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ダークサイド 真実は闇の中  作者: 森 彗子
第6章
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初陣 6

 ぞわぞわと、尻から頭の天辺に目掛けて悪寒が逆なでしていく。


 私はもしや、とんでもないヤツと手を組んだんじゃないだろうか?


「ものは言い様だ!! まどか、惑わされてはいけない!!


アグネータ!


あなたがたが崇拝した神の意志は、

あなたがたが自分に都合の良い理として利用しているだけだと気付いたのです。


あなたがたは罪深い。


命という尊い存在に敬意がない。


さらには、その命の源である魂を喰らい、自らのエネルギーを増徴させ、操り人形を担保しては利用の限りを尽くし、運命を弄ぶ。


そんな愚かな行為はいつまでも続けさせませんよ!!」


「我らが父を侮辱することは許さぬ!


ビョンデット! おまえをここで抹消する!!」


「消えるのはあなただ!アグネータ!!!」


二人の間に物凄い爆発のような光が迸った。


 美貴の家の中はすでに空間として凄まじいほどに歪み、掴めるものにしがみつくしかない有様だ。

 現実としてあり得ないことが今ここにこうして起きている。

 さらには、台風で荒れ狂う波のような波動が不規則に、猛スピードで飛んできては私の身体を貫いていた。それが通過するたにび、全身の骨という骨がジンジンと軋んで、脆くなったらどうしようという心配が脳内を占拠していた。


「こりゃ、悪夢だ……」


 人間のレベルを超越した悪魔対元悪魔の一騎打ち。


 波打つ足場に振り回されて、

 全身打撲にならないようにただ必死にしがみつく私―――


 戦いに参加できるわけがない!!


 別次元化した空間の中で目が追いかけかれない速度で動き回る二人の、剣同士がぶつかり合うような耳障りな音と、そこから飛んでくると思われる波動だけでもう死にそうな気持になっていた。


 ―――――なんなんだよ!あいつら!!


 結局、来ないって言っておいてやって来たビョンデット一人が戦っていて。

 私の出番なんてないのかと思うと、言いようのない情けなさが胸に広がっていく……。


「ぐわぁぁぁぁぁ!!」


 ビョンデットが床に叩きつけられるように降ってきて、悲鳴を上げた。


 ギョッとしていると、片目を開けたヤツが私を見て「あなたの光をもっと!!」と、催促されてしまう。


 言いたいことはわかれども、いざという時に具体的に何をどうすればいいのかさっぱりわからない私は、慌てて右手から光の剣を出した。柄を握りしめた時にありったけのエネルギーをそこに集めていくと、ビョンデットは瓦礫の中から這い上がってきて私の隣に立った。


 バサッと音がして、見上げると天井は消えて代りに真っ赤な川のようなものが急速な流れを描いていた。空とは思えない光景に、やたらと翼を広げている気味の悪い黒い鳥が甲高い声を上げて咆哮した。


「アグネータは変身自在!!あいつが襲ってきた時が狙い目です!!」


「わかってる!!」


 巨大鳥はフクロウのような顔をクルンとあり得ない角度まで回すと、顔が天地逆転をした格好でいきなり攻撃モードに転換した。と、思っていたら矢のように翼を折りたたみながら突撃してきた。



 あんなのをまともに食らったら、どうなる?



 瞬間にそう思って、逃げようかと思ったが。



 小さな少女達の泣き顔が頭に浮かぶ―――




 ――――――この悪魔が詩織さんを、美貴を―――――――――



 そう思ったらもう。




 怖さは消えていた。




 突撃してくる槍に対して切っ先を向け構える。



 一瞬の判断だ。



 強い衝撃波が発生した。




 落雷のような激しい破裂音がさく裂して自分が握りしめていた剣も飛んで行ってしまうぐらいに凄まじい感触だった。




 だけど、一陣の風が吹いたかと思うと




 目の前が真っ白に染まって―――――――――






 ガァァッァァッァァァァァァァァァァァァ





 断末魔のような音が響き渡り、真っ赤な空が突然弾けて、青く澄んだ空と白い渦巻き状の雲が視えた。




 白い翼を背中に生やした長い金髪の貴公子が私をその大きな翼で守っていた。




 余裕ぶった笑みを浮かべて「彼女が単細胞で助かりましたね」と囁くと、白い羽を残してふわりと消えた。まるで大気に溶けてしまったかのように――――――。




 すると一瞬で、最初の部屋に戻ってきた。

 



 手がビリビリとした震えが残っていたが、光の剣も消えている。




 呆然としていると「あなたは運が味方してくれている」と、またビョンデットの声が聞こえた。




「おいおい……、そりゃないよ……。


これが初陣なんて、そんなぁぁぁぁ」



 自分でも情けない声しか出ない。


 巨大鳥に変身した悪魔を一撃必殺で倒した、だなんて実感がまるでないんだ。


 周囲に漂う黒い気配を追い払うため、気を取り直して再び剣を出して部屋中の空気を切っていく。浄化された空気は、解けた靴紐のように一気に締め上げていた者たちを解放した。



 その中に、肝心な人がいて話しかけてきた。



 詩織さんと、美貴のお父さんだ。



 悪魔が残した硫黄という硫黄を光で完全に消し終ってから、私は二人の霊魂と話を始めた。


 殺害した者と殺害された者同士が手に手を取って微笑みながら立っている。



 まるで幸せそうな夫婦だ。



 「助けてくれてありがとうございます!!」



 さっきとは別人なぐらい綺麗な顔をして明るくなった詩織さんに手を握られた。



 「いえ、私は大したことはなにも……」



 殆ど、ビョンデットがやってくれたんだと思うと複雑な気分だ。

 お礼なんかされている場合じゃない気持ちで握手に応じていると、美貴のお父さんが口を開いた。



 「子供たちのことだけが心残りです」 



 それは子を持つ親ならば誰もが感じることだ。



 私はポケットの中に仕舞っておいた手紙に触れて、親指で人撫でしてからそれを二人の前に取り出した。


 


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