第三十二話:対立
そうだ、失敗にばかり気を取られていたけどもし外なら洒落にならない。とんでもない怪物を解き放ってしまったかもしれないのだ。ルート固定の次はラスボスの開放……これはまた敵が増える。頭がクラクラしそうだ。けど、相沢とラカンの感覚は違った。
「あーそうね、そうかそれで確認出来る」
「戦死者名簿が更新されたら、外だ。当たり前だが」
「で、更新されたのかい?」
「いや」
なんだ、つまらないといった顔の相沢を、
「君は正気で言っているのか!? もし人が死んだらどうするつもりだ!」
ラカンは面罵した。それでも彼は動じない。
「どうって"ああ外なんだ"と思うだけさ。場所を確認出来たらそこに行けばいい」
「お前!」
「お前呼ばわりはよしてくれよ」
「逆の立場になって考えろ! いきなりラスボスに襲われて納得出来るのか?」
「さあ、しないと思うけどなってみないとね」
「待て待て待て待て」
また神崎が仲裁に乗り出した。確かにこれでは口論が続くだけだ。何よりラカンの言い分は人としてもプレイヤーとしても正しい。ただ我々は特殊な状況下にあるので、相沢やゼイロが間違っているとも言い切れない。というか私は犯人だ。
ラカンは詰め寄るように言う。
「キリアさん、情報を公開すべきだ。そこらのモンスターにやられるのと、ラスボスに襲われて戦死するとは雲泥どころの差じゃない。知ってるだろう?」
「何を馬鹿な」
「馬鹿とはなんだ!」
相沢に一蹴され、ラカンはヒートアップして掴みかからんばかりだ。いやちょっとやめて欲しいんだけど……。
「落ち着いてくれ。相沢さんもちょっとクールダウンしよう」
神崎は再び間に入るが、
「俺は落ち着いてるよ。それよりリーダー、さっきも言ったけど内部の私信と外部とのやり取りを禁止して欲しい。リーダー権限で設定出来るはずだ」
相沢は取りも直さずマイペースで新たな提案を押してきた。しかしこのタイミングか。いや確かにラカンの勢いはまずいが……。
「仕方ないな。この状況を知られたら俺らのアドバンテージが失せる。賛成だ」
「おいふざけんなよ!」
ゼイロの意見表明でラカンが更に燃え上がった。この人こんな熱血漢で正義感が強い人だったのか。意外過ぎる。そんな荒れた場に、今度はヤマが割り込んできた。
「待った、とにかく状況を確認すればいいんっしょ? タツタ、行くべし」
「は? 僕にやれと? いいけど弱いよ……」
話を振られたたっくんは気持ち抵抗を見せたが、結局ヤマの勢いに押し切られ一人輪から離れていく。確かに彼はブリーダーでモンスターを持っている。それをラビーナに譲ればとりあえず入口付近ぐらいは確認出来るだろう……。
「すぐ出来る対処としては妥当だね。リーダー早く私信と外部連絡の禁止を」
「ありえん! 君はそれでもプレイヤーか!」
動きはあったがまた相沢とラカンが揉めだした。相沢は情報の遮断を、ラカンは警告を出せと言っている。こんなのどうすりゃ……そもそもなんでこんなことに! ああもうっ! 頭を抱えるとはこのことだ!
[佐々木、リーダーの権限を俺に寄越せ]
怒りと困惑が頂点に達する寸でのところで、俎上の私信を近藤が送ってきた。
[何急に、いいけどリーダーやんの?]
[今だけな。ガラじゃないけど、この状況なら俺が適役かもしれん]
「リーダー、これが出来ないのなら俺は降りるよ」
「勝手にすればいい。だけど、情報を公開しないのなら僕も降りるからな」
相沢、ラカン共に譲る気配はない。二人のやり取りを見て神崎も頭を抱えている。完全に意見がぶつかってしまった。どこかに歩み寄る余地はないのか。たっくん次第で結論は先延ばしに出来るが、結局どこかで折り合いを付けないといけない。ダメだ、面倒なので近藤に押し付けよう。
[任せた]
[任された]
パネルを操作し、私の権限を全て近藤へと移動させた。
近[皆さん、今外部連絡と私信を禁止しました。異論がある人は意見を。今は俺がリーダー権限を持ってるので]
「ふざけるなよ!」
「おいやめろ」
近藤の判断にラカンが反発するのは明白だった。神崎がラカンを止めているのもまた当たり前である。彼はこの話を降りるつもりはないようだし、近藤と敵対するリスクを背負う気もないのだろう。それでも一人離脱者が出れば全てご破算だ。近藤の奴どうするつもりなんだ?
「君らそれでも人間か! 僕は人間だ!」
ラカンは高らかに人間宣言を行うが、
近[それより横山さん、クリードさん、時長さん議論に参加しませんか]
「おい! それよりってなんだ! お前ら世界を壊す気か!」
近藤はどうも相手にしないことにしたらしい、大丈夫なのか……。
「ん、時長さん来てるの?」
「分かんない。いつからだろう」
ドコちゃんと私は顔を合わせ首を捻る。
近[入口から何かが噴出した時にはもう来てたよ]
へえーと二人で一応納得するが知らなかった。二人して周囲を見渡すと、かなり背後で美女がポツンと佇んでいた。光沢のない地味なレザードレスをタイトに着こなしている。腕組みをし、細い目で眺め、参加したくないといった雰囲気を醸し出ていた。




