104 「揺れる気持ち」
なぜ、俺はまいをドライブに誘ったのだろう。
それは、まいが何かを1人で考え込んでいる姿を見るのが辛かったからだ。彼女が何を思い、何に迷っているのか、それを考え始めると、どうしようもなく胸の奥がざわつく。この不安をどうにかしたかった。
まいが運転に集中していれば、少なくとも今は何も考えずに済むんじゃないか——そんな単純な理由で、俺はこのドライブを提案した。
でも、それは甘かったのかもしれない。
助手席に座り、ハンドルを握るまいの横顔を見ていると、俺の中の不安はどんどん膨れ上がっていった。まるで形のない霧が、ゆっくりと心を侵食していくように。
「まい、どう? 楽しい?」
気を紛らわせるように聞くと、まいは少し笑って答えた。
「うん、私、運転好きなんだよね」
「そっか」
「運転してる時は、何も考えないでいられるから……」
——その言葉に、胸がざわつく。
【何も考えないでいられるから】
それはきっと、まいにとって何気ない一言だったのだろう。深い意味なんてなかったのかもしれない。
でも、俺にはどうしても引っかかってしまった。
「何を考えたくないんだ?」
昨夜から、俺はまいの心の内を知りたくて仕方がない。まいが何を抱えているのか、なぜ時折ふっと遠くを見つめるのか——そんなことばかり考えてしまう。
俺は一体、どうしてしまったんだろう。




