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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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56話 報酬希望

「今回の報酬は、攻めてきた獣人達が所有している、人化の宝玉で良いんだな」

『そうだ。結果として手に入らなければ、仕方が無い。精霊契約と、同じ条件だ』


 俺達は、グンターの救援依頼を受けた。

 俺達というのは、俺とリオの2頭だ。

 グンターの会話を聞いていたリオが、「人化の宝玉が欲しい」と希望したのだ。

 グンターの言葉が日本語なら、転生者らしきリオにも理解ができる。

 グンターの言葉が日本語ではなくて理解できなくとも、言語翻訳の祝福を持つ俺の言葉はリオに伝わるので、俺の言葉だけでも想像できた。

 リオの希望を受け入れて、俺達はヒッポグリフの荷袋で、運ばれている。


「辺境伯には、その条件でレオン達が救援に応じたと伝えて、譲渡に応じて貰う」

『そうしてくれ。俺は勝手に拾うつもりだが、辺境伯側が手に入れても貰う』

「人間には使い道が無いし、相手の持ち物だから、大丈夫だろう」

『確かに人間にとっては、人化の宝玉など、無用の長物だろうな』


 人化の宝玉を使うまでもなく、グンター達は人間だ。

 宝玉が欲しいのは、軍事作戦に使う獣人以外には、人外への転生者だろう。

 身体能力を上げて、ドラゴンなどに転生するが、人間の姿にも化けたい。

 そのような転生者が存在して、上手く天使に質問した結果、実現した。

 そして、実現する手段の一つが現代まで残ったのだと、俺は予想している。


 俺の予想は、大祝福あたりで得た『錬金術』などだ。

 それが合っているのかは、もちろん分からないが。


 ――リオは、人間になりたいわけだな。


 リオの知識が普通のライオンではないことは、これまでの会話で確定的だ。

 明らかにライオンではない環境で、しっかりとした教育を受けている。

 リオが元人間の転生者だった場合、ライオンへの転生が本意ではなかったのなら、一時的にでも人間の姿に成れる人化の宝玉は、欲しいと思うかもしれない。

 だからリオは自分の宝玉を獲得すべく、協力の意思を示して、付いてきた。


『大隊長2人が使った人化の宝玉は、2個とも必要だ。俺と共に加勢するリオも、三倍以上の魔力で契約した中級精霊がいる。通常の契約よりも、頼りになる』

「分かっている。よろしく頼むぞ」

「ガオオッ」


 反対側に吊り下げられた袋の中から、リオの鳴き声が上がった。

 俺がリオの参戦を認めたのは、実際にリオが戦力になるからだ。

 人化の宝玉は、獣人の手元にある。

 そして大隊を率いる大隊長を倒さなければ手に入らず、ヒッポグリフを操るグンターはヨハナを優先して動くので、俺だけでは入手できないかもしれない。

 そのため作戦が成功して、宝玉が手に入る可能性が高くなることを、優先した。


 ――リオに人化の宝玉を持たせると、リオが俺から独立する可能性もあるが。


 宝玉で変化できる時間や、次の使用までのクールタイムは、如何ほどか。

 無制限に使用できるなら、リオは人間に変化して、群れから去るかもしれない。

 リオに「アカシアの木の下よりも、屋根がある家のベッドで眠るほうが、ぐっすり眠れる」と言われれば、俺には否定の余地が無い。


 リオが去ることは、俺にとっては好ましいことではない。

 だが俺は、2つのことを考えて納得した。

 1つ目は、リオに大きすぎる不満を持たせないためだ。

 リオが人化の宝玉を手に入れる機会を妨害すれば、一生恨まれる。マイナスの感情を持たれ続けることを避けた。

 2つ目は、人化の宝玉を得るメリットが、デメリットを上回るからだ。

 人の姿に化けられれば、色々なことが出来る。


「レオンは人化の宝玉を手に入れて、どうするつもりだ」

『例えばグンターの依頼を受けて、荷物を運び、報酬に金貨をもらう。そして金貨で、羊を買う。羊の肉は、きっと美味いだろう』

「はははっ、なるほどな」


 俺のライオンらしい発想に、グンターは大笑いした。

 人間に化けて、町で人を襲って食べたら困るとでも、思ったのかもしれない。

 そして俺が羊を買いたいと言ったのを聞いて、安堵したわけだ。

 さらに俺を金銭で使えると聞いて、人化の宝玉を渡すメリットも理解した。

 これでグンターは、率先して俺に人化の宝玉を渡すはずだ。


 ――人間は食わないぞ。殺すことは、有り得るが。


 ライオン狩りをする人間が居れば、人間に化けて情報を集め、大元を殺す。

 それは充分に有り得るし、自衛が悪いとは、これっぽっちも思わない。

 大元の排除が出来なくても、人間が来ない安全な土地を聞き出すことは出来る。人化の宝玉は、俺にとっても利用価値が高い。

 そのようなことは一切口にせず、俺は食糧事情について語る。


『今は雨季で、草食動物の動きが変わった。群れが、狩りに苦労している』

「精霊と契約したレオンであれば、苦労しないと思うが」


 それは吊り下げられた袋の中で、首を横に振った。

 もちろんグンターには見えていないが、俺は切実に訴えた。


『精霊魔法で派手に狩り過ぎると、動物がナワバリから逃げて、俺が独立すると群れが苦労する。人間から買った羊なら、そんな問題は起こらない』


 なお14世紀における羊の値段は、1シリング5ペンスだと見たことがある。

 1シリングは12ペンスなので、羊1頭の価格は17ペンスだ。

 1ペンスは約3000円なので、羊1頭は5万1000円で買える。


 一方で金貨は、中世にイギリスで発行された、重量7.7グラムのノーブル金貨1枚が、6シリング8ペンス、あるいは80ペンスの価値であった。

 金貨1枚(80ペンス=24万円)あれば、羊を4頭から5頭買える。

 もっとも一般的な金貨は、3.5グラムが多い。

 重量が半分ほどのハーフノーブル金貨も出回ったことから、金貨1枚は12万円ほどで、羊2頭だと考えたほうが無難かもしれない。


 ――ちなみに、金貨1枚と銀貨10枚が等価。


 40ペンスのハーフノーブル金貨と、4ペンス銀貨10枚が等価である。

 金貨1枚が12万円、銀貨1枚が1万2000円。

 金貨と銀貨が1対10なら、計算は少し楽になる。


「色々と考えているんだな」


 ヒッポグリフの背で、グンターが感心の声を上げた。


『ほかにも欲しいものは有るぞ。人間の職人に、雨風を凌げる小屋を作らせて、ナワバリに置く。すると雨風を凌げる』

「それは確かに、雨風を凌げそうだな」

『俺達ライオンは、ほかの動物から襲われる。俺もスイギュウやハイエナに襲われたことがある。小屋があれば、それらを防げる』

「それは重要だな」


 あとは金銭で人間を雇い、ハイエナ狩りをしてもらうことだろうか。

 上級精霊のブレンダで人間の軍に協力して、傭兵として金貨1万枚を稼ぎ、それを上限として、ハイエナ1頭の死体につき金貨1枚の報酬を出すとする。

 金貨との引き替えは、辺境伯家や男爵家に委託する。

 すると金が欲しい人間達が、大量のハイエナを狩ってくれるわけだ。


 中世には、動物保護団体は存在しない。

 競合するハイエナを減らしておけば、子孫の生存率が高まる気がする。

 もっともハイエナを倒すと、増えたライオンが人間の脅威になる恐れもある。

 すると近代でライオン狩りが始まり、結果的にマイナスかもしれない。

 余計なことはせず、素直に羊を買って食べたほうが良いかもしれない。

 その辺りは、悩ましいところだ。


「現地では話す余裕が無いかもしれないから、先に打ち合せをしておく」

『ああ。頼む』

「領都には、辺境伯軍、国軍、諸侯軍、義勇兵で2300から2800人の兵士が居る。敵は、獣人2個大隊800名で、人間の兵士6400人に相当する」

『二倍以上の差があるのか』

「獣人側の兵数は、定数より減っていたはずだ。600といったところか」


 街道を封鎖していた獣人達は、王国との戦いで数を減らしている。

 グンターは獣人の戦力を訂正したが、それでも2倍ほどの差がありそうだった。


「領都と第二城壁内で、乱戦になった。ヨハナ達は内城で、防戦中だ」

『内城に籠もっているのなら、しばらくは持ち堪えられそうか』

「領都には人間が多いので、援軍が無ければ膠着する。だが攻め込んだ獣人達は、後方の軍団にも連絡しているはずだ。獣人の増援は、人間よりも早く来る」


 人間と獣人は、辺境伯の領都を最前線として争っている。

 だが人間側は、辺境伯領の後方にある港町ビンゲンを塞がれていた。

 最前線に駆け付ける場合、距離が遠い人間側が遅くなってしまう。


「あちらは、レオンが倒した大隊長の部隊が最前線の近くに残っている。軍団長が単騎で駆け付けても、即座に動ける。1人なら、ヒッポグリフで移動できる」

『それで軍団長が大隊を率いて来る前に、大隊長2人を倒して追い散らすわけか』

「そうだ。統率しているボスを倒せば、バラバラになって逃げていく」

『了解した』


 状況を理解した俺は、戦闘前に気力を回復すべく、荷袋で猫のように丸まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの人になれるフラグ?! ライオンから商人になるなんて予想してなかったけど 独立した時に商人となって人と交流して言語を理解できないっ子孫のライオン達の時代になっても、父親がやってたから…
[良い点] 目指せサバンナライオンハウス! 実際、野生のライオン生息地に小屋置いたら巣として使うことはあるんだろうか
[良い点] 今回の展開のミソは『人型への進化』ではなく飽く迄『一時的人化』という事か。 [一言] 実際問題として「人間の手」が使えるのは大きい 大型生物の強固な皮膚も打製石器で何とでもなる。
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