8-1 大学食堂ではアンコウ鍋はご用意しておりません
「なあ、年下の彼女作った事ある?」
「…………はぃ?」
『――昨日未明、○▽県○◇市の郊外にあるゴルフ場で起きた爆発事故の続報です――』
いつものテレビニュースが垂れ流されている大学食堂で、いつもの相方、紙屋優太郎に話題を振る。
話題の内容はこれまでで一番大学生らしい内容で、魔法少女やらオークやら異世界やらが一切絡まない至って健全なものである。が、何故か優太郎の反応が鈍い。
「……ああ、ゲームの話か。今回は間違いない」
「ちょっと待てっ、優太郎! 確かに俺が食堂で話した話題はすべてゲーム染みた内容だったさ。だが、常に俺の話は実際の出来事であり、嘘偽りなかったはずだ。なら、今回もそうだとは思わないのか?」
「馬鹿を言え。リアルワールドの手違いで魔法少女が実存し、オークが野放しになっていて人を襲うなんて凶事はあるかもしれない。俺達大学生の知りえない世界の真実は、人類が有史以来発見し続けた公式の数よりも多いはずだ」
「まぁ、そうだな」
同意はするが、妙に難しい話になってきているな。俺は年下の彼女が優太郎にいるかどうか訊ねただけなんだが。
『――残留物より、爆発はコンビナートから消失していたガスタンクによるものである可能性が高いという発表が――』
「一方で、サークルに所属しないで交友関係を広げず、緩慢な大学生活を最後のモラトリアムとしか見なしていない野郎に異性の親しい人間ができるかどうかは、完全に個人努力の問題だ。年下の彼女? ああ、少子化社会とはいえ異性が絶滅した訳じゃない。法令で許される範囲でなら作れるだろうさ」
妙に饒舌な優太郎は、食事を摂る事を忘れて持論を展開する。
話のオチが気になって話の続きを促す俺を、優太郎は、後は分かるだろう的な憐れんだ瞳を見せてきた。こいつ俺の友人だっけ、妙にムカついた目をしているんだが。
「焦らさず言え、優太郎」
「努力もしていないお前にガール・フレンドができるか。無聊をゲームで慰めるのが精々だ。ディスプレイから出てこれない彼女と遊ぶぐらい、そう恥ずかしい事じゃないぞ」
「正論だが、相手から告白される可能性を考慮に入れていないんだが?」
「あぁ……、それは失念していたな。が、犬が歩いて棒に当たる未満の可能性にすがる男子ほど悲しい生命体はいない」
深海生物のアンコウがいる。アンコウのオスと、受身主体の絶食男子はイコールの関係だ。
アンコウのオスはメスに飢えながらも、白馬の王子様に憧れる女子に対する当て付けの如く麗しき令嬢との出逢いを求め、光の届かない絶望の深海を彷徨っている。地球の七割を占有する海の底で、同種の異性と出逢える可能性を考える知能もなく、彷徨っている。
そんなオスアンコウの多くは、メスと出逢う機会に恵まれず、童貞のまま死ぬのだ。別の大型肉食魚類に食われる奴、絶食がたたって悶死する奴、様々いるがとりあえず死ぬのだ。
母数が多ければ多いほど、小数点未満の可能性を掴むオスアンコウの存在も多くなるのは否定しない。そうでなければ、種が絶滅する。
だが、そんな幸運オスアンコウの最後はより悲惨と言えるだろう。
『――平成の怪事件として、専門家も頭を悩ませていると――』
ありえない出逢いに磨耗した精神と極度の飢餓状態の所為で、自己同一性の意義が分からなくなった存在。それがオスアンコウの末路だからだ。
麗しい令嬢の事など忘れて、オスアンコウは己よりも何倍も太ましいメスに噛み付き、文字通り同化してしまう。目や内臓さえ退化させて、ただ精巣器官だけを働かせる臓器となる結末。物悲しい。
「お前は哀れなオスアンコウなのか?」
すまない、優太郎。俺、草食とか絶食とかは知っているけど、アンコウ系男子は初耳だ。
「皐月の背丈は俺よりも低いし、昨日触った感じは華奢だったな。アンコウ系女子じゃないぞ?」
「……ハハハ。お前、今はまだ二月だぞ。如月と皐月を間違えるなんて馬鹿だなぁ」
「いい加減現実を受け止めてくれ。ゲームでもアンコウでもない三次元の出来事だ。俺は魔法少女の皐月との関係について、優太郎に相談したい」
九十年代パソコンのダイアルアップ接続みたいな擬音を発する優太郎の復活には、昼休憩は短過ぎた。
まったく話は進んでいませんが、妙に書き易い




