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毛国王(the prolog version)  作者: 大浜屋左近
第二章 〜東山道の怪物〜
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第18話 キュウシュウ

「形名殿」

 兎が叫んだ。


 一行を次々と矢が襲い、そのうちの一つが兎の馬の尻を貫いた。馬は驚き、頂へ向かって道を駆け始めた。一頭が走ると、其れを追い掛け、全ての馬が居なくなった。


 一行は取り残された。


「うあぉー」

 と奇声が山の四方を跳ね巡ると、剣を手にした五人の男達が、一行に向かって駆けてきた。


 突き刺さった矢元から血の溢れ出る宿館の亭主は、力を振り絞って何とか立ち上がり、よろよろと形名の方に歩み出で、手を差し伸べて助けを求めた。


 声を上げて突進する男達の群れは亭主を飲み込み、先頭を走る男の剣に胸を貫かれた亭主は二度と動かなくなった。


 兎と亀は、恐怖に竦む形名の前で盾と成り、剣を構えて群れを迎えた。


 男達の群れは、兎と亀と少し距離を置いて鶴翼かくよく状に配すると、

「金目の物は置いて行け」

 と、中央奥に立つ、亭主を貫いた、頭と思しき男が告げた。


「何だ、貴様ら」

 兎は群れの中央に剣先を向けて応じた。


 亀は、のそり、のそりと前に出て、男達との距離を詰めると、

「賊だな」

 と、剣を高く構えた。


「兄ぃ。斬っていんだべ」


「殺るしかなかんべ」


「だな」

 と亀は、のそり、のそりと、更に距離を縮めた。


 すると、左前に配する二人の男が、亀の前へと飛び出してきた。


「やんのか」

 亀が左へ踏み出し、二人を迎えると、


「やっ」

 と左端の男が剣を振り被って亀との距離を縮めた。


 その刹那、亀は剣ごと男の額を搗ち割り、そのまま、次の男を薙ぎに行った。男は剣を立てて亀の剣を確りと受けたが、亀の剣は男の剣を砕き、男の首を跳ね上げた。


「すっげぇなぁ、洲羽の剣は」

 亀は剣の刃を確認すると、一切の毀れが無い事に感心した。


「もういんだべ」

 と亀が賊頭に話し掛けたが、賊頭は何も言わずに亀の前へ歩み出て剣を構えた。


「やんのか」

 亀の問いに賊頭は返さ無かった。


 亀はのそりと前へ出ると剣を薙いだ。


 賊頭は後ろに飛び退き、亀の剣を躱すと、着地した脚で地面を蹴って亀との距離を詰め、鋭く剣を振り下ろした。


 亀の右腕を覆う布が裂け、布は見る間に赤く染まった。


「浅かったけ」

 男が漏らした。


「大丈夫か、亀」


「痛てぇよ」

 亀は笑った。


「代わるか」


「ふざけんな」

 亀は賊頭を睨んだ。


 亀の答えを受けた兎は、素早く駆け出し、一気に残りの二人の男達との間を詰め、二人の間をすり抜けた。右側の男の胴が割け、噴き出す血と共に男は崩れた。兎は残りの男と対峙した。


 傷を負った亀は、賊頭に苦戦していた。元々、相性の悪い相手だったのかも知れない。賊頭は剣だけでなく、肘や膝、蹴りを繰り出し、亀を翻弄した。組み合う事が出来れば、亀にも勝機があったが、賊頭は素早かった。打っては逃げる賊頭の技が、亀の体力を次第に奪って行った。


 亀は肩で息をし始め、剣に力が込められ無くなって居た。こうなってしまうと、いくら洲羽の剣であっても、敵の剣を砕くことは叶わない。薙いだ亀の剣筋を交わした男の膝が、亀の腹に突き刺さった。


 亀は吹き飛ぶと尻餅をついた。顔を上げると、賊頭の剣が亀の頭を襲った。亀は身体を後ろに倒して剣を避け、横へと転がった。


「うわっ」

 声を上げた亀は山の斜面を転げて行った。


 亀の声を聞いた兎は、対峙していた男に仕掛け、即座に首を刎ねた。その脚で、兎は賊頭に詰め寄り、剣を振った。


 恐怖に固まっていた形名は、亀の声で正気を取り戻し、亀の落ちた山の斜面に向かって叫ぶと、亀を追い掛け、斜面を落ちて行った。


「形名殿」

 兎は賊頭と対峙しながら、精一杯の声で叫んだ。


 周囲は見る見る暗くなった。一粒、二粒と雨が地面を打つと、一瞬周囲は明るく成り、大きな雷鳴が轟いた。雨脚は強くなり、風が吹き荒れ、向かい合う二人は、眼を開け居るのが漸とであった。


 すると賊頭は、

「まぁあかん。馬は逃げてまったし、金は崖下に消えてまった。おまけに部下は全滅や」

 と捨て言葉を吐いて、暗い雨の中へと消えて行った。


「形名殿」

 崖下に声を掛けると、兎は形名と亀を追って、足の裏で器用に険しい斜面を滑り下った。


 兎は、木の根元に引っ掛かる血塗れの亀と、亀の横で必死に声を掛ける形名の姿を見つけた。


(逝ったか)

 兎の頭を、一瞬、悪い想いが横切った。

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