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毛国王(the prolog version)  作者: 大浜屋左近
第二章 〜東山道の怪物〜
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第44話 ムラクニビコ

「おめぇ、舟来彦やねぇか」

 大雷丸が話し掛けた。


「おめぇは誰や」


 暗闇の中で大雷丸の顔は良く見えなかった。


「俺か。村国彦むらくにびこ。村国一族を継ぐ者だ」


 村国一族は、物部一族がアマテラス一族の東征に伴って各務野に侵攻する以前、各務野を支配していた古豪族であった。舟来一族が国譲りを行った後に、本巣の地に住まう事を許され、一族の命脈を保ったのに対し、村国一族は物部一族と雌雄を決する壮絶な戦いを繰り広げ、結果、各務野を失った。

 僅かに生き残った村国一族は、山を超え、未だ誰の領地にも成って居なかった荒れ野の身毛で、細々と命脈を繋いで来た。

 大雷丸の父、先代の村国彦は一族を束ね各務野に戦を挑んだ。しかし、物部守屋が生きていた頃の物部一族の力は強大で、一切の爪痕を残す事無く、戦に参加した村国一族の者達は、皆、命を失った。

 事態を重く見た各務野は、身毛に隠れ住む村国一族を掃討する為、山狩りを行った。村国一族は、身毛の地を捨て、散り散りと成った。未だ幼子であった大雷丸は、先々代の村国彦であった祖父に連れられ山中で息を潜めて生きた。成長した大雷丸は、祖父から村国一族に伝わる剣技と体術を伝授され、村国彦を継いだ。祖父が亡くなると大雷丸は、祖父を弔い、山を下り、雷に加わった。


「村国一族が生き残っとったんか」


「ああ。飼い犬に墜ちた舟来一族とは違って、我等は山に篭って狼として生きて来た」


「馬鹿にすんな。おめぇは単に賊に墜ちただけやないか」


「全てを奪った相手に懸命に尻尾を振って、挙句、戦の先頭に駆り出され、死んでしまえば一族は仕舞いやで」


「違う。本巣殿は我等一族の事を頼りにして呉れとる。武功を上げ、本巣の重臣と成りゃあ、一族は生き続ける」


「おめぇは本当に馬鹿だなぁ。重臣に成ったとて、独立した国を持たねば、搾取され続けるだけだて。まぁいい。おめぇはここで死ぬんだ。そして、舟来一族もここで滅ぶ」


「五月蝿せぇ」

 舟来彦は大雷丸に向かって駆けた。


 舟来彦は、自らの行く手を妨げる雷の雑兵達を、一人、二人と撫で斬りにし、大雷丸へと迫った。


「無茶苦茶な剣技だなぁ」

 析雷丸が前に出た。


「おめぇも変わらねぇよ」

 火雷丸が呆れた。


 析雷丸が舟来彦に向かって飛び出ると、

「下がれ、早く散れ、析雷丸殿が来たぞ」

 と、雷丸の雑兵達が口々に叫んだ。


 析雷丸が剣を振るうと、逃げ遅れた雑兵の腕が空を舞った。


 敵も、味方も、関係無く、析雷丸の剣は、彼の間合いに入るもの全てを斬り裂いた。


 析雷丸の剣を寸でで躱した舟来彦の頬を、剣圧が作り出した風が、まるで揶揄う様に優しく撫でた。


「良いねぇ。それこそが理想の剣技」

 舟来彦は眼を輝かせて、析雷丸に向けて剣を薙いだ。


 大きな金属音を奏でて、舟来彦と析雷丸の剣が交錯した。


 力と力の剣が幾度の火花を散らし、二人は鍔迫り合いの形と成った。


「飼い犬の癖にそこそこ遣るじゃねぇか」


「賊の癖にそこそこ遣るやないか」


 二人が力比べをして居る所へ、

「析。何時までも遊んでんじゃねぇよ」

 と、鳴雷丸が飛び込み、舟来彦の胴を斬り付けた。


 舟来彦は後ろに吹っ飛んだ。


「堅てぇ。斬れてない」

 鳴雷丸は舟来彦に向かって飛び、倒れた船来彦を跨いで立つと、首元に切先を突き落とした。


 鳴雷丸の剣の切先が舟来彦の喉に届く寸前、一矢が鳴雷丸を襲った。


 鳴雷丸は、舟来彦に落としかけた剣を薙いで、矢を払った。


 舟来彦はその隙を見逃さなかった。舟来彦は鳴雷丸の胴に脚を絡めて投げ捨てると、鳴雷丸から距離を取った。


 舟来彦の後ろには一騎の蹄の音が近付いた。


「舟来彦殿。死ぬ所でしたな」

 馬上から武曲が話し掛けた。


「析雷丸って野郎は結構強えぞ」


「次は俺に遣らせろ」


「ああ。俺はあの助太刀野郎に用がある」


 武曲と析雷丸、舟来彦と鳴雷丸の戦闘が開始された。


 四人が剣を交えていると、蒼、貪狼、巨門、禄存、文曲、廉貞、武曲、羅我、兎、亀が広庭に姿を現し、四人に馳せ寄った。


「析、鳴、一旦引け」

 大雷丸の声に、二人は退いた。


「兄ぃ、あいつ賊頭じゃねぇか」

「そうだ。あいつは賊頭だ」

 篝火に映し出される顔は、亀と兎には忘れられぬものであった。


「能く見りゃ、各務野との国境で襲ってきた賊じゃのう。おお、川辺の陣で女と戯れていた馬鹿共も居る」

 羅我も眼の前に居る男達を見て思い出した。


「其方が、雷の頭、大雷丸で有ったのか」

 蒼が大雷丸に向けて声を張った。


「名乗って居らんかったんでしたっけ、身毛の棟梁殿。この身毛は、元来、我等、村国一族の土地。立ち去れ、侵略者共」

 大雷丸は、まるで仔犬でも追払うかの様な身振りをした。

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