6.佐々木再び6
もうこの中にラスボスはいない。それどころか何も存在しない。あるとすればアイテム系ぐらいだろう。
信じるに足る理由は、ザルギインから得た。
「お前、一体どこまで把握してるんだ」
不気味さからくる疑念、そんな問いかけは、
「ん? なんだ急に」
「いいから答えろ。世界の何を知ってるんだ」
「何を言っているのか、知ってることしか知らん。当たり前だろう」
煙に巻かれた。
ロウヒとは違う。彼女は別格だ、それは間違いない。それでもやはり、こいつが特別なのは認めざるを得ないのか。
「しかしこれじゃ出られない。リスクが高過ぎる。キリア君も空振りに終わって残念だろう。いや、一対一はさすがに危ないから良かったのかもしれない」
ハッキネンが話題を変えたことに些か思うところはあったが、確かにその通りだ。
現状、ラストダンジョンの仕様を確認するなら自身で試すしかない。
ラスボスは外、ここはラスダン、外に出ようとすれば道中での戦死扱いになる可能性あり。そして、外部と連絡が取れない。
いや、それだけは違う。安全が確保されているなら出来る。
「そうだ、外だと確定したなら戦死者が出るかもしれないって話、これも問題だね」
ハッキネンは誰かを心配するより、少し口惜しそうだ。外なら強制ソロに縛られない。これが最後のトカレスト、と覚悟して挑む必要がない。
そう考えれば少し救いはあるか。
「まだ出てなければいいけど、確認取るかい?」
「ええ……そうですね」
考えることは多いが、一つ結論が出たのは歓迎出来る。私は意味あることをした。これを外部に伝えれば皆の士気も上がるだろう。
だが、頭は違うことを考えていた。
ザルギイン、クロスター、冥府、そしてこの状況。
時間をつくり、今一度じっくりと思考を巡らせる。
私は、私は責任を取るつもりできた。
その責任の一端は果たせたと言っていい。
なら、ゲーマーとして、トカレスト最強プレイヤーの一角としてやることは一つしかない。
「ハッキネン、ここを出よう」
吹っ切れた姿に、ハッキネンだけでなくなぜか二人まで意外そうな顔していた。
「いや、戦死扱いがあるだろう」
「そんなの問題じゃないですよ。前提はもう壊れてる」
一生ここにいるつもり? と、続けても良かったが言うまでもない。
「確かに、出ないと話にならないか。けど僕らが入った場所はなあ……」
モンスターの群れが待ち構えている。ザルギイン自慢の兵団は壊滅し三人は逃げるしかなかった。今のハッキネンの実力は正直分からないが、ソードマスターは集団戦に向いていない。戦国武将というよりそれ以降の侍が原型となっているからだろう。
ザルギインは防御力こそ高いが攻撃はそうでもない。
クロスターの詳細は分からないが、モンスターを吸収したり従属させる力を持つ。
なるほど、躊躇うのも分かる。
それでも道は一つしかない。
「ザルギイン、お前も出たいだろ」
クソ野郎の面に向け問いかけると、
「口の利き方に気をつけろ」
聞き慣れた台詞が返ってくる。
「出たいと言え」
「口の利き方に――」
同じ台詞を繰り返しそうなところで、
「そんなにここで死にたいのならそう言え」
割り込み強い視線を向ける。
「丁度いい、ここなら誰にも邪魔されない。地下都市でお前を見逃したのはガルさんの顔を立てたからだ。時期が来れば端からやるつもりだった。お前だって私を殺したいんじゃないのか?」
私はお前を許さない。クロスター、お前もだと視線を送る。
一連のやり取りを聞いていたハッキネンは露骨に顔をしかめた。こうなるかもしれないと懸念していたのだろう。
クロスターは私ではなく主を観察している。判断を下すのは彼の役目ではないらしい。
そして当人、かつて覇王と呼ばれたザルギインは見下す態度こそ崩さなかったが、うんざりと言った表情を浮かべた。
そして相も変らぬ口調で述べる。
「変わらんな貴様は。出たければ勝手に出ればいい。なんなら手を貸してやってもいい」
予想通り。認めたくはないが、やはりこいつは特別であり特殊だ。
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