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37 光そのもの

「おはようございます、お姉様! 本日はわたくしの我儘に付き合っていただき感謝いたします!」

(うっ、可愛い……!)


 翌日、朝一番に迎えに来たリアナの愛らしさに、エレインはポーカーフェイスを保ったまま内心で悶絶した。

 本日のリアナは、いかにも「良家のご令嬢」といった可愛らしさ全開のドレスを身に纏っている。

 本人の可憐さもあいまって、まるで春の花のように見る者の表情をほころばせるだろう。


「ふふ、今日一日エレインお姉様を独占できるなんて……お兄様に嫉妬されちゃいそうです」

「ぁ……」


 リアナがユーゼルの存在に言及した途端、エレインの脳裏に先日の彼との諍いが蘇る。

 愛らしいリアナに「実は今あなたのお兄様と揉めてます」などと悟らせたくはなかったが、エレインの態度でリアナも何かを察したのかもしれない。

 深く追及することなく、そっとエレインの手を握ってくれた。


「……お姉様。お姉様がここへ来てくださって、わたくしとても嬉しいです。先日の婚約披露パーティーではあんな事件もありましたし。お姉様もお疲れですよね。だから、今日は……思いっきり楽しんじゃいましょう!」

(あぁ、この御方は本当に……)


 その明るい笑顔に、優しい瞳に、何もかもを許し包み込むような美しい心に。

 誰もが惹きつけられずにはいられない。跪かずにはいられない。

 今も昔も、彼女はエレインにとっての光そのものだった。

 できることなら今すぐ跪いて忠誠を誓いたいが、お出掛けに誘った義姉(予定)にそんなことをされてもリアナも戸惑ってしまうだろう。

 鋼の心で忠誠を誓いたくなるのを堪え、エレインは淑女の笑みを浮かべてみせる。


「ありがとう、リアナ。私も、あなたと一緒に出掛けられるのを楽しみにしていたの。今日はよろしくね」

「はいっ! お任せください!」


 花が咲くような明るい笑みを浮かべるリアナを愛おしく思いながら、エレインはそっと微笑んだ。





「まずは王立美術館に向かいませんか? わたくしのお勧めスポットなんです!」

「あっ、あのブティックで新作のドレスが展示されてますね。お姉様によく似合いそう!」

「ここは王都の中でも老舗のカフェなんです。公爵邸のパティシエが作るデザートも大好きなんですけど……やっぱり外で食べると気分が変わりますよね!」


 くるくると表情を変えるリアナを見ているだけで、エレインは満ち足りた気分だった。

 教養としての知識は頭に入っているが、実は芸術の良し悪しはよくわからない。

 新作のドレスは、自分よりもよほどリアナの方に似合っていると思う。

 カフェで口にしたデザートは……うん、リアナの言った通り公爵邸のパティシエの力作デザートに引けを取らない味だった。

 少しかみ合わない部分はあるが、エレインはなんだかんだでリアナとのお出掛けを楽しんでいる。

 ブリガンディア王国はこの地方の中でも一番の大国だ。

 エレインの故郷、フィンドール王国よりもよほど活気があり、あらゆる点で技術が進歩している。


(なるほど、魔法技術がない部分はこうして補っているのね……)


 すぐれた魔法技術により繁栄を築いていた前世の故郷とはまた違い、エレインは行く先々で興味深く観察を続ける。


(そういえば、リアナは魔力持ちなのよね……)


 前世とは違い、この時代の人間で魔力を持つ人間は非情に少ない。

 リアナはそのうちの稀少な一人だとブリガンディア王国に来る前から聞いていた。

 しかし、ここに来てから彼女が魔法を使っている場面を見たことはない。


「ねぇ、リアナ」

「なんでしょう、お姉様」

「実は、リアナが魔力持ちだと聞いたのだけれど……」


 エレインの耳に届く情報なのだ。別に、リアナとて隠しているわけではないのだろう。

 そう思い軽い気持ちで尋ねると、彼女はきょとん、としたのち得心がいったように答えてくれた。


「はい。一年ほど前に神官様がそう仰られました。でも、神官様によれば私の魔力はまだ眠っているそうで……実は、自分ではあまり『魔力持ち』がどういうものなのかわからないんです」

「あら、そうなの?」

「えぇ。早くお兄様やエレインお姉様のお役に立てるようになりたいのですが……」


 この時代において、魔力持ちの人間は希少だ。

 リアナが潜在能力を開花させれば、それこそあらゆる人間が彼女を欲するだろう。

 ガリアッド公爵家としても、またとない外交用のカードになるだろうが――。


「……リアナは、そのままでいいと思うわ」


 エレインの言葉に、リアナは驚いたように目を丸くした。

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