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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第五章:六英雄の物語
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第七話「六英雄の物語・壱」

 目が覚めると、部屋はまだ暗いままだった。カーテンの隙間から光が差し込むこともない。どうも眠りが浅かったのか、かなり早く目が覚めてしまったらしい。

 不貞寝に近い形でベッドに潜り込み、もう何も考えたくないと無理やり眠りについたが神経の昂ぶりがそうさせたのだろうか。枕元の携帯を手に取り時計を見ると、まだ日付けも替わっていなかった。携帯を手から零れるように落とし、暗い闇に身をひたす。こういう時気分転換出来るものが存在すればといつも思うが、お金も時間もトカレストに費やし続けた私の心にはどんなものも引っかからない。挙句もう高校生になったというに、まだお小遣いも復活してないのだ……。


 そうして暗い天井をただ茫漠と見つめていると、携帯のライトが点滅していることに気付いた。等間隔で煌くその光は、まるで私の眠りを妨げるように主張し続ける。仕方なく手に取ると、近藤からの着信が大量に記録されていた。恐らく膨大なメッセージを、送り続けているのだろう。今これを開けば、近藤が組み立てた方程式が記されていることは間違いない。だが、そういう気分にどうしてもなれない。前を向く気概が、今を見つめる気持ちがきれいさっぱり消え失せている。


 すまねえ近藤……あたしゃもう、今はもう……そうして携帯を、また枕元に置く。

 それでもまだ新たな着信は続いているようで、寂しい気持ちと辛い気持ちがごちゃ混ぜになった私は「ごめん」と打とうと、改めて携帯を手に取った。そうしてディスプレイを見ると、ただ一文しか記されていないメッセージが目に留まった。


[六英雄の物語に目を通しておいてくれ]


 六英雄か……それ見たらもう勘弁してくれるのだろうか。近藤は好きなタイミングで読めと言っていた。だから今は見ないし、六英雄の物語も、気が向いたら見るよ。そう思い、携帯の電源を切った。


 あたしは六英雄には届かない……。

 あいつらに劣るなんてことはありえねえ……。


 思えば、彼らの後を私達はたどっていた。彼らを超えることを目指して、歩み続けた。その全てを参考に、トカレストのメインを攻略していった。

 再度眠りにつくことは、難しかった。心も身体もだるいのに、目だけは冴えている。頭の中で「彼は戦死したよ」という言葉がリピートされ、ダブり続ける。いつ、どこで、どうやって……ラスボスに挑んで……。


「寝、れ、な、い」


 身体を起こし、目頭を押さえる。眠れるわけが、ない。私はライバルを失った。もう一つの世界で、大切なライバルを止められなかった……全て白状したにも関わらず、だ。



       ◆◆◆◆



 一度は切った携帯を起動させ、さらにプロジェクターからモニター起動させる。寝転び丁度いい位置にモニターを浮かばせ、明度を落とす。そして、ネットに繋げた後、六英雄の物語を検索した。

 何故今更六英雄の物語なのだろう。これは、メインに関わる人間なら誰でも知っているものだ。そしてもう、知り尽くされた情報しかそこにはない。

 具体的にどこを見ろとは書かれていなかったので、最もシンプルに編集されたデータをダウンロードし、再生させた。これなら、攻略についての情報は簡素なものだろう。

[六英雄の物語ver1.5]

 ますばそう表示され、そして六英雄についての簡単な説明が始まった。トカレストのメインについて触れないということは、やはりもっとも簡素なデータなのだろう。


[六英雄の活躍によりトカレストのメインは注目を浴び、多くの参加者を獲得することが出来ました。しかし参戦した多くの方は、あの理不尽クソゲーに愕然としたことでしょう。そして、だからこそ彼らが六英雄と呼ばれているのだなと、身をもって知ることになるのです]


 人工音声はそう語り、そして一人目の英雄を映し出した。しかし、ここに映っている一人目の英雄は恐らく本物ではない。映像は加工され、名前も仮のものだろう。その英雄は、地味な鎧を着込んだ、ごく平凡なプレイヤーに見える。


[一人目の英雄は先発組であり、初期プレイヤーの代表です。まず、彼らがどういう構成だったかを見てみましょう。

 一人目の英雄は初期プレーヤーとしてトカレストのメインに参戦しています。彼が所属していたパーティー、というよりチームは100人構成で、彼はその一人として所属していました]


 まず100人というのが凄い。よく100人も揃えたな、とも思うし100人いないと攻略出来ない難易度ってなんだよって話にもなる。大体初期のプレーヤーは攻略情報を持っていない。そしてあの難易度だ、多分度肝抜かれただろう。多分100人ぐらいいないと、心がもたなかった、そう意味合いもあると思う。


[この100人で彼らはメインを攻略し、最終地点まで到達しました。これが、最終地点にたどり着いた際の彼らの様子です]


 100人ものプレーヤーが揃うと、なかなか壮観な光景が出来上がる。だが恐らくこの映像も加工されたものだろう。自分をコピーしているプレーヤーがいれば、話がややこしい。しかし、平凡なジョブばかりが目立つ。100人とはいえ、よくここまで来れたものだ。


[彼らは基本四組で行動しています。それぞれのチームにエース格、リーダー格、そして参謀役がいます。ちなみに100人というのには実は意味があり、クエストのパーティー上限が確認されているもので100、というところから来ているんでしょう]


 確かに。我ら黒蛇旅団は100人上限のエリアを20人で突破した。


[最終エリアに到達した彼らの会話を、聞いてみましょう]


「ここが最後の大陸……ついに来たか……」

「長かった、いや辛かった……」


 フル装備のアーチャーと年老いた魔法使いの二人が、感慨深そうに呟いている。他のプレーヤーも、天を仰いだり跪いたり、安堵の顔を浮かべたりと様々な反応を見せる。


「多分あの馬鹿でかい岩山、あそこにラストダンジョンの入り口がある……」

「みんな準備出来たら、言ってくれ。これが最後の、戦いだ」


 リーダー格らしいプレーヤーがそう告げると、皆回復や装備、そしてスキルボードを開き最後の準備を始めだした。

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