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決断する少女達

 

『イイ度胸じゃねェかシズマァ……!』

「かかって来なよ、御託はいいから」


 再会した兄妹が心の内を吐き出す。

 しかしそれは心温まるものではない。

 これから殺し合いをしようという者の気迫。

 そこには血縁の絆など無かった。


 ゆっくりと彼等を黒い霧が包んでいく。

 たちまちその霧は二人を隠し、遮断した。

 そこに突入しようとするリヴァイアサン。

 だが霧の表面は彼女の突入を拒む。

 まるで透明な壁に阻まれているかのように。


「くそっ! 何のつもりだ!」


 リヴァイアサンが透明な壁を殴る。

 彼女の力は絶大だ。

 それでも壁はびくともしない。

 シズマは自らの使命へと走った。

 その前にリッカへ何かを託したのだ。

 青く変色した宝石と共に。


 全てを知るのはリッカのみ。

 その彼女が、リヴァイアサンに語る。

 妙に沈みきったような口調で。


「それは私が説明するから」

「なぜリッカが!」

「私達にしかできない話。ラナも聞いて」

「でも今はアリク様が最優先です!!」


 二人から返される強い言葉。

 両方とも彼女達の向く方向を表している。

 ラナは俺を、リヴァイアサンは戦況を。


 それでもリッカは口を噤んでいた。

 そして彼女は、自らの向く方向を語る。


「その、アリクの話」


 ラナの言葉と表面的には近い。

 しかしそこには、託された真実がある。


「俺の、話?」


 低く沈みきったリッカが頷く。

 何かの重圧を抱え込んだ時の表情。

 それがこれまで以上に強く表に出ている。


 俺には心当たりがない。

 だが彼女は既に真相を知っているのだ。

 正確には、彼女にシズマが真相を伝えた。

 つまりこれはシズマの推理の受け売り。

 リッカはそれを伝えるよう託された。


 一呼吸置き、意識を尖らせるリッカ。

 俺はその様子を静かに見つめる。

 重圧に耐えようとする彼女の姿を。


「アンタは魔王の融合の力を受け継いだ」

「ああ、その通りだ」

「でも……それを進化させた」

「それの何が……ぐっ!」


 脇腹の傷が激しく疼く。

 俺はその痛みを何とか堪えた。

 意識を奪われる訳にはいかない。


 龍妃から与えられた魔王の力。

 これが俺の肉体に影響を与えたのか?

 しかしリッカはこうも言った。

 魔王の能力を俺は進化させた、と。

 これもまた真実だ。


 つまりここに何らかの問題があった。

 そして、現在へとたどり着く。


「ねぇ、アリクは気づいてないの?」

「気づく……いや、何も……」

「だってアンタ、普通ならもう…………!」


 そこまで言って言葉を詰まらせる。

 シズマは俺の生還を奇跡と評していた。


 やがてリヴァイアサンは気づく。

 立ち尽くしていた彼女が俺は駆け寄る。

 そしてゆっくり、俺の胸に耳を押し当てた。

 まるで俺の生存を確かめるように。


「心臓が、止まっている……!?」


 驚きながら顔を上げるリヴァイアサン。

 彼女の驚愕で、やっと俺は異変に気付く。

 なぜ今まで気づかなかったのか。

 これほど大きな自分自身の異変に。


 そして、種明かしが始まった。



 全ては融合解除の方法を確立した時。

 解除する度に、俺の体は変質していった。

 モンスターの残滓(ざんざい)が俺の肉体に残った。

 それはリッカも気づいていたという。


 蓄積した残滓は俺を"曖昧"にした。

 人間であるはずの俺の肉体。

 そこに残るモンスターの欠片。

 本来は何も起きるはずがなかった。

 しかし、俺の肉体は変質した。

 ネムやサレイと戦い、死を彷徨った事で。


「アリクは今、ヒトでもモンスターでもない」


 シズマのような中間ではない。

 魔王のようにモンスターへ転じてもいない。

 ヒトでもモンスターでもない存在。

 その未知の存在に、俺は変質していた。


 それが何なのか……わからない。

 俺はどうなるのか……わからない。

 そんな相手に通常の回復魔術は通用するか。


「なら、どうやって傷を……!?」


 答えは現状が物語る。

 俺の手を強く握り、ラナが尋ねた。

 回復手段はほぼ効かない。

 リッカのような強力な使い手でもだ。

 その質問に、彼女は顔をしかめる。


 だが、雰囲気が違う。

 諦めや絶望といった空気では無い。


「治療する方法はある」

「ならば早くそれをやれ!」

「だからみんなで確かめたいのっ!」


 不安に満ちた苦渋の決断。

 やっと吐き出せたリッカの重責。

 彼女の感情が響くような叫びだった。


 治癒の手段はある。

 しかし安易にそれは使えない。

 使う事にも何かしらのデメリットがある。

 シズマの言葉はそれを指していた。

 あなた達なら判断できる、と。


 委ねられた選択、それは俺の生死だ。

 彼女達なら俺の事をよく理解している。

 だから彼女達に俺を託したのだ。


「この治療をすればアリクは戻れない」

「人間に、って事ですよね」


 ラナの確認にリッカは無言で頷く。

 人間である事を放棄した生存。

 だがそれはブライや魔王とは異なる。


 情報の無い「未知の存在に」なるという事。

 ひょっとしたら何も無いかもしれない。

 これ以上の大惨事を起こすかもしれない。

 未知というのはそういう事だ。

 誰もがその重さを理解している。


「当然治療をしなかったらアリクは死ぬ」

「————でも」

「……人として、死ねる」


 アビスとリヴァイアサンの言葉が重なる。

 治療をせず俺を人間として死なせる。

 当然俺は助からない。

 それも幸せなのかもしれない。


 龍妃の予言とは少し外れるが。

 だがあれは俺が戦った場合の予言だ。

 俺はあの場で死亡していない。

 ブライの直前で戦わずに死亡する。

 その可能性は語られていないままだ。


 倒す手段があるのかはわからない。

 だがそれは俺も同じだ。

 俺が死んでも魔力は残る。

 残った魔力で召喚は維持できる。


 だから彼女達に任せられる。

 あとはどちらを選ぶかだ。


「私は、魔王様の苦しむ姿を見た」


 リヴァイアサンは俺の死を提言した。

 他三体では出せない選択肢だからだろう。

 孤独に苦しむ魔王を見てきた。

 俺にその苦しみを味わせたくない。

 それが彼女の意思だった。


「——生きて、マスター」


 同じ口から語るアビス。

 彼女に明確な理由はなかった。

 他の三体より少々疎い部分のある彼女。

 だからこそ、俺の死を受け入れられない。


「…………ごめん、アタシにはわからない」


 リッカは答えを投げ出した。

 弱気な彼女ならこの行動もおかしくない。

 実際、俺も彼女と同じなのだ。

 わからないから彼女達に託しただけ。

 自らの命なのに、生を選択できなかった。


 意見が割れる。

 残されたのは、ラナ。

 相棒とも言える最も心を通わせた相手。


 彼女はゆっくり俺の手を離す。

 まるで雛鳥が巣立つかのように。


「……治療してください」

「ラナ、わかっているのか?」

「その時は私がすべての責任を負います」


淡々と語っていくラナ。

威圧感はリヴァイアサンにも勝る。

俺を助けるリスクは彼女も知っている。

未知へ挑戦するには、保険も必要だ。


俺を見殺しにしたくない彼女の意思。

それでも危険性を無視はできない。

ならばどうするべきなのか。

ラナはその力と、覚悟があった。

俺もラナなら任せられる。


「責任って……!!」


言葉の真意に気づいたリッカ。

だが同時に、俺の心も読んでいた。

俺達の信頼だからできる賭け。

決して「大外れ」のない答えだ。


「もしアリク様も脅威になったら」


小さく微笑み、澄み切った声で告げる。

まるで龍妃が俺に語りかけた時のように。


「その時は、私がアリク様を倒します」


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