第二十二話:取引2
一つ目の可能性が低い以上……だがこれは言えない。ピナルに言えないではなく、エネさんに言えないのだ。近藤も「直接話すから、お前は触れるな」と言って来た。
「最初は何それ? って思いましたが、等々力さんの許可さえ取れれば、私は取引に応じます」
気持ち低いトーンだったかもしれないが、私はエネさんを疑っていない。
「支援物資付きですし、僕もそれでいいと思います」
「お二人がそう言うなら」
ピナルは自分が口を出していいことなのか、と遠慮がちにしていたが、エネさんは微笑みで応えた。話し合いに参加出来たこと、我が師に認められたことをピナルは素直に喜び、頬を染めている。愛らしい。なんだろう、心がくすぐられた。
「ピナル"何それ?"って二回言って」
「……? 何それ、何それ……なんですかこれ?」
「うーん、もっと棒読みで明るくハキハキと"なにこれ"と二回言うんだ」
「キリアさん……」
エネさんは抗議の声を上げたが、ピナルは首を振った。
「いえ、師匠大丈夫です。よく分かりませんが、やってみます――なにこれなにこれ!」
「よし、君にアニマルガールの称号をやろう!」
「ありがとうございます!」
ああ……私何してんだろうと思う。エネさんも冷たい目で私を見ている。ピナルは「で、アニマルガールってなんですか?」と素直に尋ねてくるが、笑顔だけ返す。いいじゃない、平和で。人を疑ったりせず、平和平穏であることが、一番幸せなのだ。心底思う。むしろ、そうだろう? 穏やかな気持ちに包まれた刹那――、
「貴様らは、私をよく働くメイドだとでも思っているのか……」
振り返ると、ラビーナがダークオーラを全開にしていた。どうやら私の頭は平和過ぎたらしい。
パッチワークみたいなモンスターが出来上がる頃、ラビーナの疲労は限界に達していた。砂漠にテントを張り、彼女は横たわっている。因みに私は自発的に正座している。
「申し訳ございませんでした……」
土下座して頭を下げるが、
「加奈、私もう限界。後はそっちでなんとかして」
「無理だ! 私はヴァルキリーで腐霊術なんて使えない!」
「疲れたし、もう嫌、あなた達には付き合えない」
拗ねている……。どうしよう、せっかく仲直りしたのに。二人に助けを求めると、エネさんが口を開いた。
「僕は何もしてません」
貴様裏切るのか!?
「アニマルガールの称号は返上致します」
ピナルまで! よく出来た師弟だな、くそう。誰も私の味方をしてくれないのか、ふざけるな座長だぞ! と憤っても仕方ない。機嫌を直してもらいたい一心で、
「パフェを奢ろう……今なら港町アレキサンドリアも人でごった返している。まあバレない」
「……実家に近いからヤダ」
そうだった。もう、あの港町引っ越さねえかな!
「絶対バレないしガルさんは今謹慎食らってる、大丈夫だ。ティラミスも奢る、ミルフィーユも付けるから……」
尚も食い下がるが、
「で、私はそのセイレーンに会えばいいのね」
「パンケーキの美味しい店も探しておく……ん?」
ラビーナは私を意識の外に置くことにしたらしい。清々しい程に無視されている。
「事が終わった後での話ですから、気にすることばありませんよ」
エネさんが冷静に返し、
「そうです。ラビーナさんが気にすることではありません。及ばすながら、私も同道します」
弟子ピナルも意を一にする。
「そうね、ありがとう。疲れたから、寝てもいい?」
「構いませんよ。今日はこれで終わりです」
「お疲れ様です。いつもの場所までお運びしますね」
「あんな継ぎ接ぎだらけのモンスターになって、役に立つかしら」
「それはまた後日確認しましょう」
「ゆっくり休んで下さい」
「ありがとう……」
私を抜きに、話が終わってしまった。
「では師匠いつもの場所に」
「うん」
「キリアさん、例の物を受け取る際は僕もご一緒します」
真面目な顔のエネさんはそう言うが、
「ええはい。しかしエネさん、裏切りがお得意ですね」
嫌味を込めると「まさか」と笑われた。




