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トカレストストーリー  作者: 文字塚
最終章:壊れいく世界の中で
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第五話:閉ざされた戦場2

 王都ジェダの一件を知っている私には、相変わらずの近藤だ。自信もあるのだろう。けれど、周囲のメンバー達から息を呑む音が聴こえてくる。

「マジか?」とゼイロは零し「性格悪っ!」とドコちゃんは吐き捨てる。

 相沢とクリード、その他のメンバーは黙ったまま、モニターを注視していた。


『命令出来る立場にあると言いたいわけだ』


 搾り出すように応じたナイトを見ても、


『そうだよ』


 近藤はいつものまま。


『嫌だね。その自信は過信だ。はったりとも言うな。フィールドを閉じたのが証拠だ。要するに――』

「違う、時間稼ぎではない」


 思わず口にしてしまった、相沢はそんな顔で苦笑している。


『どうでもいいけど、そう思うならさっさとやろうぜ。戦争の時間だ。なあ、ところでだが――』

「なぜ、仕掛けてこないのか」


 ここでまた、相沢が反応すると、クリードが拾い上げた。


「自信がない」

「そうだね。それに情報も足りない。子供達がやられた映像だけでは、彼の実力は測れない」

「どっちにしても無理だ。言うとおり、命令に従った方がいい」

「自殺しろと?」


 クリードは躊躇いなく、首を縦に振っていた。


『なあ、なんでやんねーんだ。俺はお前らと議論はしない。話し合いはしない。ちなみにお目当てのあいつも、話し合いには応じない』


 また勝手に……と言いたいが、確かに彼らとは話し合えそうにない。


『あいつは議論が苦手なんだよ。話し合いとか出来る頭持ってねーから。無理無理、さっさと死ねお前らは』


 こいつやっぱり殺す……!!


『どうしてもやるつもりか……』

『経緯考えろ。物言える立場かテメーらは』

『……気づいてるさ。ここは、これは強制戦闘だな?』


 その一言で、ハッとしたのは自分だけではないらしい。メンバー達も確認のしようがない。だが、当事者達は慌しくなっている。

 擬似戦闘のPvPなら今までだって可能だった。多少痛い目をみさせるだけなら、出来ないわけでもない。さっさと落ちてしまえばそれも叶わないが。しかし、強制戦闘となれば話は変わる。実際、思わず怒り狂っていたシーフの男が、言葉にしてしまっている。


『な、何言ってんだ!? そんなわけな――』

『そりゃこっちの台詞だ! なんなんだお前らは? なんで諦められない? 金儲け自体そもそもギリギリの話だろ?

 いつまで過去にしがみついてんだ? 何もかもお前らに合わせろってか? 土台無理な話だ!』


 最早演技がかってると言ってもいいだろう。吐き捨てるだけ吐き捨て、あいつは呆れるよう、そっぽを向いた――その瞬間、無音の刃が近藤目掛けて襲い掛かる――。

 上空、地上、あらゆる角度から。

 ほんの一瞬しか確認出来なかったが、近藤の足元だけがぬかるんでいたように思う。



 ――全てが終わると、儀式が始まる。

[マップは大体頭に入りました。確認していないどこかに、ラビーナさんはいるはずです。今から戻ります]

[分かりました。あちらは終わったので、すぐ決めます]

 エネさんのメッセージに、辛うじて応じたのは私だけ。チーム内のオープンチャットなのだから、誰か返事してもよさそうだが、それどころではないか……。


「デバフが効いてなかったな。回避行動も予測して誘い込むように撃ったが、ありゃ速過ぎる」

「能力ダウンに地形変化……当然能力アップもしただろう。それでもこの有様だ」


 ゼイロ、相沢共に「まあ当然の結果だろう」といった顔をしているが、実際は釘付けだ。

 私は、哀れだな……と、素直に思えた。少しでも、彼らの度の過ぎた態度が抑制されていたなら、私は近藤を責めていたかもしれない。けれど、そうはならなかった。トカレストは実力の世界だ……知ったことではない。

 映像の中で、動いているのは近藤だけだった。


『よく避けたな、お前らは後だ。とりあえず、俺はこいつが気に入らない』


 そうして、アサシンがシーフの男へと近づいていく。終始強圧的でいた男は、もう呻くことすら許されていなかった。口が裂けているのだ。そこだけが、ぼかされている。

 顎にナイフを突きつけ、近藤は言う。


『おい、お前利用されてたことに気付いてるか? 他の奴らはかなり早い段階で、一戦やらかす覚悟決めてたぞ。お前知らされてなかっただろ?』


 すると、


『そうだねぇ、言ってなかったようだ。まあ私も知らされていなかったので、お互い様だが』


 画面から消えていた猫背の男が、近藤に近づきながら話しかけている。どういうつもりかと思ったが、どの道やられるのだから、考えても意味はないのか。


『まとまりのねえ連中だな。そういうもんか?』

『まとまりなんて端からないんだよ。君がやっちゃった中には、付き合いで来た者もいる。嗚呼、だから止めたんだが、容赦ないねえ』

『普通だろ、今となったら』


 苦笑する猫背の男を一瞥し、近藤は再びシーフに目を向けた。


『お前相手にされてなかったんだってさ。どうでもいいけど、どうでもいいよな』


 男三人の周囲には、頭部がぼかされたプレーヤーが映りこんでいる。範囲を広げ、引きの画で観れば、更に多く確認出来るだろう。

 近藤はまた殺さなかった。

 一部を除き、襲い来るプレーヤー達を、


「これってどういう状態?」


 ドコちゃんが疑問を口にすると、様式美かの如くクリードが応じる。


「死んでないのは間違いない。恐らくだが……」

「恐らく?」

「壊したんだ」


 頭部付近だけ、幾重にもバグが生じたような状態が映り込んでいる。

 あいつは一人も殺さず、頭部だけを破壊したらしい。

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