勇者達の輪舞!
衝突するリヴァイアサンと2人の勇者。
その衝撃は、周囲の敵を蹴散らした。
リーヴァとサレイの的確な剣戟。
それを単騎でいなすリヴァイアサン。
両者共に卓越した戦闘能力だ。
「で、アリクを取り戻すってどうやって?」
「あー……戦ってれば思いつくだろ」
「そっか! 飛び抜けたアホだ!!」
問題は現状を打開する術がない事か。
サレイの軽さも少し心配だが。
当然俺も救われるのを待つだけでは無い。
幸い奪われたのは肉体の主導権だけ。
感覚や思考等の情報は繋がったままだ。
お陰で体の異常を容易く把握できる。
リヴァイアサンが乗っ取った方法まで。
複雑に見えて単純な状況だった。
これまで融合したモンスターの意識は、俺の意識の内部で俺と対話していた。
それが今は逆転している。
しかも、彼女に対話の意思はない。
「随分弱くなったなぁ……ムラサメ」
幸い俺の考察に彼女は気づいていない。
2人との戦いが、上手く俺を隠す。
あとは打開策を見つけるだけ。
俺自身簡単に考えるが、そこが難点だ。
前例が一切存在しない。
そして、俺の生んだ対処法は使えない。
召喚陣で人間は召喚できないからだ。
今は八方塞がり、一度思考を冷やそう。
戦いをリヴァイアサンの視点で見つめる。
彼女の言葉の真意がきになる。
「こんな事態になるまでは、もう強くなる必要なんて無かったからね!」
「つまり慢心か」
「平和ボケだ!!」
とぼけたようなリーヴァの台詞。
ふざけた口調だが、その言葉は重い。
2人の姉妹とモンスター達。
そして多くの命を代償に生まれた平和。
リーヴァはその平和を満喫していたのだ。
「平和が好きで平和ボケして何か悪い?」
「お前が平和好き? 笑わせる」
「なっ……!」
「兵器風情が、心を持つフリか!?」
リヴァイアサンが彼女を深く抉り込む。
言葉と攻撃、その両方を駆使して。
攻撃は何とか回避した。
追撃もサレイの手で食い止められる。
一度後方へと下がったリーヴァ。
その表情に、焦りが見えた。
そう、彼女は人の作りし英雄——戦争の為に生み出された存在だ。
「何の話だリヴァイアサン!」
「ほほう、この男は知らんのか?」
そしてサレイはこれを知らない。
俺もてっきり承知の上と思っていた。
だが彼はこの対応である。
どうやら本当に知らないらしい。
「教えてやろう、そこにいる女は人間が魔獣を駆逐する為に作り上げた生体兵器」
「聞かないで! サレイ!!」
「人として人の理を超えた怪物だ!」
リーヴァは表情を失った。
サレイに隠していた秘密。
自らの特異すぎる出自。
それを遂に明かされてしまったのだ。
両者攻撃が拮抗したまま停止するサレイとリヴァイアサンの衝突。
恐らくサレイも動揺したのだろう。
「それが——」
しかし、サレイは動いた。
己の激情に任せ、剣を振り上げる。
「どうしたぁぁぁあああああ!!!!」
こだまする絶叫。
切り払われるリヴァイアサンの触手。
初めて彼女は大きく怯んだ。
すかさずサレイは次の攻撃を叩き込む。
僅かにリヴァイアサンの意識が掠れる。
だが肉体を取り戻すには至らない。
それでも糸口に繋がるかもしれない。
この感覚は覚えておこう。
それより今は、サレイ達だ。
「何故だ、何故恐れない!?」
「怖がる必要なんて無いだろ、なぁ?」
呆れた口調でリーヴァを見るサレイ。
しかし当の彼女は唖然としている。
どうやら意図は伝わらなかったようだ。
するとサレイは小さくため息を吐く。
一体何をするつもりだろうか。
「口は悪いけど強くて優しい勇者気質」
「……褒めてる? それ」
「勘が鋭くて、でもドジで良くやらかす」
「ねぇ、悪口多くない?」
「そういうところが好きなんだよ」
「…………続けて」
本当に、何をしているんだ?
俺達は数分間、ただ話を聞き続けていた。
リヴァイアサンもこれには呆然とする。
「嫌いになる訳ないだろ? こんな子」
この台詞を締めるように言うまで、サレイは自らの思う"リーヴァの好きなところ"を散々語り尽くした。
普段からは想像できないほど饒舌に。
顔を赤く染める2人。
特にリーヴァは熟したリンゴのようだ。
聴いてる俺も歯が浮きそうになる。
リヴァイアサンは……言わずもがな。
訳もわからず突っ立っていた。
話が終わったと気づき、彼女はハッとする。
「私は何の話を聞かされていたんだ?」
「惚気話じゃない?」
いつの間にか普段通りに戻ったリーヴァ。
ただ顔はまだほんのり紅潮している。
それでも絶望は払拭されていた。
それどころか今まで以上に表情が明るい。
サレイに隠してきた彼女の秘密。
自らの出生と過去について。
彼はその全てを受け入れたのだ。
恐らく彼女はそれが嬉しいのだろう。
二刀流で剣を構えるサレイとリーヴァ。
彼等に精神攻撃は効かないようだ。
「長話は飽きた! 死ね、ムラサメ!!」
実力行使に移るリヴァイアサン。
無数の触手と徒手空拳。
それだけでも十分な脅威となっている。
しかし……サレイ達はただ避けた。
まるで撃ち合おうともせず。
「逆に今までよく付き合ってくれたな」
「それが礼儀というものだろう!?」
「律儀だねぇ……でもおかげで」
リヴァイアサンの攻撃を余裕綽々にかわし、そのまま彼女の肉体を取り押さえる2人。
直後、背後から肉体に衝撃が走る。
『今助けるよ、アリク!!』
——リッカだ。
振り向くとそこにはリッカがいた。
その掌には青く光る召喚陣。
融合用の陣が輝いている。
まさかあの話は時間稼ぎだったのか?
リッカが到着すると知った上で。
サレイ、お前は一体どこまで——。
「女、お前ぇっ!!」
『アタシの名前はリッカ! 覚えて!!』
抗う暇もなく肉体に入り込むリッカ。
龍皇と再融合した時と同じだ。
そして不意によろめくリヴァイアサン。
頭を抱え、口元を抑える。
相当気分が悪いようだ。
「何だこの異物感は……!!」
「テメェがその体の異物だろ?」
「おのれ、おのれぇ!!!」
不調を無視し戦闘は再開される。
しかし、これまでとは状況が違う。
打開の活路が、見えた。





