大混戦オールスターズ! 〜前編〜
目を覚ますと、周囲には誰もいなかった。
代わりに外がかなり騒がしい。
何か嫌な予感がする。
早々に身支度を済ませ、部屋を出る。
するとやはり憲兵達が走り回っていた。
一人の憲兵を捕まえて話を聞く。
只事では無いようだ。
「街の周りに、群れが、モンスターで!」
「……俺もそこに連れて行け」
「しかし召喚術師様は」
「いいから早く」
憲兵の後を追い俺も外へ走る。
彼の意見もその通りだ。
俺には出発が控えている。
だがこれでは心配で出る事も出来ない。
何より、モンスター達がいない。
恐らく既に参戦しているのだろう。
そこで俺が出ないのはおかしな話だ。
俺も肩を並べて戦える。
憲兵達が持つ物と同じ剣。
恐らく練度では彼らの方が上のはず。
しかし俺の師も自慢の仲間だ。
そんな彼等の顔に泥は塗れない。
腰の剣に手をかけ、廊下を抜けた。
* * * * * * * * * *
壁の上から外を見る。
そこに広がるのは平原では無かった。
荒ぶる野生のモンスター達と、それに立ち向かう人々。
数は数百万、千万近くいてもおかしくない。
そんなモンスターの群れ注視する。
まずは邸内で見なかった仲間達を探す。
マキナやシーシャは見つからない。
それでもアビス達モンスターはいた。
更に探すとサレイもいる。
僅かに苦戦しているようだ。
「俺も出る」
「し、しかし!」
「大丈夫だ、気にするな」
「召喚術師様を安全に送り出すようにと!」
恐らくシーシャの命令だろう。
彼女らしい気の利いた指示である。
だが、その命令は聞けないな。
「俺は仲間達を守る」
「召喚術師様……」
名も知らぬ一人の憲兵が俺を見守る。
その視線を背負い、俺は壁を飛び降りた。
足元はモンスターの大軍勢。
オオカミを気絶させながら地面に着地する。
まずはサレイの援護に向かう。
彼が押されるのは本当に珍しい。
それでも押されているのは事実だ。
「せ、先輩!?」
「寝坊した、すまん」
「別にここは俺達だけで!」
「押されながら何を言っている?」
ゴブリンを薙ぎ払い背中を合わせる。
普通であれば低危険度のゴブリン。
それがまさかサレイを苦戦させるとは。
恐らく油断もしていたのだろう。
「甘く見てたが、奴らも本気か!」
「余り慢心するなよ」
「……了解!!」
彼の手中でバチバチと魔力が音を立てる。
相変わらず召喚術らしくないその姿。
男心をくすぐられる。
召喚したのは2本の長剣。
橙色の直剣と、紺色の曲剣。
一目で伝説に名を馳せる剣だとわかる。
一薙ぎするだけで、周囲のモンスターは吹き飛んだ。
「先輩の花道だ! 蹴散らすぞ!!」
モンスター達を蹴散らしながら叫ぶ。
少しずつ作られていく小さな道。
尚も残る膨大な数のモンスター。
切り開いた道もすぐ閉じてしまう。
それを俺とサレイでこじ開ける。
僅かだが、俺の剣も役に立っている。
僅かだが着実に前へ進む。
しかしこれでは余りにも微力だ。
打開策を考えていた、その時。
『ここは私達が食い止めます!』
『アリク様はもう出発しろ!』
二つの影がモンスター達を蹂躙する。
金銀姉妹。ゴルドラとシルバゴ。
かつては確かに弱かったが、今となってはS級に匹敵する戦力を誇る双子の鬼。
その背中に、俺は確かな信頼を感じた。
「アビス! リッカ! 行くぞ!」
金銀姉妹とサレイ。
最強のトリオに背を任せ、俺は叫ぶ。
『——ん!』
『待ってました! ほら龍皇も!』
「久方ぶりの運動だったのだがな」
叫びに応え変身する龍皇達。
そのままアビスは俺とリッカを拾った。
背後のモンスターは龍皇に任せよう。
空路を攻めるも、飛行できるモンスター達が辺りを飛び交っている。
俺達を待ち伏せしていたかのように。
前方は俺達が何とかするしかない。
龍皇は後方処理を楽しんでいる。
ガルーダに任せるか。
それともグリフォンか。
俺は思考を張り巡らせた。
「あー、頭痛いです」
そんな思考も無駄に終わる。
眼前に現れた土の巨影。
それがモンスター達を一蹴した。
「一緒に行けないのは残念ですが……」
「マキナ!!」
「守るのもボクの仕事ですから」
もう何度窮地を救われたか。
マキナとゴーレムがそこにいた。
しかもそのサイズは今までで最大。
なのに、おまけも付いてきている。
同じものが"三体"もいる。
流石にはりきりすぎじゃないか?
俺は助かっているのだが。
「あ、待てアホサレイ!!」
全員の助けを借り、空を駆ける。
そこに大きな声がこだまする。
地面を見ると、リーヴァが走っている。
モンスターの頭上を楽々飛び越えながら。
そういえば先程の戦いで見なかった。
サレイと一緒にいると思ったが。
その手には巨大な包みを抱えている。
とても走り辛そうだ。
そこに一つの助け舟が現れた。
「乗っていくかしら?」
「サンキュー小娘!」
「その呼び方は流行っているの?」
シーシャと彼女のモンスター。
ガルーダに乗っている。
しかしながらドラゴンゾンビも健在だ。
メリッサが背に乗り援護している。
シーシャの言葉に乗りガルーダに飛び乗ると、そのままリーヴァは俺達と並走した。
「サレイとアタシの旅の餞別、受け取りな!!」
投げられた大きな包み。
俺への荷物だったようだ。
手早く包みを解いていく。
そこにあったのは……全壊剣。
ブライの剣とそっくりの長剣だ。
「言ったでしょ! 全壊剣は世界に2本の姉妹剣だって!」
「ああ、でも良いのか?」
「プレゼント! 絶対に勝て!」
そう叫びながらガルーダを飛び降りる。
かなり高さもあるが大丈夫だろうか?
……彼女なら大丈夫そうだ。
しかしとんでもない餞別の品だ。
ブライの剣と比べやや細身。
それでも一目で同じだと理解できる。
練習に使っていた木剣にサイズが近い。
これなら握り慣れるのも早いだろう。
「待ってるわ、アリク!」
シーシャの離脱を見届ける。
遂に上空には俺達のみ。
あとは真っ直ぐ飛び続けるだけだ。
『……』
「どうした、リッカ」
『い、いや! 何でもない!』
リッカが不安そうに大地を見下ろす。
彼等の戦いを見ている訳では無さそうだ。
しかし不安げである。
まるで何か、心残りがあるような。
……そうか。
俺は不意に彼女の不安を察した。
「まずは辺境村の安全確認だ」
『アリク……!!』
「飛ばせ、アビス!」
『————!』
進行方向は同じだ。
それに俺も恩がある村だ。
最速で助けてみせよう。





