11-4 第二回スキルの考察・序
テーブルに並べた朝食の献立は、コンビニで買っておいたパンとサンドウィッチ、それとドリップコーヒー。
手作りではない分、栄養価が偏ってしまう。早急にフライパンが必要だ。
「今日は元々、皐月と今後の対策を決める予定だったが、どうする?」
「土曜日だから学校はないけど。一度家に帰って、外泊の言い訳をしておかないと。泊まり続けるのなら持ってきておきたい物もあるし」
「……ジャムがない」
「太陽のある時間だけど、用心してアジサイと一緒に行動するから安心して。アジサイ、守ってあげるから『魔』を隠すのはよろしく。ギブアンドテイクよ」
「俺は一人でも『魔』は察知されないから、午前中は二手に分かれよう。俺はもう少し敵について調べてみる。午後になって落ち合うって事で」
食卓を囲む男女三人に不自然さはない。
昨日までと変わらない振る舞いができるか不安だったが、努めなくても俺と皐月は違和感なく会話ができている。仲が悪くなったのでなく、むしろ深まっただけなので傍目に分かる程の変化はないのだろう。
「御影、その――」
「ミルクだな。ここにあるぞ」
「うん、ありがとう。あと――」
「ほい、シュガースティック」
「数は――」
「二本だろ?」
「…………はぁぁぁ。カツサンドがない」
ぎこちなさなど微塵もない。アジサイの溜息が邪魔にならないぐらい、阿吽の呼吸で朝食を楽しめている。
「共同生活を続ける上で、何かリクエストがあれば買っておこう。こう見えて金持ちだから、そこそこ無理はきくぞ」
「やっぱり冷蔵庫は欲しいかな。冬でも必需品」
「魔法少女・マモー新装版」
大型の電化製品は店に運搬を頼めるので心配はない。暇潰しに本も必要だな。
「私は必要ないけど、暖房もあった方が良いかも」
「こたつ」
これも電気屋で揃うな。
「お風呂で座れる奴と桶。化粧品はこっちで用意できるから下手に買わないで」
「ネット環境。パソコン」
小物は百円均一で見繕うのを紙屋優太郎に手伝わせよう。どうせスキュラの事で助力を得るつもりだったし、荷物運びぐらいの雑事が増えても不満は述べまい。
ネットについては留意するが、主様を倒すまでの短い期間しか住むつもりはないので、優先度は低い。
「こうやって足りない物を揃えていくのって楽しいわね」
「不便なだけ……」
朝食を終えたアジサイは早々に席を立ち、既に領土化が進んでいる奥部屋にゾンビのような足取りで消えていく。
協調性がないのは周知の事実なのだが、それだけにこの共同戦線のための共同生活をどう思っているのか心配だ。
アジサイの第一友人である皐月に相談してみる。
「アジサイが共同生活をどう思っているのか不安なのだが」
「あの子は嫌な事は嫌ってはっきり言うから、気にするのは無意味よ。それにアジサイは元々朝が弱い」
「不満を溜め込む心配はない、か」
「大事な事は独力で解決できなくなるまで溜めて、決して口にしないから、気にしても無駄ね」
相反する人間性を立て続けに言われたような。どちらにせよ、俺が気を付けて解決する心配事ではないらしいが。
コーヒーを飲み干して俺も朝食を終える。立ち上がったついでに、皐月とアジサイの分の食器も流し台に運んでおく。
行動を開始するにはやや早い時刻だが、優太郎を電話で叩き起こして俺の家に呼べは問題ないだろう。あまり長く、このリビングに皐月と二人っきりでいるのも精神的に安定しない。
「もう出かける。黒幕だけでなく、落花生にも気を付けてくれよな」
「あ、待ってっ、御影。忘れている」
食器洗いを任せていた皐月が、玄関までトコトコとやってきた。
何を忘れているのかと思えば、俺と身長を合わせるために踵を上げて、唇を重ねてきたではないか。
「いってらっしゃい!」
どこの新婚さんのつもりなのだろう。
長く帰っていなかった気がする我が家。
実際は深夜に荷物を取りに戻っているのでそう懐かしくはない。このところ、週末が近づくと体感時間が酷く長く感じられる。
セーフハウスからも徒歩二十分と案外近い。地方の街の広さなんてそんなものだ。
部屋のベランダを見上げていた視線を下げる。
マンションの入口付近では、怪しい男が待ち伏せしていた。地域の防犯意識向上のために声を掛けておく。
「朝一からご苦労、優太郎」
「昨日あれだけ働かせておいて、今日もかよ。ボランティアをしてやったつもりはないから、さっさとマカデミアナッツをよこせ」
「他にも荷物があったから、空港で宅配にしておいた。速達指定だから、もう少しで届くはずさ」
寒い外気を楽しみながら、立ち話を続けるつもりはない。
優太郎を連れてマンションに入っていく。
本日、優太郎を呼び出した理由は多いが、一つは一週間ぶりのステータスの確認だ。
ギルクを倒し、アジサイ姉の正体が判明したので、改めて戦力差を認識しておくべきだと考えていた。皐月達とも後で相談するつもりであるが、その前に一度整理しておきたい。会議とは、会議が始まる前に終着点を定めておくものである。
それに、客観的という点において優太郎ほどに適した人材はいない。友人のために毎回力を貸してくれる酔狂――伊達男なので、頼りにしてやらないと錆びてしまう。
「という訳で、これが俺の最新ステータスだ」
空港で、乗換えの待ち時間を活用して書いておいたステータスを優太郎に手渡す。皐月にさえまだ開示していないトップシークレットだ。
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“●レベル:19”
“ステータス詳細
●力:18 守:6 速:36
●魔:0/0
●運:10”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●アサシン固有スキル『暗躍』(New)
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』
●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(大)(強制)』(New)
●実績達成ボーナススキル『成金』(New)
●実績達成ボーナススキル『破産』(New)
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』(New)”
“職業詳細
●アサシン(Cランク)”
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「レベルが19になったとは聞いていたが、一週間でえらく増えたな」
「ボス戦が一回あったからね」
「スキルもまたゴチャゴチャ増えている」
「全部ギルク倒した後で達成したけどな。低レベルクリアとか、そういうスキルが得られると期待していた分、裏切られた」
メモ帳の切れ端をじっと睨んでいる優太郎。持参していた一口ドーナツを食べる手を止める程に真剣だ。
優太郎の意見は毎度的確なので、彼の第一声は黄金よりも価値がある。
通知表を手渡される直前の気分で待っていると、優太郎は歳相応の軽い威厳が詰まった口を開く。
「――んーむ。レベルが上がった分、改めてアサシン職の悲惨さが際立つ。まともに上がっているのは『速』だけ。これだけスキルがあるのに攻撃手段は皆無。何かの縛りプレイのつもりか?」
気にしても改善できない欠点を、優太郎は躊躇なく言い切った。
分かっちゃいるんだけどね。
久しぶりのステータス考察回の開始です。




