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ライオン転生  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 炎翼虎と金狼

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46話 高速船捕捉作戦

 マルデブルク王国は、巨大な内海に突き出た半島国家である。

 その内海は、前世のカスピ海のように、外海とは繋がっていないらしい。

 外海と繋がっていないのであれば、厳密には湖と呼ぶべきかもしれない。

 だがグンターの地図や、馬車の移動速度から大雑把に見積もるに、内海の大きさはアメリカの国土面積に匹敵するように思われる。


 ――アメリカの国土面積は、日本の26倍ほどだったかな。


 ちなみにカスピ海は、日本の国土面積とほとんど同じだった。

 カスピ海が海と呼ばれるのであれば、マルデブルク王国が面する巨大な湖も、内海と呼んで構わないのではないだろうか。

 少なくとも現地民は、全員が海と呼んでいる。

 内海に面したハイルブロン公爵領の港から、キャラベル船2隻が出港した。


「モフモフしていますわ!」

「……ガオッ」


 現在の俺は、船の1隻、エアランゲン辺境伯家のキャラベル船に乗っている。

 そして船には、エアランゲン辺境伯に縁のある貴族と子女も乗り込んでいた。

 貴族達は、大人と子供に分かれて集まっている。

 子供達が集まっているのが、珍しいライオンがいる俺の周りだ。


「鳴きましたわ。あたくしが、背中を撫でたからですわ」

「わたくしが、頭を撫でたからだと思います」


 俺の背中をモフっている金髪の娘は、ノイケルン侯爵家令嬢クラーラ。

 額のほうをモフっている黒髪の娘は、ロストック伯爵家令嬢ブルーナ。

 どちらもヨハナの従姉妹で、母親の姉の娘にあたる。

 年齢はヨハナと同じくらいで、モフモフが大好きなお年頃である。

 俺はペタンと伏せて、幼女達が撫で易いようにしてやった。


「お腹も触って良いんですの?」

「あっ、目を瞑りました!」

「ガオガオ」


 ほかにも伯母2人、伯母の息子2人、祖母の辺境伯夫人、祖母の甥にしてハイルブロン公爵の次男でもある準男爵が、グンターと共に乗っている。

 伯母の子供達4人は、エアランゲン辺境伯家の継承候補者なのだろう。

 準男爵は、公爵家が出した立会人と思われる。


 ――最前線で孤立状態の辺境伯領を継いでも、あまり旨みは無さそうだけどな。


 だから横槍なども入らず、直系の子孫と親戚が、確認するだけなのだろう。

 そんな辺境伯家に縁のある面々の関心が、俺に集中していた。

 大人達は離れて見守っているが、子供達は遠慮知らずだ。


「この子は、噛んだりしませんの?」

「賢いので、大丈夫です」


 クラーラに尋ねられたヨハナは、安全を保証した。

 だが尻尾を握られたり、顔を叩いたりされたら困る。

 釘を刺してほしいが、士爵の娘が侯爵家の令嬢には、注意できないだろう。

 そして俺も、話せない振りの最中である。


「どこで拾いましたの?」

「辺境伯領と、カストル侯爵領の間の街道です。生後1ヵ月くらいで、1頭だけで歩いていました」

「親のライオンと、はぐれたのかしら」

「親は近くに居ませんでした」

「あたくしも、欲しいですわ」


 侯爵家の令嬢が、無理難題を言い始めた。

 俺は逃げるようにヨハナの下へ行き、ヨハナの足に顔を擦り付ける。


「ああっ、ヨハナさん、ずるいですわ」


 クラーラが不満を訴えたが、俺は侯爵家のお嬢様に飼われる意思は無い。

 誰のライオンなのかを明確に示されたクラーラは、しぶしぶと俺を断念した。

 だが、俺を断念しただけで、ライオンのペット化を諦めたわけではないらしい。ヨハナに対して、代わりのライオンの有無を尋ねた。


「この子、兄弟は居ませんの?」

「クラーラさん、ダメですわよ。野生のライオンは、人に慣れていませんわ」


 ヨハナの代わりに、伯爵家の令嬢であるブルーナが止めてくれた。

 するとクラーラは、俺の姿を見ながら訴える。


「でも小さい頃から飼えば、慣れるのですわよね」

「それは慣れるようですけれど」


 ヨハナの足元で、飼い猫のようにゴロゴロと転がる俺の姿を見たブルーナは、渋々とライオンが人間に慣れる事実を肯定した。


「それでしたら、小さいライオンを飼えば良いのではないかしら」

「クラーラさん、どうするつもりですの?」

「お父様にお願いして、小さいライオンを連れて来てもらいますの」


 俺の弟妹が誘拐される可能性が、微粒子レベルで存在するかもしれない。

 ぜひ止めてほしいものである。

 もっとも弟妹に関しては、リオが精霊で守っているので、大丈夫だろう。

 むしろ俺の将来のライバルとなる、他所の群れのオスライオンの子供が連れて行かれて、俺のハーレム度が高まるかもしれない。


 ――まあ良いか。


 世の中、自分の都合が最優先である。

 そんな事を考えながら毛並みをモフられる間に、状況の変化があった。


「随伴船のヒッポグリフ兵より、敵船発見の手旗信号です!」


 乗組員が叫ぶと、俺をモフっていたお嬢様達が手を離して、立ち上がった。

 そして母親達の下に集まっていく。


「ノアベルト、クラーラ。風魔法で、帆を押しなさい」

「カール、ブルーナ。水魔法で、船体を押しなさい」

『『召喚・中級風精霊』』

『『召喚・中級水精霊』』


 上級貴族の子弟4人が、2種類の魔法を行使した。

 すると船上に強い風が吹き荒れ、水飛沫が撒き散らされて、緑と青の光が迸る。

 強い魔素が暴れて収まった後、4枚の羽を持つ精霊が4体姿を現した。


「風の精霊さん、船の帆を押して下さいな。ノアベルトと被らないように」

「水精霊、海から水で、船を押して下さい。カール兄様と被らないように」


 男の子達のほうも、指示を出す。

 それを受けた4体の精霊は、二手に分かれた。

 4枚羽の風精霊は、帆の後ろに浮かぶ。すると強風が吹いて、帆を押した。

 4枚羽の水精霊は、船の後ろに浮かぶ。すると水流が発生し、船底を押した。

 契約分の力で押された船体は、グングンと速度を増して、高速で海上を走る。船の針路は、上空を先行する導き手のヒッポグリフだ。


 ――2隻分の中級精霊が居るから、2隻の船で来たのか。


 船上の俺が受ける風は、どんどん強くなっていった。

 辺境伯家が所有する船の甲板に爪を立てた俺は、ガッシリと掴まった。

 そんな俺の身体に、しゃがみ込んだヨハナが掴まる。

 するとグンターがやってきて、ヨハナの前に立って風を受けた。


「前方に船影、敵船団発見!」


 前方を監視していた乗組員から、敵発見の声が上がった。

 すっと立ち上がった俺の目にも、水平線の先に、帆が張られた船が3隻見えた。

 見分けは困難だが、一方の当事者が味方ではないというのなら、そうなのだろう。

 敵が視界に収まったところで、ヨハナの祖母が、娘達を連れて歩み寄ってきた。


「さあヨハナ、貴女が契約した中級の火精霊を、皆に見せて頂戴」

「はい、お祖母様」


 祖母と伯母達が見守る中、ヨハナも精霊魔法を行使する。


『召喚・中級火精霊』


 ヨハナの呼び掛けが、船上に三色目の魔素を生み出した。

 赤い魔素が回転し、炎の渦を巻く。

 そして渦が収まった場に、4枚の羽根を持つ精霊が姿を現していた。


「エアランゲン辺境伯家が代々持つ、火の中級精霊ですわ」

「エアランゲンは、火の中級精霊。ヨハナさんが、第一候補ですわね」


 他家に嫁いだヨハナの伯母達が評して、ヨハナの契約を確認した。

 そして立会人らしき準男爵に視線を送り、頷きを確認した。


 どうやら上級貴族家は、契約する中級精霊の属性が、家ごとに決まるらしい。

 全貴族が火精霊と契約すると、水や風の力を使いたい時に困るからだろうか。

 絶対的な縛りではないようだが、風や水の中級精霊と契約する従姉妹達と比べて、ヨハナは優位になったようだ。


「さあ、攻撃するわよ」


 辺境伯夫人の呼び掛けに、二人の娘が応じた。

 ヨハナの伯母達は、それぞれ火精霊を召喚する。

 辺境伯夫人は風の中級精霊を呼び出し、ヨハナと合せて5体の中級精霊が揃う。


「風精霊、あの敵船を攻撃しなさい」


 第一声は、辺境伯夫人だった。

 次々と攻撃命令が発せられて、5羽のハヤブサが船から飛び立っていく。

 すると相手の船団からも、3羽のハヤブサが飛び立った。

 それに遅れて、さらに3羽のハヤブサ達が上昇していく。


「敵精霊、合計6羽、船を押していた精霊も、投入する模様!」


 前方を監視している乗組員から、報告が上がった。

 相手は操船用の精霊も、戦場に投入するらしい。

 戦場に投入される中級精霊は、味方が5羽、敵が6羽となる。


「5対6ですか。それではカッセル士爵、予定通りに」

「了解しました」


 辺境伯夫人に応えたグンターは、俺のほうは見なかった。

 だが俺は勝手に察して、内心でブレンダに呼び掛ける。


 ――ブレンダ、加勢してくれ。

『良いわよ』


 ブレンダが応えた瞬間、突如として船上が、火の魔素に飲み込まれた。

 空間に渦巻く炎の海に、美しく透き通ったルビーの瞳が2つ浮かび出す。

 炎海から一対の翼が伸び上がり、バサリと羽ばたいた。


「な、何ですのっ!?」


 狼狽えるクラーラの目前で、赤く輝くイヌワシが、優雅に船上を舞っていた。

 イヌワシが羽ばたく度に、無数の火羽が舞い散る。

 それは顕現したイヌワシが、この世界にもたらせる影響力を示すものだ。

 イヌワシは、さらに羽ばたく。

 すると羽ばたきの度に、身体が空へと舞い上がっていった。

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前作も、よろしくお願いします!
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― 新着の感想 ―
[良い点] 前世でどれだけ徳を積めば複数の幼女にモフモフしてもらえますか!?
[良い点] あ、そうか。契約主が分からない様にするだけで、別に上級精霊をヨハナが契約してる様にみせる訳ではないのか。これなら別にヨハナに過大な期待はいかないから大丈夫そうかな。 [一言] 獣人に支配さ…
[良い点] 敵につかざるを得ない貴族の精霊さん 契約者の死が魔力回収タイミングの絶好の機会と思えば抵抗もせんだろうか
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