5.佐々木再び5
でも今はそれはいい。ザルギイン含め叩きのめしてやりたいのは山々だが、目的が違う。口惜しいが気持ちを切り替える。
「で、いつここに入ったの? 何してたの」
「ああ」とハッキネンは頷いて、
「避難したのは昨日の昼頃だ。あまりモンスターもいなさそうで、入口を塞いでからは結構のんびりしてたよ」
「そんなはずない」
「うん、まさかラストダンジョンだとは思ってなかったからなあ……だからなんか凄い混乱が起きてるなと、僕らはそれを観察してた」
「だからたぶんそれは……」
「そう、君が送り込んだモンスターかは分からないけど、モンスター同士の乱戦になってた」
問題はその先だ。
「で、ラスボスっぽいのはいた?」
「いやさすがにそれは分からない。自覚がなかったからね。冥府だからいつものことぐらいに思ってたよ……」
ハッキネンは終始ばつが悪そうだ。負けた挙句、こいつらといるところを私に見られたのだから当然か。多少同情していると、
「ラスボスというのはなんだ。神話の存在か何かか」
ザルギインが口を挟んできた。
「お前は黙ってろ」
思わず反応すると、
「その手の手強いのならたぶんいないぞ。なあクロスター」
「いやだからお前には聞いてない!」
「そうでしょう。我々が狩った中にそんな上等なものはいません」
は? 狩った?
咄嗟にハッキネンを確かめると、露骨に視線を逸らされた。
「ああ……そういう、そういうことか。なんかおかしいと思ってたんだ。嫌な予感がしていたというか、手際が良すぎるというか」
呆然と立ち竦んでいると、
「何をそんなに落ち込んでいる。先に送ると伝えなかったお前の落ち度だろう」
ザルギインは平然と言い切り、続けて、
「お陰で我が配下を補充出来た。褒めてやる。褒美が欲しければ言えばいい」
上から嫌味を被せられた。
みんなで苦心して集めて、送り込んだモンスターをやったのはこいつら。
私がここに独り来ざるを得なくなった原因もこいつら。
こいつらこいつらこいつらこいつら!
頭が沸騰し飛び掛かろうとしたその時、ハッキネンが身体を張って私を制止した。
「お、落ち着いてくれ。最初のは僕らじゃないんだ。あくまで第二波を仕留めたというか頂いたというか――」
「同じでしょ変わらないよ! 私が、私がどんな覚悟でここに来たか!」
そんな感情の爆発は、
「知らんよそんなもん」
ザルギインに逆撫でされ、明確な殺意の芽生えを自覚した後、
「そもそも残っていたモンスターは全て頂いた。ラスボスとやらは外にいることが分かって良かったじゃないか」
急激にしぼんだ。
……言われてみればそうだ。こいつらでラスボスを狩れるわけがない。沈黙の檻が出来上がりそうな瞬間だったがハッキネンが割って入る。
「入った所は塞いだんだ。そもそも敵もまだ外で待ち構えているかもしれない。だから他の出口を探そうって、このダンジョン内はまず全て捜索したと思って貰っていい」
「その際全て回収したよ。出口は明確に一つある。そこから出ればいいじゃないか。ま、私はあちらに用はないが」
この瞬間のザルギインは、いつもの雰囲気と明確に異なっていた。
言外に匂わせている。
彼らは出口があるのにそこからは出なかった。
なぜか?
地上に用がないのは事実だろう。
だが違う、安全を取るなら使えばいい。
でも出来ない理由があったのだ。
こいつは――ここがラストダンジョンであると認識していた。
もしラスダン入口からハッキネンが出ようものなら、道中での戦死扱いになっていた!
どうしてだ、ザルギインはロウヒに近い存在なのか?
分からない、分からないがたった一つだけやはりはっきりとした。
ラスボスは外にいる。
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