23 ターゲットは侯爵令嬢
「なるほど……ね」
公爵邸の優秀な侍女たちは、あっという間に情報を集め、まとめてくれた。
一人自室で手に入れた情報を分析し、エレインはより効率的に暴れてくれそうなターゲットを絞り込む。
「それにしても、ほんっっとユーゼルってモテるのね……!」
侍女の用意してくれたリストには、ユーゼルにアタックして玉砕した女性の名前がずらりと並んでいる。
諦めて別の相手と婚約した女性もいれば、今現在も諦めずに狙っている女性も多いのだとか。
「まったく……あんな奴のどこがいいのよ」
あの余裕に満ちた笑みを見てもエレインは苛つくだけなのだが、どうやら世の女性は「ミステリアスで素敵……!」と舞い上がるものらしい。
何度もユーゼルにしてやられたことを思い出し、エレインはギリ……と奥歯を噛みしめた。
(ふん、「とんでもない悪女」を婚約者に選んでしまったと、評判を落としてやるんだから!)
そのためにも、婚約披露パーティーでは頑張らなくては。
慎重にリストに目を通し、エレインはターゲットを見定めていく。
この中で、一番うまく反感が煽れそうなのは――。
「ノーラン侯爵令嬢グレンダ……彼女ね」
報告書によれば、グレンダは同年代の貴族令嬢たちのリーダー的な存在であるらしい。
幼い頃から何度もユーゼルにアタックしていたが、まったく相手にされていないとか。
性格は高位貴族の令嬢らしく、プライドが高く自信家――。
「いいじゃない……! 思いっきり、私のことを憎んでもらうわよ……!」
まさにうってつけの人物が見つかり、エレインはにやりと口角を上げた。
さて、今までは借りてきた猫のようにおとなしくしていた(つもりの)エレインだが、そろそろ形から悪女になっても良い時期ではないだろうか。
(思いっきり浪費してやれば、さすがに私の悪評も立つでしょうしね)
古今東西、傾国の美女に入れ込んだ権力者が失墜するというのはよくある話だ。
湯水のように金を使えば、きっと周囲の者はエレインを「とんでもない悪女」だと認識し、そんな女を婚約者として迎え入れてしまったユーゼルに失望するであろう。
というわけで、エレインは張り切って公爵家の財を浪費してやることにした。
「今度の婚約披露パーティーで着るドレスのことなのだけど、わたくし、この国の流行には疎くて……比べてみたいので、この国で有名な仕立て屋を何人か呼んでいただけるかしら?」
「はい、今すぐにでも!」
すぐに侍女たちが手配を進めてくれ、エレインは来る日も来る日もドレスの試着に明け暮れた。
「見て! このドレスとっても素敵だわ! でも、前に似たような色を買ったばかりだし……」
「問題ございません! 前回のはセレストブルー、今回のドレスはゼニスブルーにございます。きっちり差別化できております!」
「そうなの? なら……こちらも頂くわ」
「さっすが次期公爵夫人はお目が高くていらっしゃる!」
ポイポイと次から次へとドレスを購入するエレインに、仕立て屋たちはいつも上機嫌で公爵邸から帰っていくのだ。
エレイン専用の衣裳部屋も、あっという間に埋まってしまう。
(……おかしい)
いまいち違いのわからないセレストブルーとゼニスブルーのドレスを見比べながら、エレインは眉根を寄せた。
(どうして、誰も文句を言ってこないの……?)
これだけ浪費を続けているのだから、そろそろ誰かがエレインの行動を咎めても良い頃ではないか。
そんな風に考えていると、部屋に入ってきた侍女に声をかけられた。
「エレイン様、少々よろしいでしょうか」
「えぇ、構わないわ」
「公爵閣下が、エレイン様にお話があるとのことです」
(きたー!!)




