでも、どこでも行くよ。だから機嫌直して?」


「……し〜らない」


まいは拗ねたまま、けれどどこか楽しそうな笑みが口元に浮かんでいた。

その表情を見て、俺はますます愛しさが込み上げてきた。


夜の銀座の街並みが、ふたりの笑い声に溶け込んでいく。


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