117 「終わりたくない時間」
買い物は、それからも続いた。
最初は一つ一つしっかり選んでいたつもりだったのに、いつの間にか「まいがこれどう?」と聞いてくるたびに、「いいかも」と適当な相槌を打つようになっていた。
「謙、たくさん買っちゃったね」
両手に袋を抱えたまいが、満足そうに笑う。
俺も思わずその顔を見て笑った。
「そうだなぁ。でも、たまにはいいよな。いつもこんなに買い物するわけじゃないし」
「うん、だよねぇ! それに、謙の服だけじゃなくて私のも買えたし、すっごい楽しかった!」
まいはまるで子供みたいに無邪気な笑顔を見せた。
そんな姿を見ると、こっちまで幸せな気分になってくる。
買い物の途中はさすがに疲れたと思ってたけど、まいの笑顔を見ると「まあ、いっか」と思えてしまうから不思議だ。
「はぁ〜あ、今日はこれで終わりか〜。時間が経つの早すぎぃー!」
「確かになぁ……」
気づけば空はすっかり暗くなり、御殿場の山々の向こうには無数の星が輝いていた。
街の明かりから少し離れると、空はまるでプラネタリウムのようで、思わず見惚れてしまう。
「まい、お腹すいた?」
「ううん、さっきケーキ食べたから平気! なんで? 謙はお腹すいたの?」
「いや、そうじゃない。ただ、このまま帰るのがなんか勿体ない気がしてさ」
「……うん、わかる。同じ。私もそう思ってた……」
まいが小さく頷く。
この時間が終わるのが、少し寂しい……
そんな気持ちを共有できているのが嬉しかった。
「今夜は澄み切った夜空だから、帰りは遠回りして帰ろうか。夜のドライブ?」
俺がそう提案すると、まいは一瞬きょとんとしたあと、ぱっと顔を輝かせて俺の腕にしがみついてきた。
「うん! 行く!」
「いや、ちょっと待て待て。荷物がすごいから今は無理、歩きにくい……」
俺が慌てて言うと、まいはピタッと動きを止め、少しムッとした顔で俺を見上げた。
「……謙はすぐムード壊すんだからぁ〜」
そう呟いて、頬をふくらませる。
俺は苦笑いしながら「ごめん、ごめん」と謝った。
でも、そんなふうに拗ねるまいも可愛くて。
きっとこの夜は、まだまだ終わらない気がしていた。




