第43話 トッパ
トッパ
「行くぞ」
廉貞が声を上げると、門を穿つ為に切り出した大木を抱えた舟来彦と二百五十余名の兵は、館の門を目指して坂を駆け上がった。
迎え撃つ敵からは、無数の矢が放たれた。
「進め。立ち止まるな」
舟来彦の雄叫びに、百五十余名の兵は、矢を受け、血飛沫を巻き上げても、臆する事無く門を目指した。
舟来彦と二百五十余名の兵は、二の矢、三の矢を受けても突き進み、大木を門に突き当てると、周囲には闇を引き裂く轟音が響き渡った。
が、門は破れなかった。
「放て」
舟来彦の号を受けた兵達は、背負った弓を手に取ると、横一列と成って門を守る敵兵に向けて一斉に矢を放った。
「打ち壊せ」
舟来彦が発すると、弓を構えた兵達の真中を抜け、大木を持った兵達が門に向かって突進した。
再び大きな衝突音が鳴り轟いた。
「破れぬか」
後ろで見ていた馬上の廉貞が顔を拭った。
「次、放て」
舟来彦の声で、再び矢が放たれた。
「あれ、返して来ぬな」
廉貞が呟き、
「敵さんは、矢が尽きたか」
文曲が首を傾げると、
「それは無い」
禄存が否定した。
武曲は確りと門を見据えた。
「次こそ、打ち壊せ」
舟来彦の命を受け、丸太を持った兵達が地面を蹴って走り出すと、武曲がそれより先に馬の尻に鞭を打った。
丸太を持った兵達が速度を上げて門に激突する直前、武曲はこれを抜き去ると、門前で馬を棹立ちとさせた。
「あいつ、やっぱり馬鹿だな。馬で門を蹴破る気か」
文曲が唖然とした瞬間、突如、門が内へと開かれ、武曲を先頭に、丸太を持った兵達は館の中へと雪崩込んだ。
「罠か」
羅我が叫んだ。
門の内では、武曲の野太い雄叫びに続いて、兵達の歓声が沸き上がった。
「突っ込め」
舟来彦が剣を掲げて、門の内へと駆け込むと、残りの兵達もそれに続いた。
門の内からは更に大きな歓声が響き渡った。
「如何したのだ」
廉貞が訝しがった。
廉貞、禄存、文曲、羅我、兎、亀は門に向かって馳せた。
すると、門の内には、蒼が中央で剣を肩に担いで仁王立ちと成り、貪狼、巨門が各々両の門扉に腕を組んで寄り掛かって居た。
内へ入った羅我が周囲を見渡すと、門を守る兵は、皆、命尽きて居た。五十余の門兵を、蒼、貪狼、巨門の三人で殺った様子であった。
「身毛殿。如何にして館の中へ」
廉貞が尋ねた。
「この館を作ったのは我ぞ。いざと言う時の抜け道は用意して有る。誰にも告げて居らなんだのだが、今回、貪狼と巨門には知れてしまった」
「身毛殿は抜け道と申して居りますが、土竜の通る様な狭い隧道。真っ暗で先は見えませぬし、所々狭くなって居り、二度とあの様な道は通りたく有りません」
「巨門は太り過ぎだ。道の途中で身体が引っ掛かって、危うく抜けられなく成る所で有ったからな。皆の者、済まぬ。その所為でここへの到着が少し遅れた」
蒼が頭を下げた。
「身毛殿。この後は如何致します」
廉貞が伺った。
「この儘、一気に館を奪還する」
「はっ」
一同は応じた。
館では、
「大雷丸」
と、門の監視をしていた火雷丸が話し掛けた。
「何だ」
「門を破られたみてぇだ」
「何。本当に各務野の兵は使えんなぁ。門すら守れんのか」
「如何する」
「雷総員で、迎え撃つとするか」
大雷丸達は、館の中に控える雷の者達に声を掛け、館の外で奪還軍の到着を待った。
奪還軍は猛々しい雄叫び上げながら、館へと向かう道を突き進んだ。
「来たな」
大雷丸が呟くと、暗闇の中から、先ず舟来彦が館前の広庭へと駆け入り、それに続いて次々と兵達が姿を現した。
「放て」
大雷丸の命を受けて、広庭に現れた奪還軍に向けて矢が射られた。
舟来彦は剣を振るい矢を薙ぐと、
「突っ込むぞ」
と兵を前へと進めた。
「次の矢」
放たれた矢が、奪還軍を削った。
「進め」
奪還軍は矢の飛び交う広庭を突き進んだ。
「迎え撃つぞ」
大雷丸が叫ぶと、雷の者達が大声を上げて奪還軍へ迫った。
奪還軍と雷が激突した。




