表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/361

109 「富士山と、ありのままの二人の想い」


しばらく車を走らせていると、目の前に大きな富士山が姿を現した。

空はどこまでも澄み渡り、雲ひとつない快晴。まさにドライブ日和だ。


「謙!謙!富士山!見える?ねえ、見える?!」


運転しながらまいが興奮気味に俺に話しかけてくる。

そのはしゃぎっぷりが子供みたいで、思わず笑ってしまった。


「目の前にドーンとあるんだから、嫌でも目に入るって」

「大丈夫、ちゃんと見えてるから。だから、まいは運転に集中な」


「わかってるよ〜!」


そう言いながらも、まいは満面の笑みで富士山をチラチラと見つめている。


「ねえ、謙。私の運転、怖くないでしょ?」


「……まあな」


「でしょ? だから安心して! なんか、こんなに運転してて楽しいの久しぶり!」


言葉の端々に、心の底から楽しんでいるのが伝わってくる。

そして、ふっと少しだけ真剣な表情になって、まいが続けた。


「やっぱり、謙が隣にいてくれないとダメだなぁ」


「それは、俺がまたバカだからって言いたいんだろ?」


俺がからかうように言うと、まいはすぐにぷくっと頬を膨らませた。


「違うよぉ〜!」


そう言ってから、少し照れくさそうに、でもしっかりとした声で続けた。


「謙といると、本当の自分でいられるの。全部さらけ出せるっていうか……どんな私でも、謙は笑って受け止めてくれるでしょ? だから、緊張しないでいられるんだ」


まいの突然の本音に、俺は思わず言葉を失った。

なんて答えたらいいのか、すぐに言葉が出てこない。


それを察したのか、まいは急にムッとして怒り出した。


「ちょっと、謙! あのさぁ〜

なんで返事しないのよぉ〜?! そこ、すごく重要なとこなんですけど!!私が必死にいいこと言ってるのに、もしかして迷惑なの?!」


怒りながらも、どこか拗ねたような顔で俺を睨む。

まいらしい反応だな、と思いながら、俺は微笑み、優しく言った。


「違うよ……嬉しくて、言葉に詰まったんだ」


「……え?」


まいの顔が、一瞬でしおらしくなる。


「昨日とか、まいの様子がなんか違ってて、不安だったんだ。でも、それは俺の勘違いだったんだなって思って、ほっとした。今日、ドライブに来て本当によかった」


まいは俺の言葉を聞いて、少しだけ視線をそらした。


まいは何かを言おうとしたけれど、結局何も言わなかった…それでも横顔は穏やかで心のどこかで安心したのが伝わってくる。


いつもの元気いっぱいのまいとは違い、

その横顔を見て、俺は自然と微笑んだ。


気がつくと、富士山がまるで二人を見守るように、静かにそびえていた。




私、きっと、この景色と、この時間は、一生消えない瞬間……



俺の人生でこの時間は大切なひとコマになったにちがいない……



二人はそれぞれの想いを胸に抱きながら、車は静かに進んでいく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ