第二十七話:異変
変化が見て取れた瞬間には、もう次の事態へと移っていた。
深い闇は拡大し、正に爆発したかの如き勢いで轟音と共に何かが飛び出す。
「退避! 防御しろ手を出すな!」
腹の底から声を出し異変への対応を指示する。
「なんだ!?」
「ちょっと待て!」
「どうなって――」
そんなメンバーの声をかき消しラスダンからは噴出が続く。闇から飛び出るどす黒い何か。勢い凄まじく、一面覆われ皆の姿が見えなくなる。私は背後に飛んで下がり、地面に這いつくばるよう姿勢を低くする。
異変は上へ上へと向かっていた。広がり上へと飛び去ろうというのか。それとも押し出されただけなのか。地面にへばりつき、確認のため顔を上げると痛みが走った。
くそ近過ぎたか。いやこれ以上は離れられない。耐えるしかない。じき終わるはず、いつまでも続かない。
キ[耐えてくれ]
チーム内のチャットに書き込むが見てくれただろうか。反応はない。それどころではないか。否、大丈夫。この程度でやられる彼らではない。
今時間にしてどれぐらいだ。分からない。轟音は鳴り続け、何かが身体にぶつかり、時に切り裂く。
待ち続け今度は耐え続ける。
それもこれも全て必要と判断した。
避けては通れないと。
――とはいえ、長いなおい! いい加減に!!
雄叫びでも上げてやろうかと思ったその時、黒い光景が薄く、徐々に失せていったのだ。
「来た!」
這いつくばったまま周囲を見渡し異変の終焉を確認。すぐさま、
「みんな大丈夫か! 来るぞ次だ! 準備しろ!」
掛け声で指示を出しエネさんに連絡。
[来ます、頼みますよ!]
ワンボタンでヴァルキリーの正装へと着替えを済ませ、再びラスダンと向き合い睨みつける。「うう……」と声にならない呻きが聴こえたが、ダメージを負ったのか? まさか、そんなヤワな連中でもあるまい。
「なんなんだ一体」
「痛い、黒い、うるさい、のは終わり?」
神崎とラカンは無事。他のメンバーもかなり退避した者を除けば近くに残っている。遠くに逃げたのはロナとサキか。相沢とゼイロは無傷らしい。クリードに至っては、前に出たまま一歩も下がっていない。大したもんだ。
「しゃんとしろ! 戦闘準備だ!」
ふらふらのメンバーに発破をかけるが神崎は、
「何を急に」
「今のはなんだ、説明求む」
ラカンと共にまだ立ち直れていない。ったく、魔導士ってのはなんでこう。
「いいんだ、お楽しみの戦闘だよ。さあ早く!」
笑みを浮かべて見せたが、二人にはピンと来なかったらしい。まあいい、嫌でも理解する。準備だってちゃんとしたんだ。大きく息を吐きその時を迎え撃つ。気合いのノリも、覚悟の程も、
「ふうん」
悪くない、いい感じなのだが……相沢か。なんだふうんって。いや、気に留めるようなことじゃない。終わらせる、その時アンタがどんな顔をするか……どうでもいいな。
――時計の針は動き続ける、時は歩みを止めない。それはどことて同じ不変の法則。
だが世界は変わらない。
そう世界が変わっていない。
……ん、あれ?
気が付くとメンバーに取り囲まれていた。




