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毛国王(the prolog version)  作者: 大浜屋左近
第三章 ~華乃都の貴人~
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第67話 フシュウ

「国忍君では御座らぬか」

 皆麿は声を震わせ、話し掛けた。


「其方こそ、この難波津で何をして居る」

 国忍は店外へ緩りと歩み出た。


「吾等は遣唐使の見学で」


「ほう、其方の様な車売にも、遣唐使を観よう等と言う人並みの風流が有るのだな」

 国忍は笑い声を上げた。


「馬鹿にし無いで頂きたい」

 形名は国忍を睨んだ。


「ほう、この間は、ただ蹲って、打たれ続けて居っただけの肥えた弱虫の癖に、口先だけは相も変わらず威勢が良いのう」


「吾に暴力を振るうた者達は一緒ではないのですか」


「彼奴等か。あの三人は、極楽浄土、否、地獄へと身罷って頂いた」

 形名の問いに、国忍は不吉な言葉を返した。


「あの三人に如何をした」

 皆麿には悪い想像が浮かんだ。


「悪いのは、其方の家の主。国子殿ぞ」


「何が」


「飛鳥での一件。吾が父にも、蘇我の蝦夷様にも伝わって居りましてな。いや、真に困り申した。何処で知れたものかと、先ずは東漢の衛士達を疑ったのだが、さに非ず。其方の家の者が、飛鳥に足繁く通って執拗く方々に問うて回るものだから、本家と吾家の知る所と成った様だ」


「そんな事で」


「其方に取ってみれば、あの三人は、其方に暴力を振るうた張本人で有ろう。何故にあの三人を気遣う」


「あの三人。許し難い。確かに許し難いが、命までを奪わずとも」


「仕方なかろう。誰かが責任を取らねば。あの女に手を挙げたのは誰かと、本家に問われて仕舞えば仕方無い。犯人捜しは国子殿が求めたと聞いたがの。そこで、あの三人を解死人として、首三つ。塩漬けにして、車持の家へと運ばせた。聞いては居らなんだか」


 皆麿は項垂れた儘、首を左右に振って、無言と成った。


「酷い。酷いですよ」


「何だ。其方、名は」


「吾が名は形名。毛野の形名と申します」

 形名は青褪あおざめて居た。


「毛野の御仁は、俘囚にも御優しいのか」


「俘囚」


「そう、彼奴等は都に住まう俘囚共。仕事の無い破落戸ごろつきの彼奴等に、盗まれた品を探させるのは持って来いで有った。早々にあの唐品屋を見付け出して呉てな。だが、彼奴等は粗暴な性格故、能く問題を起こす。あの折もそう。吾は、手荒な真似をしろ等とは申して居らぬ」


 この時代、倭は積極的に蝦夷の同化を進めて居た。しかし、同化とは名ばかりで、決して、蝦夷の扱いが、倭の人々と同じに成る事は無かった。軍事的制圧によって服従させられた蝦夷の人々は、俘囚と呼ばれ、強制的に、倭王権と連合を結ぶ各国へと移住されられ、その地で郷を形成した。俘囚郷の者は、倭を構成する民からは蔑まれ、真面まともな職に有り付く事は出来ず、各豪族が有する私兵の末端と成って、命を危うくする事が多かった。御尋ね者の捜索や敵対勢力の監視と言った手荒な仕事は俘囚が担った。


「国忍様、酷い物言いですな。儂も俘囚ですぞ」


「おお、そうで有ったな。だが、粗暴と申すは過ちか。あの三人の首を刎ねたのは其方で有ろう。風天丸ふうてんまる


「何故、俘囚同士で」

 形名は驚きと悲しみが入り混じった表情を浮かべた。


「なあ、俘囚、俘囚と、其方等が無理矢理に連れ去った蝦夷ウタリを、一緒くたにせんで欲しい。儂等は彼奴等とは別の部族。彼奴等が死のうが、生きようが、儂等には関係の無い事だ」


 蝦夷は、毛野国の先に広がる道奥で、各部族が独立した部落を形成して生活して居た。基本的に狩猟生活営む蝦夷達は、季節に合わせて縄張りの中を転々と移り住んだ。山中、山裾、広野と、各部族は先祖伝来の縄張りを守って、互いの縄張りを侵さぬ様に生きて来た。が、倭の侵攻により、田と成り得る広野に住まう蝦夷達が土地を奪われ、山裾への移住を強いられた事により、蝦夷の間に縄張り争いが生じた。蝦夷は、勇敢な戦士である。縄張りを侵されれば、その排除の為に命はいとわぬ。時に、蝦夷同士の凄惨な殺戮も行われた。


「そんな酷い事を言わないで下さい。毛野の蝦夷は、違う部族であっても、皆、仲良う暮らして居ります」


「仲良う。善くもまあ、そんな事が言えたものだ。毛野のお前らが、倭王権の奴等を先導して、道奥ウタリモシリに侵攻して来るから、儂等に争いが生まれたので有ろう」


「そんな」

 形名は言葉が続か無かった。毛野に於ける対蝦夷政策は、倭王権の意向に沿って、全てを和気が取り仕切って来た。形名は和気が和議を進めて居るものだと信じて来た。しかし、風天丸は侵攻だと言った。ピリカは何の為に毛野やって来たのだ。同盟では無かったのか。猿とペケルはどの様な経緯で毛野に住まう事と成ったのか。もしや俘囚で有ったのか。風天丸の言葉は形名を混乱させた。

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