106 「笑顔の休憩時間」
渋滞もなく順調に進み、無事に最初の目的地・海老名サービスエリアに到着した。
「まい、疲れたか?」
車を停めてハンドルから手を離しながら、まいは笑顔で首を横に振った。
「大丈夫だよ!」
そう言って車を降りると、背筋をピンと伸ばし、両手を思いっきり上に伸ばして「あぁ〜っ!」と大きく伸びをする。
その無防備な仕草がどこか可愛らしく、それでいてほんのり色っぽさも感じさせて、思わず見とれてしまった。
——その視線に気づいたのか、まいがこちらをチラッと見て、にやりと笑う。
「……なに? 何よ? 何見てんのよ?」
その笑顔には、どこか悪戯っぽい色が混じっていた。
「謙、また変なこと考えてるんでしょ? 変態!」
いきなり鋭いツッコミが飛んでくる。
「ははっ、違うって! ただ……」
「ただ?」
まいがじぃ〜と下からの目線でこちらを見る。
完全に疑ってる。
「おまえ、よ〜く見ると、やっぱり美人だなぁって思ってさ」
俺が真顔でそう言うと、まいの表情が一瞬で固まった。
「——はぁ?」
みるみるうちに頬が赤く染まっていき、
「バカ……! こんなとこで何言ってんのよ、恥ずかしいじゃん……!」
と、もじもじしながら視線を逸らす。
「もう謙はバカなんだから……バカバカバカ!」
照れ隠しなのか、軽く拳を連打してくる。
「痛っ、ちょっとバカ言いすぎだろ!」
「バカが悪い!」
「俺の何がバカなのか言ってみろよ」
「……そういうとこがバカ!」
ツンツンした様子で怒ってるのに、頬はまだ赤いまま。そんなまいが可愛くて、つい笑ってしまう。
「ほら、もういいから行くよ!」
そう言うとまいは俺の腕にもたれかかるように寄り添い、そっと俺の右手を握ってきた。
その温もりが心地よくて、つい自然に言葉がこぼれる。
「……やっぱり、おまえは可愛いな」
まいは何も言わず、でも嬉しそうに微笑んだ。
こうして寄り添い合い、言いたいことを言い合っていると、不安なんてどこかへ消えていく。
フードコートやお土産コーナーをふたりで歩きながら、あれこれ見てはしゃぐ。まいは「これ美味しそう!」と目を輝かせたり、「これ懐かしい!」と楽しそうにはしゃいだりして、まるで子供のようだった。
俺も、そんなまいにつられて笑う。
本当に楽しい時間——。
このまま、ずっとこうしていられたらいいのに。
そんなことを思いながら、トイレを済ませ、次の目的地・沼津へ向かう準備を整える。
「まい、大丈夫か?」
「うん!」
「よし、じゃあ行くか」
助手席に座る俺に向かって、まいがにっこりと笑った。
その笑顔があまりに眩しくて、俺はふっと目を細める。
こんな風にふたりでいる時間を大切にしたい……
そんな思いを抱きながら、まいの運転する車は再び走り出した。




