翡翠の翼!
ガルーダの背に乗り、俺は様子を伺う。
全身の眼がぎょろりと動く異様な姿。
大量のガルーダに翻弄されている。
一見無秩序な飛行に感じる風景。
だが実際には綿密な連携だ。
「外側を飛んでいるガルーダ達! 俺とギガ・キマイラを孤立させろ!」
ガルーダ達へ向けて叫ぶ。
すると彼等は見事な規律で身を翻す。
初めから役割を知っているかのようだ。
『アレを孤立させてどうする?』
「これはまだ第1段階だ」
これは作戦の前段階でしか無い。
制空は未だ敵のモンスター達の下にある。
地上からの攻撃では余りにも不利だ。
だからこそ、ギガ・キマイラを隔離する。
ガルーダの作り出す翡翠のドーム。
外にいるモンスターは、彼等に阻まれる。
内側にいる敵はギガ・キマイラのみだ。
これでやっと、同じ目線で戦える。
「残ったお前達はギガ・キマイラの注意を引きつけてくれ! 攻撃はまだしなくていい!」
俺は再び号令を出す。
撹乱自体は先程からやってくれている。
しかし彼等の挙動は一変した。
即座に数体の群れを形成するガルーダ達。
その一つ一つが、敵の思考を惑わせる。
頭上から周囲、更には腹の下をくぐる群れ。
まるで俺の思考を読んでいるかのようだ。
ここまで完璧だと言葉もない。
俺の乗るガルーダにも仲間が集まる。
まるで俺達を護衛するかのように。
『賢い鳥だ。我等の好物なだけある』
「褒めてるのか、それは」
『絶賛しているのがわからぬか』
龍皇が冗談のように褒めている。
野生下のガルーダは暗黒龍の餌である。
つまりは狩猟される側だ。
天敵から種を守る術も知っている。
個体数が多いのもそれが原因だろう。
この統率も暗黒龍から逃れる術。
おかげで、とても戦いやすい。
「行くぞ!」
俺の乗るガルーダへ語りかける。
彼はガルーダの中でも特に賢い個体だ。
策にも気づいているだろう。
ギガ・キマイラへと急接近する。
敵は俺の接近に全く気づいていない。
ギリギリまで、可能な限り近づいていく。
口へと魔力を収束させながら。
——今だ。
可能な限り収束した火球の射出。
更に続けて火球を2、3と連射する。
ツギハギの肉体へ着弾し、爆発する火球。
視線は一気に俺へと向かう。
この瞬間を待っていた。
「『爆ぜろ』!」
龍皇の特殊能力。
相手を睨みつけ、強烈な火力で燃やす。
しかし威力は彼に及ばない。
だがそれが急所に命中したら?
例えば、背中についた巨大な瞳に。
——コ、ゲェェエエアア!!?——
全域を見る為に移植された大量の眼球。
これにより敵を逃さず補足する。
それでも所詮は一般生物と変わらない。
眼球は、露出した弱点である。
その部分へのダメージは尋常では無い。
おかげで全ての瞳が同時に閉じる。
一時的に彼の視界は潰えた。
「ガルーダ!!」
その瞬間を利用し、指示を出す。
再び見開かれるギガ・キマイラの巨眼。
瞳に映るのは俺が攻撃した地点。
そこにいるガルーダの群れだ。
怒り任せに重点的な攻撃を加える。
動きはかなり鈍っている。
今の攻撃が応えたのだろう。
なら、もう一度同じモノを食らわせる。
攻撃は続いているが、問題ない。
落ち着いてギガ・キマイラへと照準を合わせ、ありったけの魔力を収束していく。
何故平常心を保てるか、理由は一つだ。
もうその場所に、俺はいない。
「俺は"ここ"だっ!!!」
真下から俺は叫ぶ。
同時にギガ・キマイラは俺へ気づく。
目を閉じた一瞬の隙を突く作戦。
それはガルーダの位置変更だ。
一見同じに見えるガルーダの群れ。
入れ替わってもわからない。
俺は、そこを突いたのだ。
お陰で魔力の収束も十分だ。
口だけでなく、両手にも火球を構える。
それを一斉にギガ・キマイラへ射出した。
着弾と同時に大爆音を上げる火球。
それはギガ・キマイラの巨体を僅かに持ち上げてしまう程の威力を誇っていた。
——ゴ、ゲ………………——
吐き出される微かな鳴き声。
先程以上の大火力だ。
撹乱作戦は大成功といったところか。
妨害して来る周囲の敵もいない。
まともに攻撃も食らう事すら無かった。
全てが俺の想定通りだ。
本当に上手く行った。
本当に。
「……上手く、いきすぎている」
直感的な違和感に気づく。
敵はS級合成獣のギガ・キマイラだ。
様々なモンスターの特徴を持つ存在だ。
それがこんなにあっさり倒せるか?
辛うじて人間が倒せるA級とは違うのだ。
それにリッカのようなタイプでも無い。
それがあっけなく沈黙するなんてあるか?
それに、何故召喚解除されない?
召喚されたモンスターなら、もう解除されて強制退去してもおかしく無いはずだ。
「——まさか!?」
ギガ・キマイラを確かめる。
……魔力がまだ残っている。
莫大な魔力量だ。
ちょうどS級モンスター1体分はある。
まだ、決着はついていない。
俺の予感も束の間、それは的中する。
真っ黒な肉体に入る無数のヒビ。
まるで昆虫が羽化するかのような光景。
……これまでの戦いは前哨戦だった。
そう、S級が生半可で倒せるわけがない。
死闘の末に勝つか殺されるか。
危険度S級との戦いは、そういう領域だ。
瞬間、赤黒い閃光がギガ・キマイラから放たれた。
——グ、オォォオオオ!!——
現れるギガ・キマイラの新たな姿。
『第二形態』とでも呼ぶべきだろうか?
それは一目で脅威とわかる姿だった。
頭部と翼は、暗黒龍に似ている。
前足と胴体は獣のようだ。
後脚はクモに近い。ウシオニのものだ。
長く伸びた尻尾は無数に分かれ、その全てに大蛇の頭部がついている。リヴァイアサンの触手のようだ。
更には巨大な2本の腕まで生えている。
S級巨人族・スプリガンの腕。
残念ながら、俺はまだ未使役だ。
となると胴体と前足もS級モンスターか。
恐らくはベヒモス、或いは……
…………いや、やめよう。
考える暇など無い。
——グオォォオオオ!!!!——
『来るぞ、アリク!』
「承知の上だ!!」
奴はもう、俺に最大の殺意を向けている。





