戦乱最前線!
戦争中期。
魔王軍が押され始めた頃だ。
勇者の活躍が顕著になる時期。
となると当然こちら側は凄惨だ。
その光景を目の当たりにしている。
「第3師団、帰還! 全員重体です!」
「手の空いている者は回復へ!俺も行く!」
「しかし魔王様は!」
「いいから!」
魔王城の広間も、奇跡に近い光景だ。
この期に至り未だ死者はゼロ。
魔王は辛うじて約束を守っていた。
一方、負傷者は際限なく増えていく。
城に残る者は回復に追われている。
次々に運ばれてくる意識の無い負傷者。
まさにジリ貧。消耗戦である。
そんな中、リヴァイアサンは自らの自己再生能力で傷を治していた。初戦の傷は既に無い。
この戦いで彼女は重要な戦力だ。
「回復完了、再び出る」
「リヴァイアサン、まだ休め!」
「休んでいられるか! 今も戦場では皆が!」
鎧を身に纏いながら魔王と口論する。
両者共に発言には利がある。
彼女の疲労を回復させ守りたい魔王。
1秒でも長く戦い、仲間を守りたい彼女。
互いに守りたいという意思は変わらない。
ならばどちらが多くを守れるか。
魔王の制止を無視し、広間を出る。
その背中を再び呼び止める事は無い。
彼もその利には気づいていた。
魔王軍の半分の戦力を誇るリヴァイアサン。
龍皇も彼女と同じく主戦力である。
だが今回の敵はそんな龍皇の天敵である。
となると、彼女が動くしか無い。
しかし。
「出陣するのか、リヴァイアサン」
「……龍皇」
彼女を龍皇は待ち構えていた。
「我も行こう」
「何を言ってる、お前は休んでいろ」
「貴様だけで勇者と戦うつもりか」
「もう遅れは取らないさ」
「調子に乗るな、海魔」
龍皇の傷は未だ癒えない。
だが同時に龍皇の言葉も的を射ている。
現状、彼らに勇者の攻略法は無い。
単純な戦闘での勝負になる。
その上、龍皇の知る結果はほぼ敗北。
彼女が何度勇者と会敵したのか知らない。
それでも現状は芳しく無いとわかる。
彼女は未だ、勝利を遂げていない。
「お前には家族がいるだろ! 龍妃の意思を汲もうと思わないのか!?」
これが、リヴァイアサンの意思だった。
彼は暗黒龍を束ねる指導者。
子供を授かったばかりの妻もいる。
そんな彼を戦場で失いたくない。
平穏で平和な生活を過ごしてほしい。
対してリヴァイアサンは孤独な存在。
それに自ら回復だってできる。
だからこそ、彼女は単一で戦える。
「……我は、そんなに器用では無い」
「ならば今から彼女に似合う男になれ!」
龍皇の言葉にも悲壮感が宿る。
8000年後の今とは大違いだ。
だがその言葉は確かに龍皇のものだ。
ある意味で彼らしい不器用な言葉。
それはラナとの関係からも伺い知れる。
龍皇の全てを内包した行動と言動だろう。
不器用な彼なりに考えた、やるべき事。
答え合わせするかのように、それを語る。
「だからこそ俺にも戦わせてくれ」
そうだと思った。
一人称に素が出ているのが意外だが。
若い時期はあったのか……当たり前か。
彼の回答を聞き届けたリヴァイアサン。
ため息を吐き、呆れ気味に口を開く。
「女として、龍妃の気持ちは痛くわかる」
「………………」
「だが同時に、貴様と同じ武士だ」
そう言って彼女は再び歩き出す。
後ろを歩む龍皇を止める事は無い。
彼女も魔王の制止を無視して出るのだ。
「龍妃を守る事だけ考えて戦え」
「どういう事だ?」
「そんなお前を私が守ってやればいい」
「……任せた」
* * * * * * * * * *
戦場に出た彼らの強さは驚異的だった。
他のモンスター達など出る幕も無い。
リヴァイアサンの手から放たれる破壊光線と、龍皇の操る暗炎の乱舞。
立ち向かえる人間など、1人もいない。
高専に吹き飛ばされる前線の人々。
炎に焼かれ逃げ惑う兵士達。
戦場は、モンスター達の優勢に思えた。
彼女達が現れるまでは。
「そこまでですっ!」
「来たか、勇者!」
見上げながらリヴァイアサンが叫ぶ。
その顔は僅かに笑っていた。
上空から飛来する2人の勇者を見て。
レーヴァテインとアスカロン。
ムラサメの姿は無かった。
その状況に、リヴァイアサンは訝しむ。
どうやら彼女は全勇者と会敵済みらしい。
「あの細いのはどうした」
「貴女など、お姉様が一捻りです」
「舐めるなよ、人間!」
ムラサメはリヴァイアサン専用。
彼女はそれすら知っているらしい。
後頭部から高速で触手を伸ばす。
アビスの戦闘モードでも使う戦術だ。
だが、その速度はアビスより遥かに早い。
一瞬のうちに勇者達を絡め取る。
完全に自由を奪ってみせた。
「やれ! 龍皇!!」
その地点を龍皇は睨みつける。
途端に立ち上る巨大な火柱。
ブライとの戦いでも見せた技だ。
「ぐ、がっ……!?」
「……っっ!!」
やはりとてつもない火力。
勇者達もただでは済まない。
完全に怯んだ2人の勇者。
その隙をつき、リヴァイアサンはレーヴァテインのみを捕縛したまま走り出した。
2人の勇者を切り離したのである。
残されたのはアスカロンと龍皇。
初対面となる新たなる勇者。
炎が消えると同時に、彼女は挑発した。
「……判断を誤りましたね。私は暗黒龍を殲滅する為に生み出された」
「ほう……そうか」
そう、アスカロンは暗黒龍へ特効を持つ。
人間側がそうなるよう設計した。
果たしてその効果がどの程度かは不明。
だが弱点に対峙するのは変わりない。
しかし、龍皇は余裕を崩さない。
彼は意味もなく油断なんてしない。
この余裕には、しっかり理由があるはずだ。
「ならば試してやろう。龍皇直々に」





