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第1章 第30話  で?

 何か興奮が冷めやらぬ、って感じで一夜あけた。


 私じゃないよ、他の人達。


 もうこれでいいよね、ってジョーカーに言ったら「ね。」って返ってきた。


 何、このカワイサ。


 ・・・・でもね、そのこくびかしげる仕草、私にしか通じないと思う。


 その尻尾の子蛇ちゃんたちも、一斉にこくびかしげてるけども、ドンマイだ。


 どこから引っ張りだした知識か知らないが、カワイサを求める気持ちは、大事だよ、たぶん。


 何となく無事におつとめ終わりました!って雰囲気の私が、機嫌がいいのは当たり前。


 ふんふん、とくつろいでいるとエンちゃんがきた。


 今日はシリ―と一緒だ。


 ロウゼはレアル王子についている、いろいろ話があるらしい。


 どうしたの?エンちゃん、最初から、暗い雰囲気だねぇ。

 

 若いお姉ちゃん達がワンサカきたんだからさ、ちょっとは自分の強面さと図体のでかさを考慮した方がいいよ。


 それに、そんなくら~い雰囲気じゃ、ドン引きされちゃうよ。


 まぁ、人の心配してるとこじゃないよね。


 女、特に若い女って鬼門だよ、あれは・・・怖い、男の目のない所でやる、ねっちりしたいじめは、本当に考えただけでも・・・ごめんなさい、だ。


 なるべくこの天幕にいる、私はそう自分に誓った。


 世界は変われど女は変わらず!そう思ってた方が安全なはず。


 それでエンちゃんに、どうしたの?と聞くと、案の定、厄介ごとだった。


 あの王子サマ一行との昼食のお誘いだった。


 昨日は私が嫌だから昼食を断わったからねぇ、嫌なのわかって誘うのは、って感じなのね。

 

 でも王子サマからの言葉だし、それでグルグル板挟み状態、ってわけね。


 しょうがないか、エンちゃんのへたれ好きだし、私の気分もいいし、これも一度くらいお付き合いするか、そう思った私ってえらくない?確実にオトナの階段上ってるよね。


 誰もほめてくれないけど・・・。






 それで、昼食は、なぜか天幕の外で、ピクニックになった。


 どうやら私の昼食は外でのピクニックと認証されているみたい。


 思い起こせば・・・納得した。


 あはっ、ここにきてから、私ってば昼食、ことごとく外じゃん。


 朝とか夕食はエンちゃんの一番広い天幕で何人かととるんだけど、昼食って、そこらへんプラプラしながら、軽いの食べてるんだよね。


 それで私の昼食は外で食べる、が認識されちゃったのね。


 案内されて行ってみれば、しっかりとした屋外用のテーブルと椅子がずらっと並んでいる、えぇ、いつこんなの用意したの、全然知らんかった。


 権力者って、どこの世界も半ぱねぇ、無駄な労力ここでも見たぁ!




 そこで行われる総勢50人くらいの昼食には、何と若く綺麗なお姉さん方も、ちょっと昔は若く綺麗なお姉さんだった人も参加してる。


 それに給仕のお姉さん方がびしっと揃ってる。


 びびる、まじで、こういうスキル私ないんですけど、対お姉さん方のスキル一欠けらもないんですけど。


 何で参加しようと思ったのかな、私。


 遠い目になりつつ、両脇にはロウゼとシリ―が座り、全て顔なじみばかりが私のテーブルにいてくれた。


 アルが挙動不審な様子を隠そうともしない。


 見れば、ちらほらとそういう人達がいた。


 さては、若いお姉さん方に免疫がないと見た。


 おおっ、その様子を眺めて萌えながら、それでこの時間を耐えよう、それを楽しみにこの時間を耐えようと私は思った。


 あは、アルってばどこの一年生?みたいな椅子の座り方してる、今なら右足と右手を一緒に出して歩く、というカミワザも発揮できるんじゃないか?


 私が生暖かい目で、そんな彼らをみているのに、ええ、それなのに、さっきからビシバシきてるんですが。


 上座のレアル王子の周囲にいる取り巻きの一部と、何かすんごいヒラヒラの豪華な衣装をきたお姉さんの私を見る目がきつい、勘違いでなくきついんですけど。


 何なのさ、とは思ったけど、どうせもう参加しないし、と思って、ロウゼたちと片言で話しながら頑張った、気がつかないふり、私はできる子、やればできる子、と何度も自分に言い聞かせながら。


 時々レアル王子から話がふられて、ちっ!話しかけんな!と思ったけど、一生懸命ロウゼが通訳してくれるから、しょうがない、適当に返しといた。


 それで苦行の時間もやっとこさ終わり、エライ人から順に退出していくらしく、レアル王子を先頭に席を離れていった。


 私のそばを通る時は忘れずに、ニヘラっとまたまた頑張りましたよ。


 ところが、その後、やっと終わった、やれやれと思っていると、取り巻きの数人とあのきつくにらんでくる女が、私のそばを通る時何やら話しかけてきた。


 ロウゼが間に立って、少し困ったように通訳してはくれるけど、無視したよ。


 睨んで話してくるやつなんか、私、相手しないもん。


 そのまま怒りだす彼らに、まるっと無視をそのままきめこむ。


 言葉わかんないから、こういう時は楽だ、聞く気がないから、ただのノイズだもん。


 女が私に指をつきつけてわめいている。


 何気にそのごちゃごちゃつけてる指輪が目に入り、ちらっと見てみると、レリーフがうちの子らの姿に似てる気がする。


 この世界にも似たような生き物がいるのかな?興味がわいて、その女の顔を初めてみた。


 ばっちり美人さんです、出るとこも出て羨ましいです。


 で、その首元にかかるチョーカーのデザインも、大きいからすぐわかった。


 それはジョーカーに似ていた。


 何で?


 私は初めてロウザに聞いた。


 この人は、と。


 ロウザがそれに答えた。


 「邪神の巫女様」です、と。


 「邪神」っていうのは教えてもらっていた。


 どうやらジョーカーの事らしい、笑っちゃったけど。


 そのもう一つの言葉「巫女」ってなあに、って聞いたら、いろいろ言ってきたけど、さっぱりわからない。


 結局、大事な相手、というので落ち着いた。


 何ですと!ジョーカーの大事な相手?


 私がじろっと足元のチビチビサイズのジョーカーを思わずにらんだ。


 昼食の間中、チビサイズになって、私の足元にいた。


 ジョーカーも私に睨まれ不思議そうだ。


 誰がいつそんなの決めたのさ。


 ロウザが「邪心の巫女」と言ったとたん、女が上から目線で私を再び睨みつける。


 へえ、そうなんだ、へぇ・・・・。


 それでこの女ってば、エバルんだ。


 私は久しぶりに怒ったと思う、最近の私ってば、空気の読める良い子だったに違いないもの。


 居心地いいと思ったんだもん、それなりに。


 あのミミズもどきの騒ぎ以来の怒りを、ゆっくりと味わう。


 私は私に指をつきつける女を見た、取り巻きの男もまた。


 ふ~ん、勝手にそんな事決めて、なおかつ私に喧嘩売るんなら、あんた達とはバイバイだ。


 私はロウザをシリ―をエンちゃんたちを見つめて言った。


 私の声は低くなっているだろう。


 「ねぇ、そんな事本気で思ってるの、あなた達?誰が、誰の?」


 「私はもう知~らない、遊びじゃない本気モードのみんなの相手してやって。巫女さま。」




 私はみんなの理解が染み渡るまで、ちょっとじっとしていた。


 何かを言おうとするロウザの口を、ジョーカーの怒りの気配がおさえこんだ。


 小さいままだけど、ジョーカーが続いて怒りの咆哮を空に向かい大きくあげた。


 身近でゴロゴロ、コンビの軍人さんところで帰らず遊んでいた子たちもいた。


 その子たちもその瞬間咆哮を次々にあげていく。


 そしてその姿を、本気モードに変えていく。


 より凶悪に最強に。


 それは今まで戯れていた存在とは別のもの。


 彼らは、自分を乗せて共に訓練した存在が、そばでまったりとしていた存在が、変わりゆくのを茫然とした。


 そうして、遠くからの咆哮もどんどん近づいてくる、この場所に。


 あまりの鬼気、殺気、存在としての圧力に、ガタガタと震え出す取り巻きと女。


 ほら、私のそばでジョーカーが形を変えていく、より禍々しく、最恐に。


 私と私の周りの人間を残して皆この場を逃げ去ろうとする。


 けれど、ここにいるジョーカーがその圧力でもって足を縫いとめている。


 少しでも動けば殺す、それが伝わる。


 ほら、遊びにきていた子らが私の元に近づいてくる。


 唸りながら、周囲に敵意を隠さずに、一歩ごとに、その体を変化させながら。


 しゅうしゅうという音は、強い酸が口からこぼれる音、それに溶かされるものの匂い。


 私は震える女にも何を言ってのかわかるように、再びロウゼに通訳をさせた。


 ロウゼは私にこんな冷たい視線を浴びるのは2度目くらい?

 

 何をそんなに悲しそうなのかしらね、私は私であることはやめないだけよ。

 

 「ジョーカーのそばにいって。」私は女に言った。


 「大丈夫よ、これ以上は大きくならないように言ってあるもの。」


 「巫女?なんでしょ、これがあなたのだというジョーカーよ。」


 ところが、あれだけ上から目線でにらみつけてた女はちっとも動きやしない。


 私のそばに突っ立って散々わめいていたというのに、肝心の私の横にいるジョーカーに触れようともしない。


 ほんのちょっとの距離なのに。


 「じゃあジョーカーがいきなね。そんで、ん~、どうしようかな?」


 私はクスクス笑った。


 どうしようかな、すぐ触っただけで、これ壊れちゃうよね。


 それじゃあ、つまらない、そんな簡単に終わりにするのは。


 「待って。」


 私はのっそり動こうとしたジョーカーを止めた。


 少し考える。


 そうしてる間も、空も地も、どんどんうちの子らが集まってくる。


 怒りの咆哮をあげ、姿をかえながら。


 もはや、このあたりは、誰ひとり逃げる事はかなわない場所になった。


 これでいい。


 




 

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