112 「楽しいランチタイム」
まいが、お店をいろいろ検索して
ここにしよう!
やっとお店が決まった。
ここはお寿司、丼もの、フライ、さらにはひつまぶし風の料理まで揃っている。
まいは得意げに胸を張り、「ここしかないでしょ!」と自信満々。
「なるほどな、さすがリサーチ済みって感じだな」
「でしょ〜?」
中を覗くと、案の定人気店らしく混んでいる。
「結構並んでるな」
「でも大丈夫! きっとタイミングがいいの!」
まいの言葉通り、運よく4人テーブル席に案内された。
「謙、よかったね!」
まいが満足そうに微笑む。
「本当だな。まだ11時なのに、もうこれだけ混んでるってすごいな」
「さてさて、何食べよっかな〜♪」
メニューを覗き込みながら、まいはウキウキしている。
俺もメニューをめくりながら、「何か気になるのある?」と聞いてみた。
「美味しいもの!」
即答するまいに、俺は苦笑い。
「そうじゃなくてさ、例えば『これ家で真似して作れそう』とか、『帰りに買って帰ろうかな』とか、なんかそういうのない?」
「んー……考えたことなかった!」
まいは目をぱちくりさせながら、メニューとにらめっこしている。
「そっか。じゃあ、まい、ホヤ食べたことある?」
「ない!」
「じゃあ、これ一つな」
「えぇー!? なんか見た目すごいけど……」
「大丈夫、美味しいから」
「じゃあ、アジフライは?」
「アジフライならいつも食べてるよ?」
「じゃあ、アジフライ一つ」
「ちょ、ちょっと待って! 私そこじゃない!」
「いいから」
まいが口を尖らせるのを見て、俺は笑う。
「まいは好きなの頼めよ。俺は俺で食べたいもの頼むから」
「……むぅ。じゃあ、にぎりと海鮮丼、どっちにしようかなぁ」
「悩むなぁ……なかなかここまで来れないし」
「そんなこと気にするなよ。来たかったら毎週でも連れてくるからな」
まいは驚いたように俺を見つめ、ちょっと照れくさそうに笑った。
「バーカ、無理しちゃって」
「まいが喜んでくれるんならね」
「じゃあ……スペシャル海鮮丼に決定!」
「俺はにぎりで」
つまみも何品か頼んで、いよいよ食事の時間だ。
「まいはビール?」
「もちろん!」
「じゃあ俺はノンアルで」
「乾杯!」
グラスを合わせると、まいがニヤッとしながら言った。
「謙、初心者ロングドライブ完走おめでとうって言ってくれないの?」
「おいおい、それ俺のセリフだろ?」
「えへへ、こんなのたいしたことないも〜ん! もっと遠くまで行けるよ! 今回楽勝だったし♪」
「でもさ、これからは帰りの運転はいつも俺なんだろ?」
「謙、今日冴えてるぅ〜! 大正解!」
「はは……全く、まいなんだからなぁー」
俺は苦笑しながらグラスを傾けた。
料理が運ばれてくる。
「おぉ、きたきた! これがイカの活き造り!」
「えっ、これ……動いてる!? すごい!!」
まいは目をキラキラさせて興奮している。
「食べてごらん」
まいはおそるおそる箸を伸ばし、口に運ぶ。
「……! すごいコリコリしてる! 初めての食感!! でもめっちゃ美味しい!」
「だろ?」
「じゃあ、アジフライもいってみろよ。きっと食べたことない感覚だぞ」
まいは興味津々でアジフライに箸を伸ばし、ソースをつけて口の中へ。
俺はまいの反応を見ながら、思わず微笑んでしまった。
「謙!! このアジフライやばい!!」
「……やばい?」
「ホワホワで、肉厚で、表面がサックサク! これ、アジフライじゃないよぉ〜!!」
「まい、それアジフライだから」
俺は笑いが止まらなかった。
まいの反応があまりにもわかりやすくて、ただ見ているだけで幸せな気持ちになっていた。
「謙も食べなよぉ〜! 本当に美味しいから!」
その時、まいがふと手を止めた。
「……あれ?」
「どうした?」
「謙、なんで知ってるの? 記憶喪失なのに!」
俺は一瞬固まった。
……確かに。言われてみれば、なんで知ってたんだろう?
「うーん……なんでだろうな」
すると、まいは急に笑い出した。
「おい、なんで笑うんだよ」
「だって、人って美味しいものは体で覚えてるって言うじゃん? だから、謙も大事なことは忘れても、食べ物のことは忘れいのかな〜って!」
「それ、結構きついぞ……」
そう言いながらも、俺はつられて笑ってしまった。
食べること、笑うこと――
こうして、ただ楽しい時間を過ごせることが、今は何よりも幸せだった。




