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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第一章:トカレストストーリー
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第二十一話:聖剣士の告白

 私が踊り終わるのを見届け、話はこんな言葉で再開された。


「色々な呼び名で呼んでくれるのは嬉しいが、統一してもらえないかな。混乱するんだ」


 ガルバルディさんには肩書きの数だけ呼称がある。本人にとっては嬉しくも悲しい名誉なのだろう。


「では閣下で」「ガルさんで」


 ほぼ同時に答えたが、


「二つ目にしてもらえるかな。閣下などと呼ばれても嬉しくないんだ」


 そうしてガルさんの愛称で呼ぶことが決まった。近藤はマジかと呟くが、閣下では「うぁあーはっはー我輩はー」とロックを歌いかねないのでこちらが妥当だろう。そうして、少し長いが質問に答えようとガルさんは言った。


「マジで長いのは、辛いんですが……」「いいよ踊ってろ。俺が聞いてる」


 なんで人の過去聞く最中に踊らにゃならんのだ。私はバックダンサーか。近藤と視殺戦になったが、


「いいかな。あまり、気分のいい話じゃない、出来れば一度ですませたい」


 そうガルさんが前置きした。

 禅譲、譲位について。そして姫との関係を話すのなら、自分がまだ海賊だった頃まで遡らなければならない――。


 子供の頃から船に乗り、海賊に育てられたガルさんはそもそも親の顔も知らない。親が誰なのかすら分からない。もしかすると、海賊に襲われた町で拾われた子かもしれない。気分気ままな海賊にはありそうなことだ。

 そうして海賊として生まれたガルさんは、世界各地を荒らす海賊の一員として幼少期から青年期までを過ごした。船員は皆、元は王国の出身らしいが、自分がどこの誰かは考えないようにしていたらしい。あの技の数々は、そんな頃に覚えた。捕虜として捕らえた人間に、命が惜しくば、という条件を突きつける。そうしてその地域の戦闘術を手に入れ、全てをマスターした。


「なるほど、それで引き出しが多いのか」


 近藤はそう零した。

 ガルさんが二十歳を迎える頃、王国内で内戦が起きた。元は身内同士の争いから端を発し、国内は千々に乱れた。現王一家に助けを求められた海賊達は、なんとなくそれを受け入れ自らを「聖竜海賊団」と名づけた。船長には多少の野心もあったのだろうが、船員にとってはどうでもよいことだ。

 姫はその頃に海上で生まれた。結局海上に逃げる生活は十歳まで続く状態で、王国内に安息の場はなかった。それなりの立場を任されるようになっていたガルさんは、姫君の相手を命じられることがあった。無論、海賊がお守りなどあまりに馬鹿馬鹿しく適当にこなす。だがこの頃あやすのに吹いたほら話が姫にはお気に入りだったのかもしれない。


 状況が一変したのは――正当な王家の血筋が危機に陥ってからだ。当時の王様が戦場で死に、跡継ぎも暗殺の憂き目に遭う。次々と王族が暗殺される背景には、神竜騎士団の存在が大きい。

 神竜騎士団は一大勢力だったが、国家の転覆、乗っ取りを図る勢力と、王家に忠誠を誓う勢力が存在した。やり方に不満を持った反主流の王家派は反旗を翻す。これを機に騎士団は分裂。事実上騎士団同士の争いへと変質していく。

 重要なのは、王族の血筋が現王、つまりラビーナ姫の母親と姫のみになっていたことだ。姫の父親は豪族ではあったが王族ではない。しかし、奥方は逃亡生活から既にこの世になく、王位継承権は姫のみに残された。


 聖竜海賊団を名乗る船長の野心は頂点に達した。現王との利害が一致、神竜騎士団の反主流派と合流、勢力図はここに完全に対等なものとなる。事態は膠着状態へと入った。しかし、正当性は反主流派、つまり姫を擁する現王と海賊団の側にある。


「今思えばここが分岐点だった」


 もし主流派が折れていたら、外敵に攻め込まれる事態にはなっていなかった。王国の内乱に乗じて侵略を始めた外敵の存在に慌てた騎士団は、かつての仲間との和平交渉に臨む。姫を正統な後継者として認め、暗殺事件は不問にすることを条件に両陣営は和睦した。身内同士で争っている場合ではない。


「簡単に仲直りするんだね」

「負けたら奴隷だからな。政権奪取の喧嘩だと思ってたら本格的戦争になってびびったんだろう」


 私達はそんな感想を話し合った。

 そして、ここからガルさんの無双が始まる。船長は(おか)へと降り、新たな船長として「騎士団」の人間も従えて外敵を迎え撃ち、さらに殲滅するべく攻め込んだ。――この状況でも姫は海上での逃亡生活を強いられていたらしい。まだ暗殺の危険があったのだろう。ガルさんはそう厳しい顔で零した。

 あらゆる敵を粉砕し(大体一人で)暴れまわるガルさんに、騎士団出身の連中も心酔したのだという。何より、これ以上仲間を失いたくないという彼らの言葉が重かった。

 気がつけば騎士団の人間は粗野で乱暴な海賊のように、海賊達は規律正しい騎士団のようになっていく。お互いが影響しあい、外敵を粉砕する任務は遂げられた。――変わったというのなら、ここだろうとガルさんは言う。

 問題はここからだ。外敵がいなくなるやいなや、かつての主流派がまたもや国家の乗っ取りを図る。事実上、王のいない状態に危機感を持ったガルさん陣営は、姫の父親、つまり現王を王位に就け正当性を主張。こうして、ガルさん率いる王家と神竜騎士団が正面衝突し、当然ガルさんにぶちのめされる。


 しかしこれは、身内同士の殺し合いでもあった。どれだけ仲間を殺せば(ガルさんが殺すのを見ていれば)いいのだ。そんな空気が味方に充満していたという。

 内乱後、神竜騎士団主流派は壊滅と同時に、騎士団ごと解散。新たに聖竜騎士団が発足。騎士団長は言うまでもなくガルさんだ。誰からの反論もなかったという。

 船長は貴族の身分を手に入れ、悠々自適の老後を過すべく、姫君の後見人へと納まる。――さっき死んだ老人がそうだ。ガルさんが苦しげに呟いた姿は忘れられない。

 聖剣士の称号は元々は神竜騎士団のもので、ガルさんが受け継いだ。将軍職も元船長の計略で気がついたらなっていた。おかしなことに海軍の総司令官も命じられ、形式的なものも含め軍権はガルさんに集中する。


「現王は王家の人間ではない。摂政では説得力に欠ける、そういう流れらしいが、事実上一度王朝は終焉している」

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