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少女達の策略 〜S級合成獣 ギガ・キマイラ登場〜

 

 リッカに手を引かれ飛び立つ俺達。

 しかし彼女の飛行能力は貧弱だ。

 結果、俺が彼女を抱えて空を飛ぶ。

 彼女の語る目的すら不明瞭のまま。

 それでも俺は、策を信じた。


『ラナの作業を見たんでしょ?』

「見てはいたが……訳がわからなかった」

『わからなくていーの、覚えてるなら』


 得意げな表情を浮かべ、リッカは語る。

 今のはヒントのつもりだろうか?


 残念ながら俺は考える暇が無い。

 連続で手の塞がったままでの飛行だ。

 しかもラナと違いリッカは貧弱。


 一撃が致命的な可能性もある。

 だが、ラナの時とは少しだけ違った。


『強制催眠!』


 リッカが援護用の術を発動する。

 俺達を阻むモンスターが次々と墜落する。

 ついでとばかりに地上にいた一部モンスターすら、瞬く間に気を失っていく。

 効果範囲は絶大だ。


 おかげで俺は手間なく飛行できる。

 リッカの示す先は、巨大ゴーレムの背だ。


『おーい!』

「ん、リッカさん?」


 ゴーレムの背に乗り戦場を駆る少女。

 当然、マキナである。

 リッカは彼女と接触を図りたいらしい。

 彼女の望み通りゴーレムの背に着陸する。

 前回とは違い、ゆっくりと丁寧に。


「アリさんもご一緒でしたか」

「ああ、少し手伝って欲しくてな」

「……何か起きたのですか?」

『話は後! 見て欲しいものがあるの!』

「まあ大丈夫ですが」


 少し訝しげに承諾するマキナ。

 確かに今の会話では説明不足だ。


 そんな彼女の手をリッカは即座に掴む。

 すると、マキナは一瞬体を震わせた。

 全身に衝撃が走ったような挙動。

 他人の記憶に潜る直前の動きに似ている。

 しかし、記憶の潜行には至らない。


 となるとリッカは恐らく何かを見せた。

 これも彼女が新しく得た能力だ。

 彼女は自らが見たものを他人に見せ、自身の記憶を共有する事ができる。


 この行動で、俺は彼女の意図に気づいた。


「今のは?」

『これがモンスターの減らない原因で!』

「……なるほど」


 制圧魔術を停止させたラナは休憩中。

 その解除法は徹頭徹尾運任せだ。

 しかしそれで魔術は停止した。

 手順は合っていたのだ。

 それを魔術に詳しい者へ共有すればいい。


 リッカはその為にマキナの元へ来た。

 両者共に魔術はかなり詳しい。

 特にマキナの知識は頼りになる。

 しかしそんなマキナは、彼女の意図に気づいた途端予想と離れた行動を始めた。


『何してるの?』

「ゴーレムの設定変更です。ボクとゴーレムを通してリッカさんの能力を伝えられるように」

「マキナは止めに行かないのか」

「フフッ……確かにボクにもできますが」


 不敵な笑みを浮かべるマキナ。

 リッカと違い、笑みも小慣れていた。


「もっと有能な魔術師がいますから」


 ……なるほど。マキナの方が上手(うわて)だ。

 通信機として参戦者全員が持つゴーレム。

 当然全てが彼女の統括下にある。


 つまり彼女の策はこうだ。

 リッカの術をもう一度マキナに使用。

 それをゴーレム越しに戦場へ伝達する。

 これで誰もが解法を知る事ができる。


 が、当然良い面ばかりでは無い。

 広大な戦場に加え、味方の数も多い。

 負担は相当なものになる。


『だ、大丈夫?』

「お気になさらず。始めましょう」


 その割にマキナの表情は涼しい。

 負担も承知の上という様子だ。

 彼女の意思を受け取ったのだろう。

 リッカはマキナと視線を合わせ頷いた。


 準備の為にマキナはその場へ座る。

 そして服を肩が露出する程度にはだけた。

 恐らくこれもリッカの魔術を伝達する為だろうが、一言くらいかけて欲しいものだ。

 その肩に、リッカの手が触れる。


「接続は完了です」

『い、行くよ?』

「ドンと来てください」


 間を置かずリッカの術は発動した。

 流石のマキナも僅かに苦痛の声を上げる。

 しかしそれを彼女は噛み殺す。


「1組が光の柱に突入しました」

「組って事は、パーティか?」

「武勲もある魔術師パーティです」


 早くも効果は出た。

 流石は世界の危機に立ち上がる勇者達。

 この調子で力を借りられたら。

 強い期待に拳を握りしめる。


 だが、奴等も一枚岩では無い。

 異変はその直後に起こった。


「……妙ですね。返答が少ないです」


 額に汗を浮かべ、マキナが首を傾げる。

 返答ができない者もいるだろう。

 交戦中なら尚更だ。

 それを踏まえても数が少ないようだ。


 実際に1組目の突入以降報告は無い。

 マキナが俺に伝えていないという訳では無いらしく、本当に突入できない状態らしい。

 これでは折角の策も水の泡だ。


 幸い巨大ゴーレムが自動的にモンスターを迎撃しているお陰で、ここに攻撃は来ない。

 アビスの背中と同じ安全区域だ。


 リッカと視線を交わし頷き合う。

 ここは彼女達に任せよう。

 俺が確かめに行くしか無い。


 マキナ達に背を向け地上へ降りる。

 そこは、混乱の怒号に溢れかえっていた。


「来るぞ! 退避しろ!」

「何だあのバケモノ!?」

「あんなモンスター、見た事無いぞ!」

「キマイラにしちゃデカすぎる!」


 逃げる者、立ち向かう者、呆然とする者 。

 反応は多々あるが統率は乱れている。


 その混乱は全てたった1体のモンスターによって引き起こされていた。

 怒声の中にも核心に近い者はいた。

 モンスターの正体はキマイラだ。

 ただ、普通のキマイラとは訳が違う。


「——聞こえるか」

「早いですね、どうされましたか?」

「少し厄介なモンスターが暴れていてな」


 ゴーレムで状況をマキナに伝える。

 暗黒龍にも匹敵する巨体。

 何百ものモンスターが入り混じった異形。


 危険度S級合成獣。

 名をギガ・キマイラ。

 しかも制圧魔術で凶暴化している。

 少しどころか、非常に厄介だ。


「お任せできますか?」

「——ああ」


 返答はしたが、少々安請け合いだ。

 まさか危険度S級と戦う事になるとは。

 何とかしなければいけないのは確かだが。


 援軍にマキナの通信を気づかせる。

 その為に1人でS級を引きつける。

 ひりつくような緊張感。

 伸し掛かるプレッシャーを振り払い、俺はギガ・キマイラと対峙した。


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