激しく熱かりし勝負、決着
地面から離れる彼女の肉体。
しかし元は凡人並みの俺の運動神経。
吹っ飛んだ距離は微々たるものだ。
これでは攻略法を実行できない。
それに魔力の消費も激しい。
ブライとの戦闘前だというのに。
せめてこれ以上の魔力消費は避けたい。
追加で召喚術は使えない。
「ガルーダ、来い!」
召喚済みのモンスターに頼るしかない。
序盤に召喚した大量のモンスター。
幸い、彼らは今も拮抗を続けていた。
俺の指示を受け飛来するガルーダ。
シズマの召喚したワイバーンが追ってくる。
「上空に吹き飛ばせ」
低空飛行から一気に上昇し仕掛ける。
空高く突き上げられるシズマ。
「カハッ……!!」
嘴が腹部を抉るように突く。
速度もかなりついていた。
先程飛んでいた場所よりも遥かに高い空中に、彼女は放り投げられる。
あの位置なら落下にも時間がかかる。
大声でガルーダに追撃を指示した。
しかし、それは阻まれる。
ワイバーンがガルーダに追いついたのだ。
今はガルーダを頼れない、ならば。
「グリフォン!!」
呼びかけに応え、グリフォンが駆け寄る。
距離を図り俺はその背に飛び乗った。
背後にはバジリスクが迫っている。
「突っ込めグリフォン!」
風を切り裂き、空を駆け上る。
点のように小さく見えていたシズマの現状が少しずつ見えてくる。
翼は展開していない。
恐らくは体力維持が目的だ。
サキュバスは魔力がそのまま体力になる。
ハーフとはいえシズマも同様だろう。
となると、恐らくこれは好機だ。
俺の予想は確信へと変わる。
「イフリート!」
加えて彼女も俺と同じ戦法。
召喚済みモンスターで防御を図った。
燃え盛るイフリートの拳が眼前に広がる。
『させません……わ!』
声がする。
眼下には迫り来るバジリスク。
だがその横に小さな影が見えた。
満身創痍のカナスタだ。
召喚解除による消滅を堪え、バジリスクにしがみついて蔓をイフリートへと伸ばした。
蔓の絡みついた拳はその軌道を変える。
『行きなさい!』
「カナスタ!?」
『まだ、保てますわ!!』
捨て身の行動で道は開かれた。
しかしバジリスクの追尾も執拗だ。
飛べないはずなのに、巨大な身体を伸ばして俺達の背後へと牙をかけようとする。
このままでは追いつかれる。
グリフォンにとっても俺はお荷物だろう。
それに、これだけ勢いがあればいける。
「俺一人で行く」
一瞬、躊躇いが伝わってきた。
対して俺は「気にするな」と声をかける。
投げ出される俺の身体。
地上へと駆け戻るグリフォンの後ろ姿。
それを追い離れていくバジリスク。
確認を終え、再び前方へと向き直る。
「させるか!!」
落下してくるシズマ。
手に持つのは長剣。
ごく普通の鉄製剣に似た魔術の剣だ。
恐らく効果も何も無い。
俺とシズマの距離は再びゼロへ戻った。
「上空なら回復もできない」
「よく、気づいたね!」
これが俺の策だった。
思いついたのは回復の瞬間。
全ての場面において、その時だけは彼女は絶対に地面へ足をつけていた。
白亜の地面から魔力を供給している。
ただし肉体が地面に触れている時のみ。
しかも恐らく回復は任意での発動。
自動的な回復では無い。
地上から離れている間は回復できない。
つまり、空中で片付ける。
「やって……みろ!!」
挑発するように彼女は叫ぶ。
体勢の安定しない落下中の戦い。
落下までの僅かな時間で体力を削りきる。
距離が離れるたびに詰める。
守りなど考えない。
攻め続けるのみ。
「う……っ!」
シズマの顔に現れる疲労。
ガルーダの突進が響いたか。
今だ——!
ありったけの一撃を食らわせる。
「……甘いっ!!」
だが攻撃は阻まれた。
疲労の溜まった表情に笑みを浮かべる。
呆気にとられたその瞬間。
彼女は、全力で剣を振るう。
疲労困憊とは思えない威力。
俺の手から全壊剣が弾き飛ばされる。
みるみる眼下に消えていく全壊剣。
俺は半ば絶望した。
しかし、彼女もそれが限界だった。
「く、っ……!」
シズマの剣も消えていく。
互いに武器を失った。
こうなれば手段は一つだ。
拳を交えた肉弾戦が始まる。
残り魔力の少ないシズマ。
攻撃に以前までの威力が無い。
削りきるのみ。
俺は無心に打撃を加え続けた。
迫り来る地面。
俺も彼女も意識はギリギリ保っているのみ。
地面に激突したダメージで削り切れる。
そうすれば彼女も意識を失う。
意識が無ければ回復もできない。
逃げられないよう、俺は上から彼女の顔面に掴みかかった。
「終わりだッッ!!」
* * * * * * * * * *
『——お疲れ』
当然、ダメージは俺にも向かう。
しかしその傷は数秒経たずに癒えていく。
リッカの治癒魔術だ。
休息で魔力を回復できたらしい。
彼女を休ませて正解だった。
周囲にはリッカとアビス、龍王だけ。
他のモンスターは召喚解除されたらしい。
俺もシズマも同様に。
しかし俺は目を疑う。
離れた場所に倒れていたシズマが、ゆっくりと立ち上がったのだ。
「っ……!」
俺も立ち上がる。
傷は無いものの全身が痛む。
まだ、まだ回復するのか?
何故削りきれなかった?
後悔しても仕方ない。
また一から魔力を削るしか無い。
再び戦闘態勢に入った時。
『気にしないでいいよ』
リッカが俺を呼び止めた。
その手には全壊剣が握られている。
俺が落とした剣を拾っていたらしい。
手渡されると同時に、シズマの声が響く。
「何で……!?」
それは困惑の声色だった。
同時に俺も気づく。
魔力が回復していない。
シズマの傷が一向に癒えないのだ。
立ち上がるのも勿論異常である。
だが思考が生きているなら供給できるはず。
一体、何がどうなっている?
俺は周囲を見渡した。
……そこには、ドヤ顔のリッカがいた。
『ホントどうなってんだろうね?』
「サキュバス……!」
『セイントデビルだしー』
何をしたのかすぐ理解できた。
彼女は破壊したのだ。
全壊剣の能力で、シズマと地面の接続を。
何でお前がその力を使えるんだ?
というかブライより使いこなしている。
破壊って、そんな事もできるのか。
それはどうでもいい。
モンスター達の協力。
俺の捨て身の攻略。
そして仲間達の見事な機転。
全てがかみ合った結果だった。
「シズマ、お前の負けだ」





