表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークサイド 真実は闇の中  作者: 森 彗子
第7章
41/41

闇からの帰還 7

 ―――探してあげたいと思ったのに、これじゃ……どうすることもできないじゃん。


「彼が、好きなんですね?」


 ビョンデットはいつの間にか流れ落ちた涙を、ハンカチで拭いてくれた。


「人を好きになることをあんなに嫌っていたのに、すごい進歩です。

私も陵平のことを良いヤツだと思いますよ。


あなた達はお似合いじゃないですか」


 まさかビョンデットに陵平と私がお似合いと言われるなんて思わなかった。


「それでどうするんです?

陵平の両親について調べてきてあげましょうか?


地獄の炎に焼かれている時点で、陵平の父親は悪魔に魂を取られています。


この悪魔と戦いますか?」


「え?」


「この悪魔を倒せば、陵平の両親は安らかに旅立つことができるでしょう。

ただ、この悪魔は恐らくアグネータのようにはいかないと思います。


見習い戦士のあなたの手に負える相手ではない。


調べられるだけ調べて、それからどうするのか考えましょうか。

それで良いですか?」


 私は息が詰まる思いをしながら、頷いた。


「ねぇ、どうしてお前は私の指導官になったの?」


 急に気になった疑問を素直にぶつけると、ビョンデットは冷たい表情を浮かべて私をまっすぐに見つめた。何度見つめられても、身体が震えるほど怖い。


「あなたが、暁 翠みどりの子供だからです。私は元々、翠の指導官をしていました」


 意外過ぎる回答に、私の脳はフリーズした。


「お母さんの?」


 まさかの名前に動揺してしまうのは、お母さんが光の戦士だなんて初めて知ったからだ。


「どうして今まで黙ってたの?」


「あなたがまだ子供だからです。でも、今やっと卵の殻を自らの意思で破り始めた。これ以上は明かせませんが、翠はとても優秀な戦士です。


ずっと家庭にいないのは、今もどこかで戦っているからです」


 いつも不在がちだったのは、そういう理由だったのか。


「それに、あなたの傍にいればあなたが見つかってしまうから」


「私が?」


「悪魔は翠の弱点を探していました。あなたに不用意に触れないのは、匂いがつかないようにするためです。守るために抱きしめない、それが翠の覚悟でした」


 ―――え? なんで、今そんな話をしてるんだろう?


 急速に背筋を冷たい電流が流れたような気がして。



 ビョンデットの実体化。

 お母さんの秘密を暴露する意図……。



「ねぇ、お母さんは今どこにいるの?」


 声が震えていた。

 急激に不安に支配され、身を切られるような苦痛を感じている。


「知ってるなら、教えろよ!!?」


 ビョンデットは憎たらしいぐらい顔色ひとつ変えずに、私を見つめている。


 何も言うつもりがないのは顔付からも解るのに、私は掴みが掛かってその大きな体を揺すった。


「……翠は生きていますよ。

それよりも、今あなたが感じた不安を陵平にも味合わせたいですか?」


 その一言が私の頭部をレンガで殴ったぐらいの衝撃を与えてきた。


「……やはりまだあなたの手に負える案件ではない。

翠の手が空いたら、力を借りても良いかもしれないけれど……」


 急に語尾を落としたビョンデットが、目を閉じて沈痛な表情をする。


 ―――今度は何だよ?


 気が休まることなんてない。

 危険な仕事をしていると知ってしまったら、私はかつてないぐらい心細くなった。


「……まどか。


今、翠とは別の戦士が殉職したという知らせが届きました。

現役で悪魔と戦っている戦士は地球上に数十人程度存在していますが、今年に入ってこれで五人目です。


次の世代が育つ前に死んでしまうのは良いことではありません。

荒っぽい手段ですが、あなたの成長を加速させる手段があります。


どうしますか?」


 真剣な顔でハリウッド映画で見るような不可解な展開に、思わず笑ってしまいそうになる。だけど、ビョンデットがそんな冗談を言うようなヤツだとは思えない。


 何せこいつと来たら、今の今まで一度だって私の冗談を冗談だと見抜かないんだから。


 そんなヤツがこんな上等な冗談を言うわけがない、とわかっている


 わかっていながら、脳が拒絶したのはきっと怖いからだ。


 ―――荒っぽい手段で成長を加速させるだと???


 全然、知りたくない。

 むしろ両手で耳を覆い隠して目を固く閉じたまま朝まで寝てしまいたい。


「私の他に候補生はいるんでしょ?」


「いるにはいますが、まだまだ実践投入には至らない個体ばかりです。

あなたが一番有能なんですよ。なにせ、その光の量と質は前例がないので」


「私の個体スペックなんてどうでも良い。その荒良治で成長加速したら陵平の件は私が対処できるようになるわけ?」


 私の問いに、ビョンデットは唇を綻ばせた。


「そう来ると思いましたよ。もちろん、あなた単独で対処できる力が手に入ると予測しています」


 ―――急激な成長を手に入れるということは、失うものもある。


 後悔のない選択なんてない、という気がしてきた。

 選んだ道しか知りようがないんだから、選択肢なんてそもそもひとつしかないのかも。


 運命というものがある。


 私はまだ自分の運命をあまり知らない。

 わかっていることは、


 生まれつき魂の光が強く濃いこと。


 始めはそれしか、知らなかった。



 だけど、人にはそれぞれに何か

 とんでもないものを見えない何者かによって背負わされている。


 私が光の戦士に生まれついたように、

 陵平もなにか壮絶なものを背負っていて、

 きっと何も言わないけど

 ビョンデットにも


 お母さんにも


 顔も名前も知らない父親も―――


 美貴だってそうだ。



 前途多難であっても

 投げ出すわけにはいかない。



 家族ならば

 家族だからこそ


 諦めたら

 そこで終わり。


 諦めなければ

 人生は続けられる。



 「力が欲しい。大事な人を守るための、力を……」



 頷くビョンデットが腕を伸ばし、

 私の顎を持ち上げて突然口付けをしてきた。



 唇の間を割って入ってきたものが

 スルスルと喉の奥へと進んで行った。


 ふわりと体が浮かび上がると私は宇宙を漂い始めた。


 

 「あなたと私は今、ひとつになる……」



 ビョンデットの声が聞こえたと同時に、

 深い海の底へと沈んでいくような冷たい力に引っ張られ

 どこに辿り着くのかも知らない果てしない旅に出た。


 もちろんそれはかなり怖いけど

 私は迷わずにただ前だと思う方へと進む―――



 その先に

 新しい未来があると予感したから――――――





 陵平の背負う闇を私が光に変えてやりたい

 それが一番の願いだから







 

 ダークサイド1 終わり 


 ―――――ダークサイド2へとつづく




「ダークサイド2」も随時アップしていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ