第九話:佐々木加奈の苦悩
深く考えたわけではない、意見を聞きたかった。背中を押してくれるなら、快く送り出してくれるなら、それでいいとも思っていた。
最期の別れにするつもりは、なかったのだから。
「私の旅は、あなた抜きでは語れない。ガルさんとあんなことになって、どうするつもりなのか。本気でガルさんを殺る気ならそれもいいだろう。だけど、違う可能性があったっていいはずだ」
それが私の物語。
取り戻せない、相容れない二人を見守る物語。
「私は見守ることしか出来ない。"アンタどうすんの?"って何度も聞いたよね。正直、いつかとっ捕まるんじゃないかと心配してたりもした。いや、これも言ったか、何度も。
けどあのおっさんは、最後の最後までダラダラと見張ってるだけだった。理由は分からないけど、グダグダじゃないか。だったら私が口を挟んだっていいだろう? どうせ何もしないんだから」
ラビーナ・ガルバルディルートに固定したのは私だ。私の行動で確定した。選択したわけではないけれど。
「あの日……私があなたにオーブを見せたのは、端的に言えば相談であり、場合によっては選択肢の提供だ。あなたなら"物の真贋"を見抜くことが出来るかもと考えた。
言うまでもなく、あの得体の知れないオーブを使えば、あなたが人間に戻れるのではないかと期待してのことだ。もし人間に戻ることが出来れば、過去の行いはともかく道が拓ける」
あの場にいた人間が口裏を合わせれば、真実を闇に葬れば、全てなかったことに出来れば……全く別の可能性が見えてくる。宮殿イベントの時点で提案はした。また機会がくるとは、思いもよらなかったが。
「嗚呼だけど、全くもって、私は浅はかだった……単純馬鹿な脳筋最強プレーヤーだった。なんせ、見せた途端話も聞かず全力で逃げられるなんて想像だに出来なかったもの!!」
だがあの瞬間、オーブの力は証明された。ザルギインですら否定した可能性を、私は手に入れた。本物だ。絶対に絶大な確信が付いてきた。
そして思い知らされた。この娘は本気なんだって、どこまでも本気なんだって。国に戻って、父親に謝って、ガルさんと和解する……そんな人生、これっぽっちも求めていないってことに。
「誓って言うけど、無理強いするつもりなんてなかった。人間に戻るべきだなんて、諭すつもりもなかった。ただ確認したかった。でも、今思えばそれすら失礼な話なんだよね。覚悟の程を察することすら出来ていなかった、私が悪いんだ」
未だに戦おう、可能性を模索しよう、あの化け物を倒そうという執念には恐れ入る。
「もうなんの意味もないし、迷惑な話だろうけど、私は一緒に謝ることも考えてた。腹括ってたよ。もし父親やガルさんが、謝罪を受け入れないというのなら、一戦交えることも辞さないつもりだった。全部、私の独りよがりだったんだけどね」
あっという間の出来事だった。物の真贋は判明したが、私はあの一瞬で、友達を失った。トカレストでただ一人、心が許せる人を失った。
だからって、何も終わってはいない。
物語は終わらない。
孤独だろうが残酷だろうが、終止符は打たれない。
何より、ここからが本題だ……。
重くなった目を、奥へと向ける。
ほんと、何も見えない。
あの娘、ちゃんと聞いてくれてるのだろうか。
不安も過ぎるが、ここには二人しかいない。
聞かないわけにもいかないだろう。
私達の間にある暗闇を取り除くには、私の中にある暗い影を消し去るには、話を先に進めるしかない。
「あなたと私の間で起きた誤解が、少しでも解けていることを祈るよ」




