表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/184

最強の愛娘

 

 魔法陣の中心に座るラナ。

 戦闘で荒れた呼吸を整えている。

 無傷ではあるが疲労は大きい。


『制圧魔術は手順を踏まねば解除できん』


 そうだろうとは思っていた。

 壊して解除できるなら既にやっている。

 ラナも呼ばれる事は無いだろう。

 それに、何か罠があるかもしれない。


「で、どうやって解除するんだ?」

『それが……我にも分からん』

「すまん龍皇、今何と?」


 ここ最近で一番間抜けな声が出た。

 一瞬、気が緩んでしまう。


 俺は当然解除法など分からない。

 サレイ程度の知識でも不可能。

 それを魔術素人のラナに任せるのか?


『我も不本意だ! 最愛の娘をこのような危険に晒さなければいけないというのは!!』


 龍皇も苦渋の決断だったようだ。

 例え最強種族でも心配にはなるだろう。

 何よりラナは一度重傷を負っている。

 古傷が開かないとも限らない。


 博打にしては危険な賭けだ。

 頼る相手がラナでなく、しかも世界の存亡が掛かってなければ悩ましい場面だっただろう。


 しかし、その条件は揃っている。

 世界の為にも逃げるわけにはいかない。

 それにラナなら安心できる。


 その全てをラナに伝えた。

 彼女は肩を震わせたが、声は上げない。

 覚悟はできているようだ。

 俺も、ラナに賭ける覚悟はある。


「アリク様! 絶対に離れないで下さい!」

「別に良いが、何でだ?」

「緊張しないようにです!」


 彼女の頼みなら仕方ない。

 言われた通りに横へ座り、肩を寄せる。

 動きにくく無いのだろうか?

 これで落ち着くなら良いのだが。


「多分、こうです!」


 彼女の声と共に解除が始まった。

 俺とサレイが行った解体とは訳が違う。

 世界を支配できる魔術を止めるのだ。

 しかも失敗したら何が起こるか予測不能。


 前にもこんな事があった。

 サレイ達と港に行った時の事だ。


 やはり俺に手伝える事は何も無い。

 それでも俺が役に立つのなら。

 真剣なラナの横顔を見つめながら、俺は魔法陣が解体されていく様子を観察していた。


「次は、これ!」

「多分ここを切断すれば……」

「一つ解除できた、と思います」


 行動を全て言葉にするラナ。

 実際、魔力は縮んでいる。

 解除は上手く行っているのだろう。


 魔力の導線を切断する。

 爪で地面に描かれた魔法陣に線を引くだけの行為だが、これが世界の未来を守る行動なのだ。

 その光景が記憶に刻まれていく。

 無意識に覚えてしまう光景だった。


「どっちだと思います?」

「俺に聞かれてもな」

「協力して欲しいのです!」

「お、おう……右?」

「わかりました!」


 無茶振りのように尋ねてきた。

 二択でどちらの導線を切断するか、だ。

 彼女の全てが全て勘頼みだとわかる。

 まさか俺に聞いてくるとは。


 しかし、どうやら正解だったようだ。

 切断しても何も起きない。


 その後も着実に解除作業を続けていく。

 限りなく縮小していく魔力。

 もうすぐ終わる、そう思った瞬間だった。

 突然、ラナはその手を止めた。


「——っ」


 珍しく苦悩の表情が浮かんでいる。

 余程の難問に衝突したようだ。

 その難問は、俺にも理解できた。


 魔法陣の中枢を担う最後の一箇所に、これまでとは比にならない無数の魔力導線が集中していた。

 これでは選択肢が多すぎる。


 その中から切断するのは1本のみ。

 正解すれば、恐らく魔術は停止する。


 しかし数がラナを混乱させた。

 重圧は大きく、ラナを潰そうとする。

 ——そんなものに負けてたまるか。

 彼女を鼓舞する為、咄嗟に言葉を紡ぐ。


「お前のお母さんと会った」

「え?」

「お前そっくりの、優しい人だった」


 応援になっているかはわからない。

 それでも俺は続けて話した。

 龍皇が何故、ラナに賭けたかを。


「多分龍皇……お前のお父さんは信じているんだ。お前なら、お母さんのようにできると」

「私が、ママのように……?」


 俺の能力は龍妃に授けられた。

 暗黒竜の力も、龍皇に借りている。

 彼等の後押しで俺も言う事ができた。


 お前には家族がついている。

 当然俺も、お前を信じている。

 だから、胸を張ればいい。

 お前は俺の最強の相棒なのだから。


 俺達の言葉が届いたのか。

 彼女は、ゆっくりと動き出す。


「これは多分違う……これも……!!」


 丁寧に導線を見定める。

 そして怪しいものに目星をつける。

 几帳面な手法だ。


『やはり娘は妻に似たな』

「そうでもないぞ? 少し頑固だったりする」


 ラナはしっかり血を継いでいる。

 今だってそうだ。龍皇と龍妃、両者の特徴がぼんやりと彼女の姿に重なって見える。

 それが彼女の強さの理由だと思う。


 少しずつ選択肢を減らすラナ。

 やがて両手の指で数えられる程に。

 片手で数えられる程に。

 そして、二択まで狭まる。


 深く息を吸い……吐き出す。

 そしてラナは、勢いよく爪を立てた。


「これですっ!!!」


 切断された最後の導線。

 同時に魔法陣から魔力は消失した。

 ……どうやら成功したようだな。


 少しだけ安心し胸を撫で下ろす。

 瞬間、ポケットに違和感を覚えた。

 火が付いたような熱さだ。

 咄嗟に熱源を手に取り外へ出した。


 白濁の宝石だ。瞬間、俺は理解した。

 魔法陣の魔力は無くなったのではない。

 この宝石が吸収したのだ。

 ゆっくりと消えていく光の柱。

 それを形作る莫大な魔力が集まる。


「気をつけろ、先輩」


 柱が消滅する中、サレイが忠告する。


「解除されて外と繋がるという事は」

「……囲まれているという事か」

「さっすが先輩、物わかりが早い」


 柱が壊れ外部と繋がる。

 そこには当然、大量のモンスターがいる。

 繋がった直後に襲ってくるだろう。


 ラナは足止めと解除で疲労している。

 ここは俺とサレイで戦わなければ。

 揃って戦闘態勢に入る俺達。

 しかし外の光景は、想像の斜め上を行く。


「な、何でだ!?」


 その光景に驚愕するサレイ。

 俺もその景色が信じられず眉を顰める。


 目の前に広がったもの。

 それはモンスターだけでは無かった。

 対抗する人々だけでも無い。

 この位置だから"それ"が目視できる。

 左右と中心、遥か遠くに聳える"それ"。


「何で柱があと3本(・・・・)もある!?」


 見たままの光景をサレイは叫んだ。

 そう、光の柱は1本では無かったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版が2019年3月9日に発売します!
さらに濃厚になったバトルシーン! 可愛いモンスターたちの大活躍をお楽しみください!!

書影
書籍版の公式ページはこちら



― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ