蘇りし古代戦士
敵モンスターは確実に減っている。
陸路の通過も以前に比べ容易だ。
制空も優勢になってきた。
ガルーダや他の協力者達のおかげだ。
協力者といえば、ペガサスはどうした?
確かメリッサはペガサスと交戦していた。
しかし彼女は俺達の援護している。
「彼らだけで十分だったからね」
「しかし常人ではS級など……」
「彼等は普通じゃない。武勲ある勇者だよ」
尋ねると、回答はあっさりとしていた。
暗黒龍より弱いとはいえ敵はS級。
災害と同等の強さを持つモンスターだ。
現状が彼女の言葉を裏付ける。
敵を減らしたのは俺たちだけではない。
勇者を含む協力者たち。
彼等の力で、戦局は拮抗していた。
手を組めばS級にも挑めるだろう。
その後は苦もなく目的地へ到達する。
あとはアビスの背中に行くだけだ。
「自分は空を飛べないのだけれど?」
「そうだったな、『幻想の大翼よ——」
詠唱を半分もしていない。
なのにグリフォンは無事召喚できた。
相変わらず意味がわからない。
リッカと融合してから、召喚術自体があらゆる面で以前より容易になっている。
と、疑問を抱えていても仕方ない。
全員でグリフォンに跨り、空を駆ける。
数の減った敵はいなすのも簡単だ。
残る脅威は、敵のS級とブライのみ。
戦況を確かめ、アビスの背へ降りた
「ラナ、大丈夫か?」
「……どちらさまですか?」
ラナの顔色はかなり良い。
しかし俺の正体はわからないようだ。
そういえば、俺は女性のままだ。
彼女の勘もまだ本調子では無いか。
融合自体は的を減らす為の行為。
もう解いても大丈夫だろう。
龍皇と同じ手順で、融合を解除する。
「あ、アリク様!?」
「龍皇と交代で力を借りていてな」
「ちょっと羨ましいですリッカさん!」
『べ、別に羨ましがる事なんて!』
「私もアリク様の力に……う、ぐっ!」
普段通りに元気な表情を見せていたのも束の間、ラナは自身の頭をおさえて苦悶の表情を浮かべる。
俺は彼女を抱きかかえた。
魔力は正常、体力もほぼ回復している。
「処理能力が暴走しているようだ」
背後でメリッサが呟く。
彼女の言葉で俺も状況を理解する。
ラナは初めて自らの"母"の力を使った。
秘められていた潜在能力の覚醒。
それが彼女の体に変化を齎したのだ。
『ラナ、大丈夫なの?』
「大丈夫さ。キミと同じだよ」
『アタシと……あ、そういう事か!』
そう、これはリッカの進化に近い。
リッカの場合は魔力を著しく消費した。
それがラナには頭痛として表れた。
だから決して命に別状は無い。
問題はタイミングの悪さだ。
今はいつ何が起きてもおかしくない。
戦線復帰は難しくてもせめて離脱を。
今なら空路で要塞まで戻れる。
が、ラナだけで行くのは難しい。
それに、要塞にも回復手段は無い。
負傷の類でない現状を治す手段は——
「——自分に任せてくれないか?」
「手段があるのか」
「ああ。だからエル君、キミは」
その後は言葉にせず、視線で語る。
まっすぐ俺だけを見つめる視線。
あの村の時と同じ目だ。
俺にあの時のような疑いは無い。
彼女はもうメイサでは無い。
メイサはもう、この世にいない。
でも彼女なら信じられる。
記憶は無くとも、同じ精神の彼女なら。
ラナを任せてグリフォンに乗せる。
メリッサはいらないと言ったが、護衛に追加で数体のグリフォンを召喚して同行させた。
俺は、俺のやるべき事をする。
「アビス、力を貸してくれ!」
『————?』
「融合だ。頼めるか?」
『——!』
地面を砕き、ブライに決着をつける。
それにはかなり強大な力が必要だ。
龍皇もラナも今はいない。
だが同等の力を持つ仲間はいる。
それが彼女、アビスだ。
彼女も俺の意思に応えてくれるらしい。
早速魔王の力を発動する。
その時だった。
『——!? ————!!』
「どうしたアビ……!?」
突然アビスが巨軀を震わせ暴れ出す。
まるで融合を拒絶するように。
俺もすかさず能力を停止しようとした。
だが…………止まらない。
アビス側から力を無理やり使わせる。
彼女自身は不本意にも関わらず。
まるで、内から引きずり出されるように。
『この時を待っていたぞ……!!』
アビスの声が俺の中から聞こえる。
……違う、これはアビス自身じゃない。
『アリク! 何か変だよ! 中止して!』
「それが……できないんだっ!」
リッカが俺を制止する。
外部からも異変はわかるらしい。
だが、止めることはできない。
アビスであるが、アビスとは違う。
声色や口調が別人のものだ。
それに彼女の意思とは相反していた。
現に"アビス"は俺を切り離す気だ。
俺達を無理矢理繋ぐ誰かがいる。
『解らないか? 使役する者の名を』
「俺が融合したのはアビスだ……!」
『ハハハ! 確かにその通り! だけどお前は忘れている! 私の存在を!!』
アビスでは無い誰か。
古めかしい口調を使う何者か。
俺を知り、俺が知らない不明存在。
いや、俺も彼女を知っている。
この口調の彼女を俺は確かに見た。
威厳溢れる古めかしい口調を。
武人のようなアビスの姿を。
魔王を巡る、記憶の旅の中で。
「まさか!」
『私こそが真なる海の覇者!』
アビスの切り札である巨軀も、普段利用している人間としての姿も、元は彼女のものだった。
S級海魔・リヴァイアサン。
龍皇と並ぶ、魔王軍の大幹部——!!





