第二話:同調者達
「でも本当に近藤さん一人でいいんですか?」
私を見て、たっくんが疑問を口にする。自然、周囲の視線は私に集まった。あれは一人でいいんです、なんならあっこで死んでも構わない。と喉もとまで出かけたが、応えたのは元メンバーの面々だった。
「それっしょ。俺も気になってた。一緒にいた人なんで離れたんだ?」
独特な話し方の彼はヤマダ。ヤマ、ヤマタと呼ばれている。職業ブリガンド。ゲリラ兵士という意味らしい。何をしたらそうなるんだ。よく分からないが、とりあえず使い込んだ兵隊服のようなものが目立っている。
「元々キリアさんと組んでたんだよー半端ないでしょーむしろ半分でもいいぐらいじゃないのかなあ」
半分って、近藤を真っ二つに割るのだろうか。賛成だ。
今話したのは別所。ドコロとかドコなんて愛称で呼ばれている男性キャラプレイヤー。ただし中身は女。年は知らないが、旅団の人間には周知の事実である。彼女はパンプキンナイトという職業で、自らを野菜系と称している。野菜系ってなんだろう。とりあえず奇をてらった感のあるかぼちゃの鎧を着込んではいるが……。
「ヤマ、あいつが他の奴逃がしてたの見てねえのか? 一人でやるってことだよ。ドコロの言う通り自信あんだろ、あの近藤って奴は」
少し口の悪い彼はゼイロ。自信を付けたのか、数合わせと呼ばれていた頃とは違い横柄になっている。当時は相当ストレスを抱え込んでいただろうから、その反動なのか。なんにせよ問題はない。むしろ、皆あまり印象にないな……って私に問題がありそうだ。
そんなゼイロの職業はパラディン。自信を付けるのも当然か。正統派ナイト系最上位の存在。彼なりに工夫し、努力した結果手に入れたものは大きい。鋭い目つきになるのもなんとなく分かる。
ホークマンの横山はこのやり取りには参加しなかった。整った顔立ちに有翼人特有の分厚く隆起した肉体は、どうにも不釣合である。
一連のやり取りを聞き終えた相沢は、興味なさ気に身体の向きを変えた。
「あちらはあちらだね。何事もないに越したことはないですが」
妙な微笑が私に向けられている。どうも含みのある言い方だ。これは「どうせ何も起こらないのだろう?」という意味なのか「お手並み拝見」ということなのか。やはりだが、あまり親しくなれそうにはない。相沢は続ける。
「で、キリアさん、例のゾンビ……ラビーナというキャラクターはこの遺跡の中にいる。間違いないんですよね?」
私の名前はキリアで統一することにした。色々と名前を変えてきたが、佐々木はガチ苗字で都合が悪い。考えた末、最も長く使い馴染みのあるものを選んだ。まあ、陰でどう呼ばれているかはさっぱり分からないが。
相沢と視線を合わせ、
「ええ、間違いありません」
淀みなく応じると、彼はにやりと笑った。「どうしてそんなことが分かるんだ」と顔に書いてある。だが口にはしない、全く。
しかし私の返答に、その他メンバーは満足してくれたようだ。ゼイロなどは「話が早えな」と呟いているが。ただその中で一人だけ、冴えない顔を浮かべる者がいた。今回、突破口となるきっかけをもたらしてくれた人物だ。
皆満足してくれているようだが、疑問も抱いているだろう。
どうしてラビーナが地下遺跡にいると分かるのか?
それは私が異端のヴァルキリーであり、ラビーナとの付き合いが長いから。理屈で説明するのは難しい。ガルさんとラビーナだけは、空気で感じ取れる。感覚の世界だ。
だが"どうしてラビーナがここに来ると知っていたのか"となれば、話が変わる。私はそんなこと知らなかった。当然近藤も知らないし、エネさんも知らない。中村屋に教えて貰ったわけでもない。
"内通者"がいたからだ。
ただし、その内通者はあちら側――つまり今、近藤に絡んでいる(見方によれば絡まれている)側とも繋がっている。でなければこの方法は取れなかった。
『そもそもテメエになんぞ用はねえんだ。くだらねえ、行くぞ』
『いやですから、話せば分かると……』
『何も話してねえじゃねえかお前は!』
シーフ系の激昂に応じ、罵声や呆れた声が近藤に向け飛ばされる。『待ってくれ』とプリースト系が制止するのと『ちょっと待って下さいよ』と近藤が声を発したのはほぼ同時だった。だがそれで止まる状況ではないだろう。
「狙いはどこまでもキリアさんか……ですが、あちらは任せて構わない。ですよね?」
チラリと視線をモニターに向けてから、試すような響きで相沢は確認してくる。実際試されていると見るべきか。彼の性格もあるのだろうが、一連の計画とも呼ぶべきものはまだ話していない。
なんのことはない、どちらも腹の探りあいをしているのだ。
「気の毒な連中だ」
クリードがぼそりと呟いた。少しだけ視線向け顔を見てみたが、無表情だ。
「任せると言ってあります。それと、確かに気の毒ですね」
そう答え二人の反応を見たが、相沢は当然の如く受け止め、クリードは周囲の樹木と同様、何も変化を見せなかった。
「ではどうするか……ラビーナさんと共闘するのは当然として、どうやって接触します? 確か、あまり良好な関係ではないんでしたよね」
「その前に、他に出入り出来るような場所はないのか? 逃げられたらパーだぜ」
相沢の問いに、ゼイロが割り込んできた。しかめっ面で私達を見ている。勝手に話を進めるなというところか。正直少し躊躇った。私は以前、彼に対しどういう話し方をしていたっけ? ええっと……。
「ないでしょう。向こうもこちらには気づいているはずです。本来なら気づいた瞬間逃げ出すはずが、留まってますし」
慌てて応じた結果、何故か丁寧語になってしまった。しかし、ゼイロは特に違和感を持つこともなかったようだ。続けようとしたが、向こうは気がはやっていた。
「じゃあさっさとやろうぜ。なあみんな、誰がいいと思う?」
「相変わらず口の悪い野郎だなあ」
堪らずたっくんがたしなめるが、ゼイロは「うるせえよ」と相手にしない。
ここは私が仕切るべきだし、仕切れと言われてもいるのだが、どうにもそういう役回りは苦手だ。それに急かされても困る。
かつて旅団のメンバーだった五人はあーだこーだと言っているが、相沢は煮え切らない私を様子見している。クリードはモニターを見つめ、時長さんは近づいてすら来ない。
私の心境としては、少し時間が欲しい。ラビーナと会うのは久しぶりで、しかも大切な話が……複数ある。近藤は気楽に言ってくれたが、いざとなるとそうそう踏み出せないのだ。大体あいつのことはもう信用してない。
せめてまとめ役ぐらい誰かが……仕方なく中の様子を探ってから、と提案しようとした時だ。
「戻りました。あれ? なんだ、あいつまだ戻ってないんですか」
エネさんの声が聴こえたのは。
ピナルを従えゆっくりと近づいてくる。
皆の視線は、二人へと注がれた。




