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地下の守護者達

 

『無限ってなに!? どういうこと!!?』

「そのままの意味だろう……厄介だな」

『いやいやわけわかんないって!』


 ラナ達に手を引かれ、逃げる(・・・)俺達。

 俺の中でリッカが大騒ぎしている。

 そして、そんな俺達を追う蘇ったイゴウ。

 異常事態ははっきりと認識できた。

 彼女の混乱は何もおかしくない反応だ。


 リヴァイアサンの表情に見える焦り。

 勇猛果敢な彼女達が逃走を選んだ事実。

 俺もまた、それらの事情に困惑していた。


「無限にとは、一体何のことだ!?」

「……ああ、教えてやるっ!」


 そう言って彼女は触手をイゴウへ伸ばす。

 追ってくるイゴウを捕縛すると、彼女は畳み掛けるような口調で語る。


「地上に発動されていた光の柱! あれは魔王様が禁術とした術だ! あれが発動されたままでは、世界の理が塗り替えられる!」

「それと今と、何の関係が!」

「この場所はブライによって塗り替えられた理想世界! ここがある限り、コイツ等は無限に生まれる!」


 彼女の説明は、正直雑なものだった。

 的が異常に広すぎて芯を得ない。


 いや、それが正しいのだろう。

 この地下世界はブライが生み出したもの。

 彼の魔王への執着が世界を作り上げた。

 イゴウは楽園の守護者。

 守護のために意思を破壊され、復活した。


 ……この世界は、全てが真っ白だ。

 彼の楽園だろうと生命は生きられない。

 制圧魔術を止めて正解だった。


 この地下世界で生命は生きられない。

 全てが白化し死に絶えた土地。

 そこにいるのはブライとアンデッドだけ。

 恐らく誰も、こんな世界を望まない。



『——アリク、来るよ!』


 リッカの叫びと共鳴する第六感。

 無心で俺は全壊剣で真横を防御する。

 襲ってきたのは2人目のイゴウだ。

 ……どうやら彼女達の言葉は真実らしい。


 以前と変わらず鋭い攻撃を持つイゴウ。

 かつては代わりに耐久が弱かった。

 しかし最早その弱点は失われている。

 数と回復力によりカバーされ、下手をすれば生前の彼女よりも強化されている。

 人間的な戦闘を失った代わりに。


 傷つくことすら躊躇わない攻撃。

 命の危機を感じた俺は、攻撃をかわして全壊剣を振り下ろす。するとイゴウは形を崩し、弾けるように飛び散った。

 その光景に、俺自身も心が傷む。


「はあああぁぁぁぁぁっっっ!!」


 しかし悠長なことは言っていられない。

 容赦なくイゴウを地面に叩きつけるリヴァイアサンを見て、俺も覚悟を決める。

 彼女は人ではない、アンデッドだ。

 ネムとの戦いを思い出せ。

 舐めて掛ければ、死ぬのはこちらだ。


 無限に増殖するイゴウのアンデッド。

 そこに魂があるのかはわからない。

 しかしまるで、彼女は消耗品のようだ。


『…………』

『………………、……』

『………………!』


 追っ手1体と俺を襲ってきた1体を倒す。

 直後、3体のイゴウが襲ってくる。

 しかも倒したうちの1体まで復活した。

 これではとてもキリがない。


 だが、戦う手を止めることは無い。

 4体まとめて俺たちは相手する。

 恐らく俺達は何かに気づいていた。

 全く同じタイミングでそれを察した。

 それを確かめるため、ラナを除いた俺達は無意識に動いていたのだ。


「ラナ! 龍人態だ!」

「それが……できないんです!」


 珍しく唯一出遅れたラナに指示を出す。

 しかし、俺の指示は叶わなかった。

 やはり何かが召喚術に干渉している。

 リッカと融合すればいけると思ったが。


 しかし、ラナは人間態のまま突撃する。

 力任せにイゴウを振り回し投げる。

 何とも雑な戦い方だ。


「この体でも戦えます!」

「……無理はするな!」

「——はいっ!」


 そうだ、ラナは人間態でも戦える。

 馬鹿力と火炎攻撃は健在だ。

 俺達の確かめたい事もこなせるはず。


 俺とシズマ、リヴァイアサンが全く同時に気づいたとある光景と事象。

 ヒントは、先程倒したイゴウだ。

 リヴァイアサンの倒したほうは復活した。

 だが、俺が倒したほうは蘇らない。


 これが全てを物語っている。

 4体のイゴウを一箇所に集めていく。

 やはり知能は低下しているようだ。

 俺達の誘導に、気づく様子はない。

 全員を中心に集め——!


「今だ、アビス! ラナ!!」


 二体同時に指示を出す。

 一瞬の隙をつき、イゴウを四体まとめて捕縛するリヴァイアサン。癖でアビスと呼んだが伝わった。

 いくらもがけど逃げられないイゴウ。

 それを見たラナは大きく息を吐く。


 同時に眼前を埋め尽くす爆炎。

 最早本来の姿と大した差のない火力だ。

 過剰な火力がイゴウの体を消し炭にする。

 ——さて、確かめたいのはここからだ。


 なぜか片方だけ復活したイゴウ。

 それは、リヴァイアサンの倒した方だ。

 地面に叩きつけ致命傷を与えた。

 イゴウは当然、その傷を回復させる。

 しかし俺のほうは復活しない。


 一体何故か。

 その答えがここにある。

 結果を読み上げるように、シズマは語った。


「耐えられる威力には限度があると、ね」


 消し炭になった4体のイゴウ。

 積もった灰からは復活の兆しがない。

 例えば爆炎。例えば全壊剣。

 リヴァイアサンも加減しなければ倒せる。

 そもそもアンデッドの命を生者と並べたのが間違いだったのだ。


 無限の回復と増殖の脅威。

 その片方を潰すことができた。

 倒せるものだと理解し安心する。

 小さく息をついた、その瞬間だった。


「——ん!」

「どうしたヒトデ!」

「——何か——別が、来る!」

「……本当です! 何か来ます!!」


 突然アビスが何かの危険を察知する。

 ラナもそれを感じ取ったようだ。

 彼女達の語る「何か」。

 どうやらイゴウではないようだ。

「何か」の襲来に身構えていると、俺にも急速に迫る何者かの気配を感じ取った。


『…………!』

「そこかっ!」


 上めがけて触手を伸ばすリヴァイアサン。

 その先は確かに何かを捉えた。


「一体何者だ!?」


 リヴァイアサンの言葉に、返答はない。

 代わりにその影は……触手を切り落とした。

 確かにあの触手は破壊可能だ。

 だがそれができるのは暗黒龍か、全壊剣か。

 その二つのはずだった。


 しかし、俺にはもう一つ心当たりがあった。

 復活したパーティメンバーのアンデッド。

 この現象がそれを可能だと告げている。

 触手を切断するという芸当を、"ただの剣"で成し遂げる腕を持つ異常な強さを持つ人物を。


 触手と共に地上へ降りた影。

 その正体は、俺の予想通りだった。


「『剣士』……!」

「困ったな、彼女まで復活するなんて」


 勇者パーティで、一番最初に死んだ者。

 誰も本当の名を知らない人物。

 その姿に、俺とシズマは息を飲んだ。


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