100 「橘の疑念」
橘には、昨日からどうしても引っかかっていることがあった。
謙のことだ――。
3月頃、謙はまるで病気を患ったかのように急激に痩せていた。
最初は仕事のストレスかと思ったが、どうもそれだけでは説明がつかない。
そして、ふとある事実に気がついた。
朝比奈麗子の死亡事故と、謙が痩せた時期が重なっている。
偶然か? それとも何か関係があるのか?
だが、謙にはまいという恋人がいる。
あの2人の仲の良さを考えれば、朝比奈麗子との間に特別な関係があったとは考えにくい。
むしろ、そんなことはありえないと言ってもいいだろう。
「……でも、何かあるのか?」
橘は机に肘をつき、軽く指先でスマホを叩いた。
考えていても答えは出ない。
直接聞いてみるか――。
スマホを取り出し、謙にメッセージを打ち始めた。
【謙太郎、おはよう。
早速だけど、まいちゃんに聞いたか?
お前があの時期に痩せた理由――
もし何かわかったら教えてくれ。
できたら早めに頼む。】
送信ボタンを押すと、橘はふぅっと軽く息を吐いた。
さて、次は加害者3人の現状を調べるか――。
彼らは執行猶予付きの判決を受けている。
今、どこで何をしているのか?
そこから何か新しい情報が浮かび上がるかもしれない。
そう考えながら、橘は立ち上がり、部屋の暖房を切ると足早にドアを開けた。
冷え込む廊下を歩きながら、彼の頭の中ではすでに次の推理が組み立てられ始めていた。




