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召喚術師のケジメ

 

 暗い霧が晴れるように、意識を取り戻す。

 負荷とダメージで全身がヒリヒリ痛む。

 無茶が祟ったとでも言おうか。

 だが幸いにも余力は多く残っていた。

 おかげで体の異変にも気づける。


 ラナ達が、俺の中から消えていた。

 体にあったモンスターの意匠も無い。

 慌てて俺は必死に身を起こす。


 ラナは……いた。

 リッカもアビスも、リヴァイアサンも。

 人間態の姿で全員が倒れている。

 魔力の繋がりも切れていない。


「ラ、ナっ……っ!」


 彼女達に向かって手を伸ばす。

 生きている。ボロボロだが、無事だった。

 それを見ただけで俺は安心した。


 あんな場所にいては危険だ。

 意識がなくても融合はできるだろうか?

 できるなら融合して俺の中で匿おう。

 できなかったら、急いで地上に帰そう。

 早くしなければ——。


『ガ、ハァ……ハァ…………!』


 同じく目を覚ました奴が、来る。

 戦えるのは俺一人だけ。

 今は俺しかブライを止められない。


『アリク……アリクゥゥウ!!!!!』


 轟くような声を上げるブライ。

 直感的に俺は全壊剣を抜刀した。

 その勘は当たり、目の前に奴は迫る。

 たった一瞬の出来事だった。


 拳と剣がぶつかり合う。

 獣ではなくなり、人の姿へ戻っている。

 それでも超常的な筋力は変わらない。

 押し負けないよう全力で堪える。

 だが、ブライは怒り任せに拳を押し込む。


 人を怪物に変えてしまうほどの怒り。

 俺への強い敵意と殺意。

 それは彼からおぞましい笑みを消した。


 今の奴にあるのは、俺への激情のみ。

 確実に俺だけを殺しにきている。


『ふっざけンなよテメェェ!!』

「ぐ、っ……!!!」

『クソがアァァァ!!!!!』


 怒りの言葉に理由は含まれない。

 単純な暴言と激しい罵倒。

 だがそこから、強い怨念が伝わってくる。

 純粋な怒りとでも言おうか。

 その怒りが、ブライの力を底上げしていた。


 力任せに押し込まれていく。

 それでも俺は力の限り耐え続ける。

 怒りの圧から必死に身を固める。

 しかしその時、ブライは感情任せに叫んだ。


『何で邪魔すンだよォ!!』

「邪魔……!?」

『俺の夢を邪魔すンじゃ無ェエエ!!』


 その言葉が、俺の何かに触れた。

 これまでの記憶が一気に脳裏をよぎる。


 ブライに唆されて散っていった者。

 遊び半分で重傷を負ったラナ。

 地上で必死にモンスターに抗う戦士。

 暴走させられ、傷ついたモンスター達。

 彼に運命を翻弄された、多くの人々。


 腹の中で何かが切れた。

 その瞬間、全身に力がほとばしる。

 燃え滾る感情を抑え切れそうにない。

 我慢の限界だった。


「お前の……くだらない夢の為に……!」

『あァ……!!?』

「何人が犠牲なった!?」


 衝動に任せて力を振るう。

 湧き出る力は奴の拳を押し返す。

 そして、ブライに問いかける。


「『剣士』を見捨て、ダヌアとホノンを弄び! ネムとイゴウを利用した!!」

『それがどうしたァ!!!』


 即座に返されたブライの解答。

 彼の答えに最初から期待などしていない。

 それでも改めて思い知った。

 この男の、救いようの無さを。


 数多の血で描かれた彼の未来設計図。

 それは本来愛すべき相手でも関係ない。

 理想の為なら全てを割り切る。

 そのくせ杜撰に、無駄に命を弄ぶ。

 短い一時の期間とはいえ、こんな者の為に俺は力を貸していたのだ。彼の力を蓄える為に。


『勇者が仲間使ッて何が悪い!!』


 拮抗した力が弾け、一度距離を置く。

 俺にも事件に加担した責任はある。

 恐らくこれは、俺の一生の恥部になる。


 だからケジメをつけるのだ。

 俺の失敗へのケジメを。

 ブライの行動に対する、落とし前を。


 だからこそ、再び彼に問う。

 仲間は容易く手駒に使っていた。

 自らの女も自らの絵を描く血に変えた。

 関係のない人間を大勢巻き込んだ。

 ならば……彼女は。


「…………シズマは、どうなんだ」


 怒りを抑え、再び問いかけた。

 彼の目的の為に従順に尽くした血縁者。

 恐らく彼の唯一の仲間であった存在。

 彼女には別の思いがあるはずだ。


 実際、再会時は普段と違う口振りだった。

 口調は悪いが普段の棘はあまりない。

 そこが彼の人間性だ。そう思った。


 もはや倒さないという道はない。

 だが、シズマは彼の血縁者だ。

 彼の言葉を彼女に伝えることはできる。

 そこに道徳性があれば救いにもなる。

 最後に彼が何を言っていたのか、と。


 それに対するブライの解答は、こうだ。



『テメェのせいでアイツは使い物にならなくなッたんだろォが!! 利口にしてれば楽に"殺して"やッてたのに!!! そもそも俺より優秀って時点でウゼェくせによォ!!!!』



 自分の甘さに酷く後悔した。

 コイツに救いを求めたのが間違いだった。


「もういい」


 だからもう、黙らせる。


「もう、うんざりだ!!!!」


 全壊剣を握り、距離を詰める。

 対して剣を弾こうと構えるブライ。

 まずはその腕を切断し、心臓を抉った。

 その傷口からは魔王と同じ結晶が見える。


 すぐさま蘇生するブライの肉体。

 そこに畳み掛けるように攻撃を加える。

 奴も当然、俺に貫手繰り出してきた。

 距離が近いなら当然の行動だろう。

 だが彼には、学がない。


 俺が狙っていたのは腕だ。

 再び両腕を切って下から切り裂く。

 結晶を狙ったが手応えはない。


 三度蘇生し、今度は魔術で攻撃してくる。

 巨大な炎が俺の全身を包んでいく。

 自らの肉体から発せられる焦げ臭い匂い。


 それが何だ。

 炎の中を跳び、ブライとゼロ距離になる。

 そして。


「あの世で永遠に悔い改めろ」


 胸を横一文字にぶった切る。

 何かが砕けた確かな感覚を手に感じた。

 地面に倒れ伏せる、ブライの亡骸。

 そこには、砕けた青い結晶があった。


 ……終わった。全ての決着がついた。

 達成感というものは感じない。

 背負ったものと失ったものが多すぎる。

 でも、仲間達が生きていただけで十分だ。

 重圧の中、小さな幸せを噛みしめる。


 そして俺は、改めてブライの遺体を見た。

 最期は呆気なく散った主犯の死体。


 その傷は、なぜか完全に塞がっていた。



『……あの世、だァ?』


 次の瞬間、ブライは飛び起きる。

 ありえない。そんなはずない。

 俺は確かにあの結晶を砕いたのだ。

 あれが無ければ不死の蘇生も消える。

 なのに、なぜ復活している……!?


 驚きで俺は反応が遅れてしまう。

 奴の行動は迅速だった。

 俺の首を締め上げ、動きを制する。

 その顔は、勝利を確信した顔だった。


『魔王は全てが失敗だったなァ!! 制圧魔術も、俺の不死も、お前の融合も!!!』


 表情に蘇った黒々とした笑み。

 その言葉に、俺は察しがついた。

 つまりは俺の融合と同じだったのだ。

 俺が融合に分離の力を改造したように。

 ブライも、同じ事をしたのだ。


『俺は"完全な不死"だァ!!!』


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さらに濃厚になったバトルシーン! 可愛いモンスターたちの大活躍をお楽しみください!!

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