5-5 彼を知ってようやく一勝得られるだろうか
被検体が俺一人のため考察が正しいかは怪しい。
パラメーターは整数の癖に、レベルアップによる恩恵は曖昧で測り辛い。優太郎という客観的な感想を得て、実用限界ギリギリの考察ができている。
優太郎の公平かつ適切なアドバイスは、いつも俺を助けてくれる。彼に間違いはない。
優太郎が俺の友人で本当に良かった。
「冷蔵庫にアイスがあったっけ。それと、ソースカツ買ってなかったか?」
「優太郎、その食べ合わせは無いだろ……」
「食べ合わせというか完全に一緒にして食うんだが。昔流行っただろ、トンカツパフェ」
「酷い味覚だ」
己を知ったなら、今度は敵を知らなければならない。
俺は当面の敵をギルクなる男と見なしている。オークを率い、人を平気で襲う残忍性がある。
ギルクの存在を知った夜、奴は重機でなければ破壊できないような橋の支柱を、ムシャクシャした程度の怒気で破壊していた。よって、短気なパワーファイターだと予想できる。
遭遇回数が少ないため、ほとんど当てずっぽうな決め付けでしかないのだが、何事も前提が必要だ。
「レベル80の化物をまずは想像してみたい。例えば、オークがレベル0から80までレベルアップした場合、筋力はどれ程になるのか」
レベルアップによるステータスの数値上昇が一定ではないのは、俺のレベルアップから確認できている。
傾向としては、その人物の職業に合うステータスの上昇率が高い。一回のレベルアップで2増加が最高記録だ。
オークに就職可能な職なんて野蛮人とか破壊者とかの類で、『力』パラメーターの成長率が高そうなものしか思いつかない。
「一回のレベルアップで『力』と『守』は2増、『速』は1増と仮定したいと思う」
「無難なところか。レベル0の初期値はどうするんだ?」
「実際に戦ってみた感触から言えば、『力』10、『守』10、『速』5が妥当だ。俺のパラメーターに換算すれば、これぐらいだろう」
仮想レベル80オークのステータスをボールペンで用紙に追記する。
“ステータス予想
●力:170 守:170 速:85”
「『速』でさえお前の十倍以上か」
「これを俺のステータス上昇率から算出した計算式に当てはめると――」
俺を人類の平均と信じて計算を行う。
世界の隠された法則の割に、妙に単純な公式だったため答えはすぐに出ていたが、一応電卓を使って誤りがないかを二度ほど確認しておく。
「――レベル0の人間と比べて、『力』は約三十五倍。『速』は約十倍」
「想像し辛いな。具体的には?」
「握力は1.5トン。走る速度は時速230キロ」
「レベル80といっても、所詮は速く走れる重機レベルか」
生物としては馬鹿げた力のはずなのだが、優太郎は不満げな表情を見せる。彼はどうも仮想ボスのステータスが人類三十五人分であるのが不服らしい。
思いをまとめた優太郎は、俺が書いたステータス予想にペン入れしていく。
“ステータス予想
●力:350 守:320 速:120”
「随分盛ったな」
「相手は化物なんだろ。予想の更に二倍は強いと思え」
優太郎補正後の予想握力は3トンを超えてしまった。鉄板を摘むだけで捻り切ってしまえる馬鹿力だ。
昨日は鉄骨一本あればオークを潰せたが、レベル80付近のギルク相手では鉄骨も割り箸も変わらない。もっと強力な武器が必要になる。
「いや。ステータスだけじゃなく、スキルも加わるからな。数値以上に恐ろしい相手だと思えよ」
優太郎の指摘はいつも正しい。が、希望的観測が皆無で俺としては辛い。
各考察が終わり、ついでに夕食も〆のデザートも食い終わる。
明日は土曜日で大学はない。別に泊まっていっても良かったのだが、遠慮した優太郎が愛想の悪い挨拶を残して立ち上がる。
「帰る。週末だ、励め」
「日曜大工の感覚でボスを倒せるなら苦労はしない」
優太郎が出て行った玄関に鍵を掛ける。
一人になってしまった寂しい充実感を味わいながら背伸びを行い、気合を入れ直す。
このまま寝てしまいたいところだが、俺が安眠できるようになるのは魔法少女の学生卒業以降でも良いだろう。今日はこのまま徹夜をして、ギルクの予想ステータスを破る手立てを必ず考え付く。
手始めに、台所で濃縮二倍の粉末コーヒーを淹れる事にした。
「えーと、どこかに閉鎖されたゴルフ場とかスキー場とかあったかっけ」
考察回はこれで終わりです。




