表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

殿下の看病

「ここは……」

鳥の鳴き声で目が覚めた。やけに身体が重い気がする。でも、頭だけはハッキリしていた。


「私……また倒れてしまったのね」

トンマーゾのお願い事が、私の心を再びボロボロにした。あれから何日経ったのかはわからないけれど、許してはいけない事だと、今ならハッキリわかる。あんな願いを聞き入れるべきではない。

「私って、男性を見る目がないのかしら?」


ふと、人の気配を感じて周囲を見るが誰も居ない。少しだけ顔を起こす。

「どうして?」

ベッドに突っ伏したように眠っているアダルベルト殿下がいた。窓から差し込む陽の光で金色の髪がキラキラしている。


「綺麗だわ」

そっと髪に触れた。サラサラとしてまるで絹糸のような髪は、私の指をすり抜けるように落ちた。

「……ん。サーラ」

今ので起こしてしまったのか、殿下が身じろぐ。


ゆっくりと顔を上げた殿下。金色の瞳が、髪に負けない程キラキラしていた。

「サーラ?」

「はい。あの、おはようございます」

「サーラ……おはよう。随分とゆっくりだったね」


泣いてしまうのかと思った。驚いた私は殿下の頬にそっと手を添えた。驚いたのは殿下もだったようで、金色の瞳を大きく見開いていた。

「申し訳ありません。殿下が泣いてしまう気がして」


「ああ、サーラ。君がもう少し起きるのが遅かったら、きっと私は本当に泣いていたと思うよ。目覚めてくれてありがとう」

頬に添えていた手を、両手で優しく握りしめた殿下は、もしかしたら泣いていたのかもしれない。


コンコンコンコン。

小さなノック音と共に現れたのはお母様だった。

「殿下、交代しますから少しは……サーラ?」

「おはよう、お母様」


枕元まで近づいてきたお母様は、私の額を触りほっと息を吐いた。

「良かった。すっかり熱が下がっているわ。体調はどう?」

「身体がとても重いけれど、頭はスッキリしているわ」


「そう。良かった。食欲は?」

「果物が食べたいわ」

「わかったわ。今用意するから。その間にお風呂でさっぱりするのはどう?」

「是非。なんだかベタベタして気持ち悪かったの」

「汗をたくさんかいたもの」


気を利かせた殿下が立ち上がった。

「じゃあ、私は少しの間退散するよ」

「殿下、サーラの支度が整ったらお呼びしますから。少し休まれたら如何ですか?」

明らかに疲れた雰囲気の殿下を心配しているのだろう。


「殿下、私が呼びに参りますから、待っていてくださいますか?」

「サーラが?」

「はい」

にこやかに微笑む殿下。

「わかった。ではそれまでは少し休むことにするよ」

静かに部屋を後にした殿下の後ろ姿はやはり疲れて見えた。



「私のせいね」

湯に浸かりながら呟く。

「アダルベルト殿下は、お嬢様の事を本当に心配なさっておいででしたから。旦那様が休むように言っても、お嬢様を看病するんだって大変でしたよ」

その時を思い出したのだろう。笑いながら侍女が教えてくれた。


「そういえば私、どのくらい眠っていたのかしら?」

「丸三日ですね」

「そんなに?」

「お熱がなかなか下がりませんでしたので」


ああ、私ってこんなに弱かったのね。少し鍛えた方がいいかもしれない。湯から腕を出して力こぶを作ってみる。

「お嬢様、そういうことではないと思いますよ」

侍女には私が考えた事が、丸わかりだったようだ。



身支度を整えて、用意されていた殿下の部屋の扉をノックする。しかし、返事は返って来なかった。

「眠っているのかもしれないわ」

少し時間を空けてから呼びに行く事にした。


果物を食べて、エルコレと再会を果たし、友人から届いていたお見舞いのカードの返事を書いて、再び殿下のいる部屋を訪れた。しかし、やっぱり返事はない。少し心配になり、行儀が悪いがそっと扉を開けて部屋を覗いた。

「……可愛い」


扉の先にはベッドが見え、こちら側に身体を向けて穏やかに眠っている殿下の顔が見えた。好奇心に負け、そっと近づいてみる。2歳年上なのもあってか、普段は大人びて見える殿下だが、眠っているとあどけなさが残っている。

「殿下も私の寝顔を見ていたのだし……いいわよね」


傍にあったイスをベッドのすぐ脇に持って来て座った。サラサラの金の髪が顔にかかっていたのをそっと直す。身じろぎした事に驚いたが、殿下はそのまままだ眠り続けていた。


そんな寝顔を見て、愛しいと思った自分の気持ちにびっくりする。でも同時に納得もした。こんなに大事にしてくれる人を好きにならない訳がないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ