49 二度目のプロポーズ
「わぁ……!」
街の灯りがまるで無数の星屑のように輝き、街を美しく彩っている。
いくつもの窓辺から漏れる光――きっとその一つ一つに、それぞれの物語があるのだろう。
先日リアナと訪れた大聖堂は、街の中心に力強くそびえ立っている。その尖塔は夜空を突き抜け、星々と一体となっているかのようにも見えた。
静かに流れる運河は、月の光に照らされてまるで銀のリボンのようにきらめいている。
下町の建物は古き良き時代の面影を残し、歴史の重みを感じさせてくれる。
街の中心から少し離れた場所には、きらびやかな宮殿がそびえ立っている。
今宵も宮殿の中では華やかな舞踏会が催されているのだろうか。
美しく夜空を彩る星月夜と、人々が紡いできた歴史と温かな営みを感じさせる街の灯りが合わさって……まるで宝石箱のようだった。
「……こんな光景は、初めて見ました」
心からの称賛を込めて、エレインはそう口にする。
隣に立つユーゼルは、その言葉に満足げに笑みを深めた。
「喜んでもらえたようで何よりだ。……この景色を君に見せたかった」
そう口にしたユーゼルの声は、存外真剣味を帯びていた。
エレインが驚いて彼の方へ顔を向けると、彼もこちらを見ていてばっちり視線が合う。
「過去の戦についての知見も、流行りのオペラも、我が国の誇る料理も、この美しい光景も……すべて、君と共有したかった」
ユーゼルの翡翠のような瞳が、美しくきらめいている。
どんな星々の輝きにも、負けないくらいに。
「……初めて、俺たちが出会った時のことを覚えているか」
不意に、ユーゼルがそう問いかけてきた。
……記憶を反芻するまでもなく、エレインは頷く。
「えぇ、もちろん。忘れるわけがありませんわ」
最初は、酔っ払いをぶちのめした自分に求婚するなんてとんでもない男だと思っていた。
彼の前世に気づいてからは、積もり積もった恨みを晴らそうと必死になっていた。
だが、彼と時間を過ごすうちにどんどんと自分の感情に迷いが生じていき、今は――。
「あの時の君は、まるで戦乙女のように勇ましく美しかった。一瞬で心を奪われたよ。だが――」
ユーゼルが一歩こちらへ足を踏み出し、二人の距離が縮まる。
それでもエレインは逃げずに、真っすぐに彼を見つめ返した。
「君と共に過ごすうちに、ますます君に惹かれていった。まるで底なし沼に沈んでいくようだ。……聞いてくれ、エレイン。今は、あの時よりもずっと君を愛している」
その言葉が、エレインの胸を熱くさせる。
ユーゼルはそっとエレインの手を取り、その場に跪く。
「初めて出会った時は、どんな手を使ってでも君を手に入れたいと必死で……思えば君が反発するのも当然だ。……形だけの妻でも構わないと思っていた。君が傍にいてくれるのならそれでいいと思っていたんだ。だが……俺は思ったよりも強欲だったらしい」
そっとエレインの手の甲に口付け、ユーゼルは恭しく告げる。
「……エレイン。あらためて、俺の妻になってほしい。ただ結婚という形を成すだけでなく、心まで君と結ばれたいんだ。どうか、俺を選んでくれ」
……いつもあれだけ余裕に満ちた男が、今は切実にエレインの愛を乞うている。
その姿は、エレインの胸を切なく締め付けた。
「……ユーゼル」
そっと名前を呼ぶと、ユーゼルが顔を上げこちらを見つめる。
「正直に言うと、私……まだ、心の整理がついていないの」
前世と今世を、完全に切り離すことができないのだ。
この先ユーゼルを愛したとしても、シグルドへの憎悪を忘れることはできないだろう。
果たしてそんな状態で、彼の隣に立つことが許されるのだろうか……。
そんな想いの籠ったエレインの言葉を、ユーゼルは少し違う意味に捕らえたようだ。




