第三話:マイペースとキレやすい若者
「なんだよでかい声出して。どうかしたのか?」
椅子を蹴って立ち上がり、怒りの声を上げると同時に近藤が戻ってきたらしい。苛立ちがマックスの私に、躊躇いというものはない。どんだけ期待してたと思ってるんだ! 誰が最後にオチを持ってこいと言った!
「近藤! これはなんだよ! 本気で考えてこれだってんなら金輪際絶交どころか家に火つけにいくぞ!!」
フーフー……ガルルルル! と鼻息荒くいきり立つ私に対し近藤は「ん?」と何も感じることがないかの如き反応だ。
「こんなの登場人物適当に並べただけじゃないか! こんなことぐらいだったら誰でも書けるし、私でも考えるわ!」
「そうなのか? なら俺は無駄なことをしたのか。やれやれだぜ」
それはこっちの台詞だ……近藤が両手をかざして肩を竦めている画が目に浮かぶ。だがこちらは両手をデスクに突き、俯きながらクツクツと哂っていた。こいつ、ほんとは単に私を笑いものにしたかっただけじゃ、暇潰ししたかっただけじゃないのか? ハッハッハッ……もう、笑うしかねえ……笑うしか!
「本気で考えてこれなのか、本気で出した結論がこれか近藤! 答えろ!」
私自身に火がついていた。既に着火済みで、心が真っ赤に燃えている。だが近藤は当惑気味に、いやまるでそれが迷惑だと言わんばかりの空気を出してきた。
「だから、細かいところは詰めてないって言っただろ。全部書くつもりもなかったし、そもそも俺は順に話したかったんだ」
「んなこたどうでもいい! 大体、こんなの実際には出来ない、実行性のない話ばっかりじゃないか! 何が正攻法に搦め手だよ! 手抜きに投げやりなだけだろ!」
「いいや、どれも実行可能だよ。成功するかは知らんけど」
こ、こいつ……コンコンコンコン、ゴン! とデスクを叩くと「おい」と近藤が不快な声を上げた。
「何が問題なんだ。言ってみろよ」
憮然として、近藤は言った。なんでそっちが、そんな態度になれるんだ。
「先に聞かせろ、ほんとに観戦データ見て分析したのか?」
「ああ。でなきゃこうならないだろ」
「真剣にやったと誓えるのか?」
「……それなりに真剣だよ。だからどこに文句があんだ?」
文句しかないんだよ馬鹿野郎! 危うく拳を振り上げモニターを破壊するところだったが、それで損害を被るのは私だ。怒りをぶつける相手は……他にいる!
「まず一つ目! 搦め手の方! ガルさんをぶつける! そんなこと出来ると思ってんのか!」
「出来るよ。多分一番簡単」
……そうなの? いやいや、ない!
「二つ目! ラビーナを使う! 出来るって言うのか!」
「ああ、こいつなんとかしないと話にならないって考え方もあるから、これが一番かもしれない」
……そりゃそうだが。いやいやいやいや!
「三つ目! 一つ目と変わらないだろ! まとめて書いとけよ!」
「うん? 全然違うぞ? 確かに聖竜騎士団だが、ガルバルディとは別の話だ」
……似たようなものってか、ガルさん抜きならルーのないカレーライスみたいなもんじゃないか。弾の入ってない銃と変わりない!
「四つ目! ロウヒ、オーディンを使うって、どういう意味だよ! 奇跡が起きるって具体的に何イメージしてんだ!」
「ああーそうね、具体的と言われれば困るな。出来ればあいつらと繋がるルートを作らないといけない。具体性に欠けると言われたらその通りだ」
認めやがった……。
「五つ目! ありえない奴の名前出すなよ!」
何故かここで、間が空いた。しばしの静寂、そして次の言葉で、近藤が小首を傾げている姿が想像出来た。
「ちょっと待てよ、そんな怒る話か? 落ち着け、お前熱くなりすぎだろ」
「熱くもなるよ! おかしいんだもの! 期待してたんだもの!」
「心配しなくても順に口頭で説明するって、早とちりすんな。相変わらずだな加奈は」
早とちりって、違うでしょ……だって、結論って近藤が言ったんじゃないか。私は怒りと憤りから、拗ねるような気持ちになっていた。それを諭すように、近藤が語りかけてくる。
「勝算はある、だからわざわざ項目別にしたんだ。ただ、結局決めるのお前だから俺が決めるこっちゃないけど」
「だって、でも、じゃあだよ?」
「うん、何」
とことんマイペースな近藤に、根本的な問題点を指摘する。こいつは、これになんて答える!?
「私は、私はガルさんと接触出来ないんだぞ!」
「そうだな」
「ラビーナだって会ってくんないんだよ!?」
「らしいね」
「聖竜騎士団なんて見たこともねーし!」
「そうなの?」
「ロウヒはともかくオーディンなんてほんとにいるかどうか分かんないだろ!」
「知ってるよ」
んでもってっっ……!!
「私はっ! ザルギインが嫌いだ!」
「わがまま言うなよ」
――それは暖簾に腕押しってこういうことを言うんだろうと、十六年生きてきて初めて味わった瞬間だった。




